2010年1月29日金曜日

浅井さん(仮名)が銀座へ!

 7月のある日、悩めるキャリアウーマン・浅井さんからメールが届く。内容は下記の通り。
 「ついに行ってきましたよっ! 銀座へ!」

 おお~、これは! ランチタイムは終わっている。
 こんなメールを読んだらいてもたってもいられないではないか!
 速攻で内線する。今私たちは同じビルの2階と3階の勤務なのだ。

「ちょっと何言われたの?」
「うふふ、聞きたいでしょ」
「ちょっと顔貸しな!」
「いくらでも♪」

 ということで社内の空いている会議室を求めてさまよう私たち。う、こんなときに限って会議室もブースも空いてない!
 仕方がないので会社の近くをウロウロと歩きながら話を聞くことに。(←仕事しろよな!)

「で、どうだったの?」
とせっかちな私。さあ、早く結果をお知らせ!
「うーん。微妙ですね」
と浅井さん。
「なんかね、2万円払ってもったいないってことはなくて、特に嫌なことを言われたわけじゃないんだけど、清永さんが言われたみたいに、こうです、ああですっていうのはなかったんですよねえ。悪いことも起こらない代わりにすごくいいこともない感じ」
「ほう~」
「彼氏についてもね、そのまま付き合っててもいいって」

 浅井さんには一度破局したあと遠距離になってしまい、そのあとなんとなく復活してしまった相手がいる。
 会えば楽しい相手らしいが、なんだか煮え切らなくて、結婚願望のある彼女に対してのらりくらりとかわしているらしい。
 そこが原因で別れた相手である。結婚願望のある女子としては、そういう相手をハッキリ彼氏とカテゴライズするには躊躇してしまうだろう。
 そうなると当然のなりゆきから、じゃあ他にも目を向けましょうということになる。
 
こういうのを二股をかけようとしているとか、ずるいという潔癖症の向きもあろうが、当たり前だっちゅうの!
 猿だって次の木に移るときには、新しい枝を掴むまでは今掴んでる枝から手を離さないものだ。
 また真冬に新しいコートを買いに行くときに、古いコートを捨てる人はいない。
 といろいろ屁理屈を述べてみたが、出会ってナンボの婚活だ。
 煮え切らない相手がいるぐらいのことでは、新しい出会いを妨げることはできない。

 しかし律儀な浅井さんは相手がいつつも、他に花婿候補者を探すことに良心の呵責を覚え、すっかりやり手ババアと化した私からいつも叱咤激励されている。
 根がマジメなのね。

「先生は例の彼はやっぱり結婚願望がないって。けど気まぐれだからどう転ぶかわからないけど、他を探しつつ、このまま付き合っててもいいって」
「なんだ、私と同じ意見じゃん」
「うーん。まさか占いで二股を勧められるとは・・・」

「他に何言われたの?」
「将来的には結婚も子どももできるみたいですけど、一番おやっ?と思ったのはね、9月頃に私に嫉妬している女性とトラブルになるかもしれないって言うんですよね」
「へえ~。心当たりは?」
「顔立ちがハッキリしている人なんですって。だから真っ先に清永さんですか?って聞いちゃいましたよ(笑)」
「何それ!」
「もちろん、先生は笑いながらそんなわけないじゃないですかって」
「ああ~よかった」
「本気で心配しないでください! でね、イラストを描いてもらったんですよ」
と一枚の絵を見せてくれる。
 うわ~、下手っぴ! 銀座の先生って今ひとつ絵心がなさそうだ。

「これ見て誰か思い浮かびません?」
 細面の狐顔だ。ちょっとミミズっぽい線の絵だけど、特徴は捉えている。悪女顔っていうんですかねえ。こういうの。キツイ感じの美人顔。これって・・・・・。

