偶然、黒百合姉妹のJURIとお友だちになることのできた私は、その後姉のLISAも紹介してもらい、LISAともつるむようになる。
思ったとおり、好きな音楽も一致していて、CDの貸し借りをしたり、黒百合姉妹のほかのCDもいただいたりして(←「月の蝕」以外もものすごく良かった! 今でも全部愛聴盤になっている)、親交を温めた。
マガジンバトル後には私が所属していた音楽雑誌でJURIの連載も始めた。
そんなある日、彼女たちから黒百合姉妹のライブに出ないかと誘われる。
「いろいろと演出を考えたんだけど、やっぱりコーラスで参加してもらうのがいいかな」
とJURIが選んだのは、「ローリー」と「花」という比較的初期のころの作品2曲。どちらとも大好きな曲だったので、私は大いに張り切った。
だって大好きなバンドのライブに出られるなんて経験はめったにできないでしょう。
ところが、である。
私はLISAから特訓を受けていたのだが、どうも私が音痴であるということが判明してしまったのだ。
それまで自分が音痴だって知らなかったというのも間抜けな話だが、ひとくちに音痴といっても、誰にでもわかるひどい音痴だったわけではなく、どうも半音シャープの方向に音が不安定になるのだそうだ。
ところがその半音の違いが私には区別がつかない。
しかも私は大学時代にハードロックバンドでボーカルをやっていたのだ(←赤面モノだ!)。
もちろんロックでもきちんと音が合ってなければ話にならないだろうが、ギターの音だったりドラムの音である程度、ロックバンドのボーカルだとごまかせてしまう。
ロックで大切なのは何より勢いだったりするからだ。
しかし黒百合姉妹の音楽は違う。音の構成自体繊細だし、完璧主義者の彼女たちは妥協を知らない。
彼女たちの強烈な美意識は微かな(←私の音のハズし方は微かじゃすまなかっただろうけど!)ズレでも容認できなかったはずだ。
というわけで、私の黒百合姉妹ライブ競演は夢のもずくと化したのである。
JURIは何度も「ごめんね。誘っておいて」と恐縮してくれたが、とんでもない。音痴な私がいけないのだ。期待に添えなくて残念だったが、やっぱり黒百合姉妹には完璧を目指してほしい。
そんなこんなもありつつ、初めての出会いから3年ちょっと過ぎた1996年秋。
私は念願叶ってレコード会社の制作セクションへ異動になった。
異動になったセクションは「とにかく新しいものをやれ」という邦楽も洋楽も関係のない異例づくめの制作オフィスで、何を担当するかということまで白紙の状態だった。
たまたまその直前にモロッコ音楽にハマっていたこともあり、モロッコ音楽と黒百合姉妹の2本柱でやっていきたいと考えた私は部内で猛プッシュを始めた。
本人たちも私とならメジャーでもいいと言ってくれ、それだけ信用してくれているのだとうれしかった。
当時業界最大手のメジャーレーベルだった会社では、私の企画はぶっ飛びすぎていたらしく、大いに反響(←っていうか反感!?)を呼んだ。
モロッコ音楽では組むパートナーがいたので(←のち決裂)、ある程度形が見えていたが、黒百合姉妹に関しては完全に孤独な戦いになってしまった。
ふたつの企画を押して押して押しまくったが、辛うじてモロッコ企画だけが通り、黒百合姉妹の契約までこぎつけられなかった。
黒百合姉妹は売り方によってはミリオンいくかもしれない。
当時私は強くそう信じていたし、実はその気持ちは今でも変わっていない。
いったん引いて、モロッコに専念し、モロッコである程度の成果が上げられれば、次は再度黒百合姉妹。そう思っていた。
ところがモロッコ音楽自体も簡単には売れず、私はその部署自体を去ることになった。
このとき黒百合姉妹をデビューさせることができなかったことが、私の中ではトラウマとして残り、実はしつこく現在まで至っている。
前の会社を辞め、音楽業界から足を洗った私は、結婚もし、子どもも産みとまったく違う生活を始めたが、それでも細々と黒百合姉妹との付き合いは続いた。
新作のCDが完成するたびに送ってくれるし、何年かに一度はライブに足を運んでいる。
JURIが関西に引っ越してしまったこともあり、滅多に会えなくなってしまったが、相変わらず私は黒百合姉妹のCDを聴いているし、どうすれば黒百合姉妹が売れるかということを今でも考え続けている。
モロッコ音楽を作っていたときの経験を基にした「エッサウィラ」という小説を書き終えたとき、とっさに次は黒百合姉妹だと思った。
モロッコ音楽は限りなく実話に近いけど、黒百合姉妹の場合はまったくのフィクションにするつもりだ。
主人公はロリータになりきれない高校生の女の子で、黒百合姉妹の大ファンという設定で書き始めたのだが、頓挫した形になっている。
黒百合姉妹に捧げる小説を書き始めたことを、本人に伝えたほうがいいかなあと思っていた今年の6月のある日、何かお互い通じるものがあったのか、何年かぶりにJURIから電話がかかってきた。
ああ、私たちにはやっぱり何か目に見えない力で結びついているのね!
と妄想エンジン全開の私であった。
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