JURIからの電話の用件はライブのお誘いだった。あいにくどうしても抜けられない用事があり、ライブには行けなかったのだが、良かったらうちに遊びにおいでよという話になり、その週にJURIとLISAがうちに遊びに来てくれた。
夫をふたりに紹介するのは初めてだった。
ふたりの好きなワインやチーズを用意して、久々に楽しい時間を過ごす。
いっしょに食事をするのは8年ぶりぐらいじゃないだろうか。
ふたりとも出会ったころと見た目もまったく変わっておらず、その変わらなさ具合はまるで「15年間いっさい容姿が変わってはいけない」という契約をアメリカの会社と結んだといわれるプリンセス・テンコーを彷彿させる。
また博学で教養豊かな彼女たちとの会話は無条件に楽しい。
元々パンクで黒百合姉妹の音楽にほとんど興味を示していなかった夫も、すっかり彼女たちを気に入ったようだ。
「そうだ。黒百合姉妹が出てくる小説を書きたいんだけど、いい?」
「えぇ~、私たちどんなキャラなの?」
「黒百合姉妹はそのままで、主人公は黒百合姉妹のファンの子なの。できたら見せるよ」
「そう。じゃあ楽しみにしてるね」
それから1週間もしないある金曜日の夜、家の近所にできたペルシャ・レストランの様子を探ろうとそのレストランの前まで、保育園のお迎え帰りに子どもたちと寄った私はこちらに向かって歩いてくるLISAに出くわした。
「あれ? なんでこんなところにいるの?」
「あらあら、清永さんこそ。この前ね、JURIとお邪魔したときにペルシャ・レストランを見つけてね、ゆうさんも好きそうだと思って、また来てみたってわけよ」
LISAの横には華奢で上品な感じの女性が立っている。その女性は黒百合姉妹の母、ゆうさんだった。
「あ、ご無沙汰してます」
「お会いしたことあったかしら?」
ありますよ~。お母さん! と、いっても10年以上経ってるか。
「あ、奇遇奇遇。実は私もこのレストランが気になって様子を見に来たんだ~」
「な~んだ。相変わらず私たち気が合うわね」
「じゃあ、あとで合流しようよ。私たちも家族で出直すから。そのあとうちで飲もうよ」
「いいよ~」
そういうことで、黒百合姉妹LISAとそのママ&うちの家族で怪しげなペルシャ・レストランというおもしろすぎる展開に。
そのペルシャ・レストランはなぜかカーペットの上で靴を脱いで食事をするようになっていて、レストランのスタッフはダルビッシュ(!)さんというオーナー兼シェフ兼ウェーターただひとり。そして客も私たちのみ。
イランのワインを飲みながら、優しい味のするペルシャ料理を堪能していると、ダルビッシュさんが、「おいしいですかぁ~」とものすごく堪能な日本語で話しかけてきて、「ではライブを始めます」
といきなりあたり一面に見たこともないような楽器を並べ始めた。それもイランの古い楽器らしく、ダルビッシュさんがひとつひとつ楽器の説明をしてくれて、音も奏でてくれる。
食い入るように見つめる私たち。
一通り音を出したあとに、次々と楽器を変えながら吟じ始める。
ああ、素敵過ぎる光景。私は中近東系の文化が大好きで(←だからモロッコにもハマったのだが)、こういうエキゾチックなシチュエーションには大いにヤラれてしまうのだ。
子どもたちも目をキラキラ輝かせながら、聞き惚れている。
しかし関係ないが、うちの子どもたちはラッキーだ。小さいうちからこういった異文化のものにちょくちょく触れているのだから。
私の子どものときなんて、家で流れてたのは裕次郎とか青江美奈とかロス・インディオスなんかのムード歌謡一色だったぞ(涙)。
ダルビッシュさんが子どもたちにも小さな太鼓を持たせてくれて、やってごらんといっしょにリズムを刻み始める。
うれしそうに太鼓を叩き始める子どもたち。
「ふたりともリズム感いいねえ。上手だよ」
次第にリズムセッションのようになってきていて、時折ダルビッシュさんがリズムのパターンを変えて、変化球を投げてくる。
10分ぐらい太鼓を叩いたあとに、
「娘さんもリズム感良くて上手だったけど」
とダルビッシュさんは前置きしたあと、
「この男の子、すごいよ。音楽の才能、めちゃくちゃあるよ。お母さん、絶対にこの子にはドラムでもいいし、リズム感が最高にあるから、何かやらせてあげてよ」
と言うではないか! その後も何度も「いやあ~、驚いた」と繰り返している。
いやあ~、驚いたのはこっちだって!
これがもしかして、銀座の先生に言われた息子の天才ぶりの一環なのか?
片やLISAは弦楽器の方をしげしげと眺め、
「これいくらですか?」
と突然値段を尋ねる。
「私、買う!」
と言い出し、楽器の細かい解説を聞き始めるLISA。
ピアノではなく弦楽器! 黒百合姉妹の音楽にペルシャ楽器が導入される日が来るのか!と勝手に興奮していると、
「それはないから」
とLISAからあっさり否定された。
ペルシャ・レストランをあとにして、我が家で飲み始めた私たち。
黒百合姉妹もおもしろいけど、さすがこの娘たちにしてこの母、ゆうさんもめちゃくちゃぶっ飛んでいる。
ゆうさんともたくさんお話をして、その日も楽しく過ごした。
それから5日ほどしたあと、LISAから電話がきて、ゆうさんが関西に帰る前にもう一度うちに遊びに行きたいと言っているという。
ぜひぜひ来てくださいなということになり、LISAとゆうさんがやってきた。
もちろんこの日も話が尽きることなく、楽しい時間はあっという間にすぎていった。
久しぶりの黒百合姉妹だったが、6月は短期間の間にギュッと何年かぶりのご無沙汰を補うかのように黒百合姉妹三昧と言う贅沢な月であった。
それは満ち足りた時間でもあった。
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