2011年2月28日月曜日

M小学校原理主義者の登場②

 今から6年以上前のこと。娘を出産してから育児休暇を取得していた私は、初めての専業主婦ライフを送っていた。
 元来家にじっとしていられなくて寂しがりやの私は、ガンガンママ友を作った。住んでいる場所が都心のオフィス街のため人もあまり近所には住んでいないし、子どももいないと思っていたら(←実際、家に来た保健所の人から“この辺りはちょうど子どものいないところなんですよぉ”と言われた)、うちから3軒隣の超高層タワーマンションに、娘と同じぐらいの年頃の子どもたちがわんさかいた。
 そこでイッキにママ友が増えたわけだが、彼女たちはみんな専業主婦でちょいセレブ(←本物のセレブはうちの近所なんかにゃ住んでないっ!)だった。

 そのため誰かの家でお茶をすると必ずウェッジ・ウッドかミントンあたりのティーカップに丁寧に淹れられたコーヒーか紅茶に、“これいただきものなんだけどぉ~”と言いつつしっかり近所のデパートで買ってきたばかりなのが丸わかりのトップスだのユーハイム・ディー・マイスターなどのケーキを食べ(←酒飲みには辛い!)、子どもたち(←そのころはまだ赤ちゃん)をその辺で遊ばせつつ、話題の中心は常に“ねえ~、幼稚園どうするぅ?”または“小学校はどうするぅ?”だったのだ。
 
 田舎者の私に幼稚園受験だの小学校受験だのの知識や経験があるわけはなく、幼稚園受験に至っては共働きの我が家は100%保育園しか選択肢がないので、まったく関心も興味も持てない話題だった。
 そもそも私は銀座の先生改め今は麻布の先生になった先生(←ややこしいな)から、国立受験のことを言われるまで、まったくお受験のことなど考えたこともなく、保育園のあとは無条件に家から数十秒のM小学校に入れる以外ノーアイディア状態だったのだ。
 
 そんなある日、何人かで矢崎さん(仮名)宅に集まった。ちなみに矢崎さん宅はその超高層マンションの最上階で、そのマンションの中で一番広い住居面積を誇り、お値段も最高級の億ションで同じマンションの住人たちからの羨望を集めていた(と思う)。いわばちょいセレブ主婦軍団の中におけるヒエラルキー(←つまんねぇっ!)の頂点に矢崎さんは君臨していたのだ(←オーバー)。

ご主人が急成長中のベンチャー系企業の社長でいわゆる社長夫人の矢崎さんなのだが、本人は至って普通な素朴な人で、ご主人が自分へのごほうびのつもりでシャトー・マルゴーだのロマノ・コンティーだのわかりやすい超高級ワインをコレクションなんかしたりすると、
「そんなお金があるなら、恵まれない人に寄付したらんかいっ!」
と言って返品させたりするのだという(←だったらうちにくれ!)。
この日もさんざんみんながお受験話で盛り上がる中、私と矢崎さんは話の輪に加われないでいた。
「ねえ、美央さん、みんなが帰ったあともちょっと残っててよ」
とそっと耳元で囁く矢崎さん。
なぜかそれをめざとく聞きつけ、みんなが帰ったあとも残っていた曽我部さん(仮名)。

そして3人だけになったときに、
「みんな受験受験ってすごいねえ~。こんなに近くに小学校(←このマンションからM小学校は真正面)があるんだから、そこでいいのにね。それに私、地方出身だから全然そういうのわかんないんだぁ~」
と首をすくめる矢崎さん。
「私だって田舎者だからわかんないよ。ただ将来履歴書に幼稚園とか小学校を書く欄なんてないわけだから、最終的には大学になるんだろうけど、今は大企業だって潰れる時代だし、昔みたいにいい大学に行ったらいい会社に入れてっていう保証もないしね」
「そうそう、子どもなら泥んこになって遊べだよ」
「あと日本のいい大学をそこまでお金をかけて出たって、東大ですら世界の大学ランキングの100番目ぐらいなんだし、だったら世界の大学をめざしたほうがいいよね」
「確かに」
「まったく子どもにそんなにお金かけるぐらいなら、その前に親だっちゅうねん」
「そうそう。親が楽しそうにしてるのが一番の教育だよ」
私と矢崎さんはお互い同志を得たような気になり、大いに溜飲を下げる。

「私はふたりと違ってこの近くの出身で実は小学校から短大までずっと私立だったから、みんなの言うお受験の世界はよく知っているけど、でも音羽のお受験殺人事件でもそうだったように、私に言わせればはっきり言ってお受験って騒いでるのって地方出身者ばかりなのよねぇ~。または子どもの小学校受験で階級上昇を狙うようなギラギラした人が多いから、昔から住んでいる地元の人たちにとっては何を地方の人たちが頑張っちゃってるの?って鼻白んでるのが現実なのよ。だから今日みたいな話題になっても私的には矢崎さんとか美央さんの感覚に近いっていうか、あっ、私はこっちのグループの方が居心地いいやって思っちゃったんだよね」
とまったく上から目線なんだか、仲間に入れてほしいんだか、よくわからないコメントをする曽我部さん。
それに私も矢崎さんも別にグループを作る気はないんだけどなあ~。

「っていうことはふたりともお受験はさせないってことね?」
むしろ釘を刺しているかの如き曽我部さん。
「そんなめんどくさいことするわけないっちゅうーの! ずっと公立で上等だよ」
即答する矢崎さん。
「うちも。だってお受験どころかいつまで日本に住んでるかわからないし」
「そうか~、美央さんちはそういう問題もあるもんね」
「むしろインターナショナルスクールに入れたいぐらいだけど、高いからうちは無理っ!」
「日本の初等教育は世界と比べてもいいみたいよ。それ以降はどんどん海外の学校の方が良くなるけど、小学校のうちは日本の方がいいんじゃないかな」
「だったらなおさらお受験は必要じゃないね」
「そうそう」

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以上が曽我部さんの言う「矢崎さんの家で話した」話である。

思い出した、思い出した。確かにしましたよ。こういう話。
実際、矢崎さんはそれ以降、まったくお受験に関わった形跡はなく、今M小学校で矢崎さんの息子とうちの娘は同じクラスになっている。
チラッと以前矢崎さんに国立受験の話をしたら、
「よくそんなめんどくさいことできるねえ~。私には無理っ!」
とまったく関心なさそうだった。

でもね、曽我部さんがなんで今、そんな話を蒸し返すわけ?

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