2009年9月30日水曜日

泰子(仮名)の告白

 「実はさあ、私もあさって先生のところに予約入れてるんだよね」
私が安い子ども時代の思い出に浸っていると、そう突然切り出す泰子。

 互いの家が3軒先の建物という、歩いて数十秒の場所であるのにもかかわらず、ついつい長電話しがちな私たち。
 「マジで? だって泰子ちゃん、めでたく離婚も成立(前回行ったのはその話がメイン)したし、娘はめでたくO女に入ったし、他に何聞くことがあるの?」
 「ねえ、あの銀座の先生って本当に当たるのかな?」
 「ええ? 泰子ちゃん、すごく当たってるすごーい!って前言ってたじゃん。それにO女の制服も当たってたし。あと泰子ちゃんも私に劣らず相当友だち紹介しまくってるでしょ」

 そうなのだ。音大出身の泰子は裕福な友だちが多いのと、みんなロクな結婚生活を送っていないので、すぐに銀座の先生の話に食いついてくるらしい。
 それに加えて、前に娘を通わせていた私立の幼稚園時代のママ友はみんなお受験に熱心らしく、受験結果を占ってもらうために銀座の先生を紹介してもらいたがるのだとか。
 占いといえばずっと恋愛だとか、結婚だとかを診てもらうものだとばかり思っていたけど、受験に強い占い師というのもなんだかいまどきな感じだ。
まあ先生のほうはそんなつもりもないんだろうけど。

 「真美ちゃん(仮名)がね、チックになったっていうか、顔面がピクピクしていて変なんだよね」
 おい! だったら占いじゃなくて、まず行くべきところは病院だろうかぁ~!
 泰子の別れたダンナであるテツ(仮名)瓜二つの真美ちゃんの顔を思い浮かべる。ついこの間会ったばかりだけど、何も異変は感じなかった。
 「普通の人はわからないぐらいほんのちょっとなんだよ。だって幼稚園の先生も気づかなかったからね。一応病院にも行ってるけど、原因はわからないから様子見するしかないってお医者さんは言うんだよね」
 「だったら様子見するしかないよね?」
 「それじゃあだめだよ。私もう心配でおかしくなりそうなんだから」

 泰子は不思議な人で普通の人が気にすべきところにはほとんど無頓着で、別れたテツに「お前、マジで殺す」と脅されても顔色ひとつ変えずにデンと構えていたり、お父さんが末期がんに罹ってあわやというときにも、「だいじょうぶだいじょうぶ」と余裕で構えてたり(←本当に泰子のお父さんは奇跡の復帰を遂げた!)するわりには、こと真美ちゃんに関してはめちゃくちゃ神経質なのだ。
 だから真美ちゃんにとって良かれとあれこれ習い事をさせたり、お金もめいいっぱいかけて気を遣っているのだろう。

 「それにしても銀座の先生、予約取るのに2ヶ月ぐらい待たされたでしょ」
 「ええ~!、こっちは緊急なんだからそんなに待てるわけないじゃん。急を要することなので早急にお願いしますって言い切ったら、昼の早い時間だったらじゃあいいですよって10日で取れたよ」
 「なんだ、そりゃあ~。ゴネたもん勝ちかあ~?」
 「それにうち、今年引っ越したいんだよね」
 「なぬ? それは初耳!」
 
 泰子の実家は橋を渡ればもう東京という限りなく東京に近い埼玉にある。なので埼玉といっても東京のマンションまで車で20分ほどの距離で、実家でもピアノのレッスンを行っている泰子は日々実家とマンションの行き来をしている。
 東京のマンションも賃貸ではないし、学校にも便利なところだ。引越しする理由が見つからない。

 「真美ちゃんがね、おじいちゃんおばあちゃんと暮らしたいって言っていて、O女は23区からしか小学校は通えないから、うちの実家だとNGなんだよね。けど中学は埼玉からでもOKになるから、小学校の6年間だけ限りなく埼玉に近い東京に住もうかと思って、そのための家を探しているんだけど、今年は引っ越していい年かどうかも聞くつもりなんだ」
 「じゃあ東京のマンションと埼玉の実家はどうするの?」
 「マンションは貸せばいいし、埼玉の実家はレッスンで使うからそのままだよ」
 「じゃあ6年間のためだけに家を借りるの?」
 「家なんて借りないよ。土地を買って家を建てるんだよ」
 「なぬ~?」

 お金持ちっているもんなんだなあ~。
 娘がおじいちゃんおばあちゃんと住みたいって言ったからって、車で20分ほどの距離にお互い住んでいながらも、新たに家をポン!っと建ててしまうなんて、絶対に庶民には考えられないことだ。

 「で、6年経ったらその家どうするの?」
 「ええ~? そんなの誰かに貸せばいいじゃん。なんだったら美央さん、借りてくれる?」
 「あ、いえ、結構です」
 
 とりあえず占い結果を後日聞くということで長い長い電話を切ったのであった。

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