2009年11月11日水曜日

早紀ちゃん(仮名)とのランチ

 4月の半ば、突然前の会社の先輩早紀ちゃん(♂)から電話が入った。都心まで出かける用があるから、ランチを食べようというお誘いだった。
 バッタリ教育関係のフォーラムで再会して5ヶ月ぐらい経っていた。
 会社の近くの交差点で待ち合わせをして、京都の町家風の一軒家になっている知る人ぞ知るレストランで私たちは松花堂弁当を頼んだ。
 久しぶりの再会なのにアルコールがないのは寂しいが、いかんせん仕事中なので仕方がない。

 「んで、清永はいったい教育のどの部分の仕事をしているわけ?」
と前置きなくいきなり突っ込んでくる早紀ちゃん。この「んで」と話の頭につくのは昔からこの人の癖だ。
 大雑把に今の仕事の話をすると、早紀ちゃんは「うむうむうむ」と大きな声で呟き、
細かいカリキュラムの話や指導法の話をひとしきりしたあとに、
 「要はさ、俺、前の会社辞めた後は同業他社であるA社に行ってさ、結局4年ぐらいそこにいたんだけど、社風が合わなかったわけよ。どっちみちオヤジの塾は継がなきゃいけなかったら、いつ継ぐかという話だけだったんだけど、2年ぐらい前にA社辞めて塾の仕事始めてよぉ」
 早紀ちゃんはせわしなくお弁当のお煮しめを口に放り込みつつ、ずっとしゃべっている。
 この店のお弁当はきっちり京都風の味を守っていて、板前さんの職人的なこだわりを感じさせてくれる逸品なのだが、早紀ちゃんがずっとしゃべりまくっているので、いまひとつ味わえない。
 密かに今度から彼とどっかでご飯を食べるときはこういう繊細な味のものではなく、ガンガンお互いしゃべり倒してても味覚に影響を及ぼさないガッツリとした味わいのものにしようと心に決める。

 「2年ぐらいやりゃあ、だいたい塾経営のノウハウは掴んできて、授業ももうバッチりやれてるわけよ。で、家の仕事だけじゃつまんないからJ-SHINE(小学校英語指導者認定協議会の略。一定の講座を受ければ小学校で英語を教える指導員としての資格を得られる。ただし国家資格ではない)も取ってよぉ、近所の公立の小学校でも教えてるわけよ。でもそれも結局ボランティア程度の金しか出ねぇし、最近マジで少子化でうちの生徒も減ってってるのよぉ。俺も結婚して子どもふたりいるからよぉ、かみさん専業主婦だし、稼がにゃあかんつぅーことでよぉ、なんかしたいわけよぉ」
 「なんかって何よ?」
 「取りあえず教材でも作るべって、CD作るのは得意だからよぉ、ミュージシャン呼んでフォニックスを取り入れて、レコーディングしたわけよぉ。で、K社は幼児向けのCDいっぱい出してるからよぉ、今日はそこに行ってこんなの出しませんかって営業に行ってきたってことよ」
 「ほぉ~」
「そんでさ、今偶然お前もなんでかしらないけど、教育の仕事してるじゃん。被ってる要素もあるからよぉ、まあ情報交換なんかしてだなぁ。組めるところは組めればいいかなって思ったわけよぉ」
 「うちは中で仕事が全部完結しちゃってるから、組めるところっていうのはないよ(キッパリ)」
 「全然かよ?」
 「うん、全然だね。なんかあったら連絡するけど」
 「そうか、じゃあしょうがないな。あ、すいません。ご飯お替りくださーい!」
 突然、ご飯をお替りする早紀ちゃん。

 2杯目のご飯を掻きこみながら、
 「まあ、仕事はおいおいだな。ところでよぉ、お前んちの子ども、小学校はそのへんの区立入れるのかよ?」
 話の矛先を変える早紀ちゃん。
 「そのへんの区立でもいいけど、来年、再来年と小学生になるのが続くし、ダメもとで国立は受けてみるけど」
 「ダメもとなんて言ってちゃだめだぜ。みんな受かるつもりで受けてるからよぉ」
 「そういうあんたんちってどうなのよ?」
 「うちの娘は今、小2になったんだけどよぉ、G大附属O小行ってるぜ」
 「え? マジ?」
 G大附属O小とは国立小学校のひとつで、うちの子どもたちが銀座の先生から受かると言われていたG大附属T小の系列校だ。
 国立4校の中でもO小は離れたところにあるので、受けるかどうか迷っていて、受けない方向で考えも固まりつつあるところだった。
 なんとその小学校に早紀ちゃんの娘が通っていたとは!

 「記念なんて言う親がいるけどよぉ、受験なんてもんは受かるつもりでやんないと。うちだってかみさんがW(国立に強いと言われているお受験塾)に早くから入れてよぉ、ガンガン勉強させてたからね。で、お前んちはどこ受けるんだよ」
 「記念なんて言う親はうちだけどさ。一応G大附属T小とT大附属T小とO女かな。G大附属O小は遠いからパス」
 「おいおい、G大附属O小はいい小学校だぜ。それは絶対に保障するよ。遠いってたってよぉ、お前のところの最寄駅からだったら全然大したことないぜ。それより遠いところからみんな通ってきてるからよぉ。悪いこと言わないから受けるだけだったらG大附属O小受けてみろよ。絶対にオススメだから」
 それから早紀ちゃんはいかにG大附属O小がいい小学校かを熱く力説する。

 「そんなにいい小学校だって言うんだったら、受けるだけ受けてみようかな~(←簡単に流されている)」
 「おお、そうしろそうしろ。受かったらラッキーだし、ここの情報だったらいくらでも教えてやるぞ」
 となぜか早紀ちゃんに説得されて受けるのをやめようと思っていたG大附属O小も受ける方向に転がったのであった。
 ずっと音信不通だった早紀ちゃんとひょんなことでバッタリ再会したのも、もしかすると小学校受験の助言を受けるためからだったのかもしれないと、そのときはチラッと感じたのであった。

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