「Oさん?」
 恐る恐る名前を出す私。同じ社内の女性だ。
「やっぱり? やっぱり? 清永さんもそう思う?」
「うん。似てる。けど何か接点あるの? 仕事も全然関係ないでしょ?」
「まあねえ。実は心当たりがなくはないんですけどねえ。でも先生が言うにはトラブルっていっても大したことがないから大丈夫だって言うんですけど、ちなみに彼女の名前を出したら、そうかもしれないって。可能性はあるって言ってましたよ」
「ひえ~」
「とりあえず9月ですね」

 ということで果たしてOさんらしき女性と浅井さんが9月に揉めるのか、煮え切らない相手とはどうなっていくのか、今後の成り行きに要注意だ。

小説の行方は?

KちゃんとTちゃんとランチに行って会社に戻ると、T書店の本田くん(仮名)からメールが入っていた。
 営業とも話をしたので、会って話がしたいとのこと。
 翌日、会う約束をする。

 本田くんのオススメだという池袋の西口にある和食系のダイニング・バーで、ビールを飲みながら、本田くんが言いにくそうに本題に入る。
 こういうときに、きっと本人は自覚していないだろうけど、彼は独特の表情をする。
 たとえば何回かHをしてすっかりその気になっている女の子に対して、実は本気じゃないんだよとか、奥さんとか彼女から、ずーっと私だけでしょ?と迫られて、そんな確約なんてなどと切り出す前にするであろう(←あ、ごめん。喩え悪すぎ?)、照れ隠しの笑みが混じったような困った顔。
 そういうような顔を目の前の本田くんはしている。
 ただこの人は本気じゃない相手に「愛してるよ」と言ってみたり、「ずっと私だけ」と言われて、「もちろんだよ」という適当なことブッこいでんじゃねえよ!(←あらっ、失礼!)という腐れ外道(←これまた失礼!)ではない。

「営業がね、主人公に感情移入できないって言うんですよ」
 本田くんが切り出してくる。
 私個人としては、小説の登場人物にいちいち感情移入する必要があるのかと常々思っているので(←きっとこの点に関して、ある種の文学論争も成り立つであろう!)、主人公に感情移入できないって言われても、「はあ、それで?」というふうに思ってしまう。

「女性の営業なんですけどね、なんかバブルの匂いがするって」
 そりゃあ、私は花のバブル世代ですよ!(キッパリ)

しかし発展途上国の男と恋に落ちる話(←簡単に言えばね)のどこがバブルなのか?
 あと売れないバンドマンの彼氏とか。むしろ貧乏くさいのでは?
 きっと不倫相手(小説上のね!)とあれこれ飲み食いした話なんかからそういうイメージを持たれてしまったのかもしれないけど、そんなんでバブルくさくなるのか? 
 思わずどんな匂いがするのか自分の腋の下の匂いを嗅いでみる(←バカ?)。

 しかし、しかしである。出版社の営業というのは、無名の著者の本なんて興味がないのが当たり前田のクラッカー(←古っ!)な世界で、ましてや小説となれば、三重苦も四重苦ものハンディを背負わされているのは、とっくにわかってたんじゃないの?
 ちょっとそのあたりはどうなのよ。本田くん!

 「タイトルとか、結末とか変える気はないですか?」
 唐突に内容に関して話が流れていく。
 うーん、漠然とそう聞かれてもなあ~。
 いち営業が気に入らないからとその度に内容を変えているのじゃ、なんのこっちゃである。
 タイトルとか内容とか変えるのであれば、とことん詰めた話をして納得したうえでないとむつかしいのが人情だろう。
 具体的な話じゃないとねえ~。
 そう思う私は書く手としてのやりとりには素人なのかしら?

「フリーのね、編集者ですごく信頼している人がいるんですよ。できる人だから忙しい人なんですけど、その人に見せてみますか? T書店ではやっぱりむつかしそうだし、他でいいところがあるかもしれないし」
そうねえ。そのできる人とやらもどういう反応をするのやら。
あてにしないで待ってみることにしますか。