先行き不安な春にも桜は咲く。
2009年のお花見は王子の飛鳥山公園へ。
メンバーは、うち、右京家、松野家、藤吉家という娘のクラスの飲み会メンバー+ベイカー家(すべて仮名)。
ベイカー家のパパはアメリカ人のジョン。ITエンジニアの仕事をしているジョンは来日5年にして日本語がペラペラで、「さんまの恋の空騒ぎ」で日本語を覚えたという。
ママのルミ(仮名)は私と同い年。なんと開業医で半年前から夫の保護者バンド「オヤジズ」にベーシストとして加入している。なんでも医者になる前はセミプロのような状態で都内のライブハウスに出まくっていたらしい。
なんでもこのふたり、出会い系サイトで知り合い、そのまま出来ちゃった婚へ突入したという高収入な肩書きからはイメージしにくい方法でゴールインしている。
ジョンとルミの娘リリー(仮名)は3歳で同じ保育園に通っている。リリーはジョンそっくりで、金髪でくりくりとした瞳のためか、ハーフというより100%白人にしか見えない。息子より1つ下のクラスだけど、気が合うらしくよくくっついて遊んでいる。保育園でもふたりがくっついて遊んでいると、先生たちからペアのお人形さんみたいだねとなどと言われているらしい。
ルミがオヤジズに加入したことと、外国人保護者同士気が合うのか、このところベイカー家との付き合いが密になってきている。
まあ今年の花見はオヤジズ・メンバー+藤吉家ということになったのだが、ひとしきり桜も見て、ひとしきりお酒も飲んで、夜風も冷たくなってきたということで2次会は我が家で。
妊婦の洋子(仮名)と由美子(仮名)は先に帰り、我が家での飲み会も10時過ぎた頃にはボチボチとみんな帰っていったのだが、なぜか残ったのは松野家の光子(仮名)ことみっちゃんひとり。
夫であるカズヒロ(仮名)は酔っ払うと唐突に宣言する。
「じゃあ、みっちゃん、子どもたちを連れて先に帰れ! 俺はまだ飲むっ!」
ということもあれば、
「俺は子どもたちを連れて先に帰るっ! みっちゃんは残って飲んでろっ!」
というパターンもあり、いずれにしろ毎回なぜか一緒に帰ろうとはしない。
この日のカズヒロは、「じゃあ、光子置いていくから。美央さん、光子と飲んでて」と子どもたちを連れてとっとと帰ってしまったのだった。
謎なカップルだ。
「じゃあ、みっちゃん、ゆっくり飲もうか」
「わーい。じゃあ改めて乾杯~」
子どもたちも夫も寝てしまい、急にシーンと静まり返った部屋で飲み始める私とみっちゃん。
「そうそう、陽太(カズヒロとみっちゃんの息子)、受験するんだって?」
「うん。SG会(お受験対策幼児教室)にも入ったよ」
「月謝っていくらぐらいするの?」
「基本は7万円で・・・」
「7万!?」
「それに強化コースや対策コース、合宿なんかも入れると20万ぐらいになることもあるかな」
「すごいね。カズヒロはOKなんだ」
「パパはなんにも考えてないからね」
みっちゃんは福々しい笑顔を浮かべる。一見彼女は気のいい肝っ玉母ちゃん風だが、なんといっても世界のSの管理職だ。
しかも四谷雙葉出身のお嬢様で、こういう人を見ると本物のお嬢様は決して派手ではなく、ブランドモノで身を固めるなどといったわかりやすいことはしないというのがよくわかる。究極の例が民間に下られた黒田清子さんだ。
「陽太どこ狙ってるの?」
「私立だったら暁星が第一志望で、あとは宝仙と淑徳。国立は全部受けるけど、やっぱりT大附属T小狙いだね」
「じゃあ暁星とT大附属T小、どっちも受かったら?」
「迷うところだけど、国立は月謝がタダだからね。やっぱりT大附属T小だけど、国立はクジがあるから、不確定要素が強すぎるんだよね。しかも私立の方が早いから仮に国立に受かっても入学金は捨てなきゃいけなくてね」
なんだそりゃあ~。まるで大学入試みたいじゃないか。
「Aちゃん(娘)はどこも受けないの?」
「まあ、記念で国立は全部受けるつもりだけど」
「うん、Aちゃん、しっかりしてるから受験向いてそうだよね」
「親の私が向いてないからダメだよ(トホホ)」
「まずね、面接まで行ったら7割は見た目なんだよ」
「ほう~(感心)」
「私立にしろ国立にしろ、バスや電車なんかの公共交通に乗って、遠いところをわざわざ通うわけでしょ。それには体力が必要なんだから、いかにも細くて弱々しい子は通えるのか?ということになってその分不利なんだよね。その点、Aちゃんはだいじょうぶ!」
ええ、ええ、そうでしょうとも。
うちの娘はタテにもヨコにもデカく発育がいいので、逆にまだ小学生ではないということに驚かれてしまう。いかにも健康優良児然とした姿で華奢ではかなげな要素はゼロだ。
見た目のじょうぶさを競うだけだったら、うちの娘はどんな難関校でも突破しそうだぞ。
「まあ、またなんでそんなに小学校受験にこだわることにしたの?」
松野家の住まいはMZ小学校区に当たり、公立でも我が区の中の屈指の人気校だ。高級住宅街にあるMZ小は場所柄裕福な子が多く、ほぼ100%の子どもたちが中学受験をするという特殊な小学校だ。
隣接選択性を取っている我が区では、隣り合う小学校は各校定員40名まで選択が可能で、MZ小は40名の定員に対して毎年3倍の希望が集まり、公立のくせにクジによる抽選があるという。
みっちゃんはもとより、単なる酔っ払いとはいえ夫のカズヒロも高学歴エリートである。ふたりの子どもだったら頭はいいだろうから、中学受験からでも十分だろう。
私のイメージの中では小学校受験させる親というのは、よっぽどの金持ちで代々我が家はこの学校と決まっているところか、両親の頭脳に自信がない小金持ちの親が、お金にモノを言わせて小学校のうちから一貫校にねじ込んでしまうというパターンのどちらかだった。
「まずね、ゆとり教育反対っ!」
「おお~」
アルコールも結構回ってきているせいか、いきなりテンションの高いみっちゃん。
おお、いいぞ、おもしろい展開になってきた。
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