黒百合姉妹というバンドをご存知だろうか?
JURIとLISAという姉妹によって20年ほど前から活動しているバンドで、私は彼女たちの大ファンなのだ。
黒百合姉妹との出会いは1993年だ。その当時、私は音楽雑誌の編集者をしていた。
渋谷のタワーレコードでインディーズのコーナーをチェックしていたら、「月の蝕」というアルバムがあり、そのジャケットワークに一目ぼれしてしまった。
ホーリー・ワーバートンというイギリス人の女性アーティストによる耽美的なイラストにすっかりノックアウトされた私は、さらに音を聴いてイントロのコンマ数秒ですでに黒百合姉妹の信者になっていた。
バッハ作のパイプオルガンと美しい声で始まるこのアルバムの1曲目は、その日のうちに我が家の留守番電話のイントロと化した。
ちなみにそれまではオランダのプログレバンド・フォーカスのヨーデル歌唱でおなじみの「Hocus Pocus」が我が家の留守番電話のイントロだった。
黒百合姉妹の音楽はこれ以上ありえないほど、私のツボを突いたものだった。
美しいメロディ。神秘的な世界。実はクラッシック好きの私が特に好きなのは、ルネッサンス期の音楽だったり、それ以前の作者も誰だかわからないような教会の古い音楽で、これらのジャンルは「古楽」とか「音楽史」というカテゴリーに入っている。
きっとこの人たちもこのジャンルが好きなんだろうなあと思い、よし、アルバム全部揃えるぞ!と心に誓った矢先に意外な出会いを経験する。
なんと! 黒百合姉妹のCDをジャケ買いして1ヶ月もしないうちに、ボーカルのJURI本人とお友だちになってしまったのだ!
出会いはまったく偶然だった。
ちょうど私が担当している音楽雑誌と同業他社が出している音楽誌計3誌で、それぞれの雑誌がイチオシのバンドを立てて競う“マガジン・バトル”という企画が進行していた。
要は3誌が一致するイチオシバンドを擁立し、合同企画で毎号各誌乗り入れ掲載し、イベントでファン投票によって勝敗を決めるというもので、今から考えてもかなり画期的な企画だったと思う。
この企画の立案者はハリー・ジェーンというバントのマネージャーをしていたI氏。元々ハリー・ジェーンを売り出す企画だったのだが、このI氏の戦略が素晴らしかったのは、ハリー・ジェーンだけではなく、他のバンドも巻き込み、違う会社同士の雑誌もバトルとは言いながら、裏で組ませ、みんなで協力して3つのバンドを盛り立てていくことが可能になったからだ。
ひとつひとつのバンドや雑誌がそれぞれ紹介しても取れるスペースが限られてしまう。
でもマガジンバトルでなら、それなりに紙面を割くことができる。
また選ばれた3誌の担当者も絶妙な構成だった。当時私を含めてみんな若くて同世代で、各々の雑誌で自分のやりたいバンドをなかなかやらせてもらえなくて悶々としていたのだ。
3誌の担当者と他の2つのバンドをどうするかという話し合いになったときに、推したいバンドも即決だった。
3人ともハリー・ジェーンの他に推したのは、電気グルーブを脱退したCMJKがピコリンと組んで作ったキュートメン、もうひとつは当時まだまだマイナーだったイエロー・モンキーだった。
話し合いの結果、私の担当はキュートメンになり、キュートメンを盛り上げるためにライバル誌の編集部に殴りこみをかけたり、激辛カレーの早食い競争をさせたり(←ちなみにボーカリストに咽喉の負担を強いる激辛のものを食べさせるとは何事!とあとでヒンシュクを買った。確かに。若気の至りである。この場を借りてすいませんでした)
考えられる限りのアホなことをやった。
ライバル誌RJ誌も負けていなかった。私たちが直情型のアホなら、RJ誌はひねったアホというかカルトなアホを模索していた。
ある号のRJ誌の企画は、「オッパイ占いでバトルの勝者を占う」というもので、占い師としてその場に呼ばれたのが、なんと黒百合姉妹のJURIだったのだ!
彼女は占い師としても活躍していて、当時「タモリ倶楽部」で「オッパイ占い師」として紹介されて有名になっていたのだ。
「オッパイ占い」という言葉だけがひとり歩きしてしまった感が強いが、実際は相手の手を自分の鎖骨から下のあたりに触れてもらい、自分も相手の同じ場所を軽く触れてオーラを感じるというものだ。
生で見るJURIは黒い髪を長く伸ばし、全身黒いドレスを身につけていた。切れ長の瞳はなんでも見透かしているようで、占われるバンドのメンバーたちも緊張した面持ちだった。
しかしなんという偶然!
取材が終わったあとに女性だけで何人か食事でもしましょうという流れになり、よーし、お近づきになれるチャンス!とばかりにJURIの向かいに席をゲット。
「黒百合姉妹のファンなんです。うちの留守番電話に曲を使わせてもらっています」
と音楽雑誌の編集者にもあるまじき自己紹介をすると、
「生年月日を教えてください」
と返された。
うーん、さすがプロの占い師。
いきなり占い始めるJURI。ただしJURIと出会えた喜びがいっぱいでそのときに占ってもらったことをほとんど覚えていない。
「清永さんは赤ワインを飲んでください」
と自身も赤ワインを飲んでいるJURIが言う。
「なんで?」
「あなたは赤ワインがよく似合うからです。そうしてください」
「あ、はい」
そういわれてから赤ワインを飲み始め、今ではすっかりワイン党(←ビールもウィスキーもいくけどねっ!)になってしまったのだから、人生はわからないものだ。
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