早紀ちゃんがうちに電話をしてきて10日ほど経ったとき、本人がうちに遊びに来ることになった。
おばあちゃんちがたまたまうちから歩いて5分とかからないところにあったらしいので、我が家のあたりに土地勘のあった早紀ちゃんは、ワイン片手に「どぅもどぅも~」と言いながらやってきた。
子どもたちが、
「この人だれぇ?」
と寄ってきた瞬間、英語講師としてのスイッチが自動的に入ってしまうのか、
「ハロゥ~、エヴゥリワン! アイム・サッキー、ユー・マスト・ビー・A(娘の名前)アンドL(息子の名前)!」
と異様にテンションが高くすっかりネイティブ化する早紀ちゃん。久しぶりに早紀ちゃの英語聞いたけど、やっぱりうまいよなあ。それなのに、
「はあ? なんで英語しゃべってんの? 日本人なのに!」
と身も蓋もないことを言う子どもたち。
「キャン・ユー・スピーク・イングリッシュ? オッケー、レッツ・トーク・イングリッシュ!」
めげない早紀ちゃん。
「いいよ、日本語で(←言われていることはわかっている)」と娘。
「日本語しゃべってよ」と息子。
早紀ちゃんがどれだけ英語で話しかけても、全部日本語で返す子どもたち。
ガックリと肩を落としているところに夫が帰ってくる。
「ハァーイ、アイム・サキ。ナイスチューミーチュー」
と再び流暢な英語で夫に話しかけるものの、
「あ、こんばんは。はじめまして」
と夫からも思いっきり日本語で返されて、それでも英語で話し続ける早紀ちゃん。よっぽど英語が好きなんだなあ(←感心)。
早紀ちゃんも交えて夕食を摂り、子どもたちもお風呂に入れたあと、夫が外でゆっくり飲んでおいでよと勧めてくれたので、早紀ちゃん行きつけのロック・バーに出かけた。
その店はうちから歩いて5分ぐらいのところにあった。
カウンターだけの狭い店でカウンターの奥にアナログのターンテーブルが2台置いてあり、壁は一面アナログのレコードが隙間なくビッチリと置かれていた。
かかっていたのはシロい感じの80年代ロックが主でスミスとかアダム&ジ・アンツとかジョイ・ディビジョンあたりのイギリスのバンドのものが多かった。
そういった懐かしい音楽がそれほど大音量でもなく、いい感じで流れてくる。
この手の店に来るのはどれぐらいぶりだろう。
軽く音楽談義をしたあとで、本題に入る。
しばらくお互いの仕事の話を報告し合いながら、特にお互いが関わっている分野についての意見交換は、喧々諤々の議論になってしまった。
なぜなら早紀ちゃんが師事している団体のやり方と私のかつての上司、鋼鉄の女との手法は水と油でまったく合わないからだ。
早紀ちゃんが師事しているこの世界のカリスマおばあさんと鋼鉄の女は犬猿の仲で、特に鋼鉄の女は蛇蝎の如くカリスマおばあさんのことを嫌い抜いていた。
お互いがそれぞれから多大な影響を受けているために、今後のエデュテイメントのために何か考えるという話にはなかなかならず、双方の言い分はまるで代理戦争の様相を呈していた。
「なんかよ、ケンカみたいになってねぇか?」
「確かに」
「あとよぉ、公教育で個人が参入することって可能かな。俺の住んでいる市がやっている英語教育って学校によってバラバラでよぉ。どこの学校に通っているかによって受けられる教育が変わっちゃうんだよ。そういうのって、公教育の平等性からいっておかしいだろ? たとえば俺がお前と組んで市の教育委員会に入り込むってありなのかな?」
「ないね!(←キッパリ) 長年英語教育に携わっている会社がその信用をバックに市教委に話を持っていったって、なかなか入り込むことなんてできないんだよ。ましてや個人相手だとボランティアの地域の人材として活用されるのがオチだよ」
「そうかぁ~、厳しいなあ。なんかないかなあ。まあボチボチ考えてくか」
「うん。この少子化の時代に教育関係で何かとなればよっぽど考えないとね」
「そりゃ、そうだ」
会ってみたところでなかなか妙案は浮かばない。
さてどうなっていく?
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