2009年11月28日土曜日

5月の終わりに②  

 北部長(仮名)にパンフレットの編集をお願いするかもと言われたその日のアフター・ファイブ(プップ)は、前の会社の後輩・山木(仮名)と三原(仮名)と先輩の森重さん(仮名)がうちに遊びにきてくれることに。
 山木はすでに前の会社を辞めていてベンチャー系の管理職の仕事をしていて、三原と森重さんはまだ会社に残っていて、たまたま今同じ部署にいるという。
 この日は夫が会社の飲み会で帰りが遅くなるということで、うちで家飲みをすることになったのだ。
 
 前の会社からうちまで4駅しか離れていないけど、みんなが我が家に到着したのは9時過ぎぐらいと遅く、どうしても仕事が終わらなかったのだという。
 どうやら毎日みんな終電近くまで仕事しているらしく、こういうのを目のあたりにすると、つくづく生きがいとかやりがいとか以前に早く帰れるというのはありがたく、そうでないとジジババが近くにいない私たちみたいに子どもがいる家庭は、仕事との両立はとてもむつかしい。
 森重さんはうちの息子と同い年(年中さん)の男の子がいるが、ご主人が専業主夫をして、代わりに森重さんがバリバリ働くという役割分担をしている。
 夫婦双方の意思統一が図られているのなら、それもひとつの方法だと思うし、女性としてもカッコいいと思う(私にはあいにくそんな甲斐性はないが)。
 
 子どもたちも寝かしつけ、女4人、飲みながらくっちゃべる。
 やっぱりこのメンバーだと話題は、“前の会社の現状”に尽きる。
私と山木は辞めてしまっているけど、やっぱり最初に入った会社というのはいつまで経っても気になるもの。
前の会社が以前より雰囲気が悪くなっているだとか、業績が悪いだとかといったネガティブな話を聞くと、辞めるときに死ぬほど悩んだので、「ああ~、私はいいときに辞めたんだな。やっぱり辞めて正解だった」とホッとする反面、すごく好きな会社だったのでやっぱりいつまでもカッコよくあってほしいとも思う。

 残念ながら森重さんや三原の話を聞くと、音楽業界自体ダウンロード問題などで縮小しているし、会社自体すでに業界No.1の地位を他社に奪われてしまっていた。
会社の雰囲気も変わってしまったらしく、失敗を恐れずイケイケでチャレンジする豪快さも、オヤジどもにゴマをするのはダサいとする反抗精神もどこかに吹っ飛び、今では何も企画しない人、ひたすら上に気に入られるためにゴマをする人が偉くなっていくという空前の閉塞感の中でみんな汲々としているという。
何よりも辞めて10年以上経つが、新陳代謝していないので、丸々10年分年をとってしまっているのだ。
かつてレコード会社定年40歳説というのがあったが、それも今は昔か。

「そうそう、清永さん、○○さんって覚えてる?」
「ああ、いたね~、そんな人」
「その人がね、仕事はしないわ、部下は潰すはどうしようもないんだけど、××役員に気に入られていてぇ~。そうそう××役員に☆☆ちゃんがセクハラされて大変だったんだけどぉ。それはさておき、○○さんが転勤するにあたってぇ~」
などという話で盛り上がっているところに、携帯が鳴る。誰かと思えば早紀ちゃん(仮名)だった。

「よぉ~。つぅか、あれ? ずいぶん賑やかだなぁ」
「前の会社のメンバーが遊びに来てるんだよ」
「おお~、誰が来てるんだよぉ?」
「山木と森重さんと三原」
「俺、三原しか知らねぇなあ。三原に代わってくれよ」
「三原! 早紀ちゃんから。電話代わってくれって」
「早紀ちゃんって、樫村さんですか? ええ? なんで清永さんのところに電話かかってくるの?」
「知らないよぉ~。今、彼は実家の学習塾を継いでるんだよね。で、去年バッタリ教育関係のフォーラムで会って、2ヶ月ぐらい前にランチしたんだよ」
「へえ~、そうなんだぁ? 意外ですね」
と言いながらしばらく早紀ちゃんの電話の相手をする三原。
って、いったい彼は何しに電話してきたんだろう。

「樫村さんが清永さんに電話代わってくれって」
 そう携帯を私に戻す三原。
「何?」
「この前よぉ、俺、フォニックスのCD作るって話したよなあ?」
「聞いたよ」
「やっぱさ、教育関係者が作る教材っていうのはCDの音質だったり選曲がイマイチなわけよぉ。テキストにしてもそうでさ、エンターテインメントの要素を入れないとさ」
「それで?」
「うちも少子化で生徒が減ってきてるしよぉ、ここいらで何かやらないといけないわけよ。でよぉ、俺としては教育の仕事だけやってるって物足りないわけよ。やっぱ、元がレコード会社出身の人間だからよぉ。お前もそうだろ? こうエンターテインメントの要素がないとよぉ、つまんないんだよなぁ。かといって今さらエンターテイメントだけの世界には戻れないけどよぉ、そこでだ。両方の世界を知ってる人間ってのは貴重なわけでよぉ、お前と組んだらなんかできそうな気がするんだよ」
「なんかって何よ」
「たとえば教材とかよぉ」
「うーん」
「まあそれが何かはわかんないけどよぉ、一度会って話しようぜ。いろいろと出てくるかもしれないぜ。CDのラフも聞いてほしいしよぉ」
「いいよ」
「じゃあ近いうちに連絡するわ。お前も何か考えておいてくれよ」

ということで電話を切った。
 うーん、もしかしたら5月に何か頼まれるっていうのは、北部長のパンフレットの件ではなく、この早紀ちゃんの電話に関わることなのか?
確かに教育に関わることだから“先生”と呼ばれる仕事といえなくもない。
うーん、うーん、これっていったいどうなるの?
早紀ちゃんと組んでできることなんてあるのか?
謎が謎を呼ぶ展開になってきた! さてどうなる?

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