2009年6月4日木曜日

沙織②

 「どうよ、妊婦生活は?」
 自宅療養中の親友沙織(仮名)に電話する。
 「うーん、じっとしてればどおってことないからええねんけど、こんなゆっくりできるなんて、やっぱ勤めるなら大手やな。なんやかんやでいろいろと手当やら休みやらもらえんねん」
 「そうやなあ、やっぱ“寄らば大樹”やなあ」
 「うん、“長いものに巻かれろ”とも言う」
 「“朱に交われば赤くなる”」
 「それはちょっとちゃうやろ」

 沙織の症状やら近況などの話を一通り聞いたあと、また小説を書いていて途中だけどある程度まとまったので読んでほしいという話をすると、沙織はちょっと呆れた様子で、
 「あんた、よお、そんな暇あるなあ? ネタはなんなん?」
 と言う。
「時間をかけてちょっとずつ書いてるからな。実は書き始めて1年以上経ってるし、ある程度まとまった時間があればそれなりには進むから。内容はほれ、例のモロッコの・・・」
「おお~、そうきたか。けどそんなん書いてだいじょうぶなん? あんた結婚してるのに」
「それはあくまでも小説やから作り話になってるし、第一、うちの人は日本語読めへんやん」
「まあ、そういう問題か」
「そのうち沙織も登場させるよ」
「変なやつとして書かんといてな」
「まあ任せてよ」
「ほな、家のメールに送ってよ。読んだら感想を言えばいいねんな」
「そうそう」

沙織の感想やアドバイスは文学少年少女のそれとは大きく異なり、昔からマーケティング的な観点からドンドン突っ込んでくるタイプだ。
学生時代ですらそうだったのだから、社会人として十何年もバリバリ仕事をしながら過ごしてきた今はもっとコンセプトや営業ちっくな突っ込みを入れてくるだろう。
昔からともすればアーティスティックな人間たちやエキセントリックな人たちの世界に巻き込まれがちな私を、いつも“あんたはそっち、ちゃうやろう”と言って引き戻してくれていた沙織である。
十何年ぶりに私の書いたものをなんて評価してくれるのだろう。
楽しみのような怖いような。

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