2回目の占いから10日ほど経ったころに、恒例のマスコミOB会の新年会があった。
このOB会はマスコミ業界を中心とする同じ大学出身者の集まりで、もうかれこれ20年以上続いている。
ここしばらく2月の上旬に新年会をやるのが恒例となっていて、前年の新年会でT書店の本田くん(仮名)と、前の会社で同期でありながらも今や社長にまで上り詰めた森田(仮名)に、書いている小説を読ませろと言われた話は以前、書いたとおり。
早いものでそれから1年経っていたのだ。
当日。毎度おなじみ赤坂のまるしげへ。
ここはOB会の総務部長(←と私が勝手に呼んでるだけだか)こと、大手出版社KB社の八木さん(仮名)のなじみの店で、八木さんと大将の長年の付き合いが成せる業なのか、毎年OB会用の特等席が設けられている。
わりと早めに行ってみるとすでに八木さん始め、A新聞の大津さん(仮名)など数名がもう飲んでいる。
その中のひとり法曹関係の出版社Yの古田くん(仮名)と、フリーライターの水野さん(仮名)の3人で、彼にガールフレンドを紹介してあげるという話で盛り上がっているころに、本田くん、森田、広告代理店Hの田上さん、同じくHの内山さん(仮名)なども続々とやってきた。
本田くんたちは私たちから少し離れたところで固まって飲み始め、何やらみんなでこちらをチラチラ見ながらニヤニヤしている。
大いに気になるんだけど、こっちはこっちで盛り上がっているのでなかなか抜けて本田くんたちの話の輪に加わることは難しい。
そんな心の動きを見越してか、森田が、
「清永! 心配せんでええで~。みんなでしっかりとお前のエロ小説の話で盛り上がってるからな!」
と叫ぶ。
「おお~、俺もちゃんと読んだで。あとでその話しような」
とはこの会の大御所田上さん。
そう、夏に本田くん、私、森田、田上さんの4人で飲んだあとに、田上さんにもメールで小説「エッサウィラ」を送っていたのだ。
まったく、人をネタに飲むとは何事!
おもむろに本田くんがこちらにやってきて、私の腕を取り、「まあまあ清永さん、こっちこっち」とそのまま私を田上さんたちの輪に引っ張っていこうとする。
「あら本田くん、お久しぶり」
そのときにフリーライターの水野さんが本田くんに声をかけた。
水野さんはノンフィクション系のライターで大手出版社から何冊も本を出していて、そのうちの一部は図書館にも置かれていたりする。テレビでもコメンテーターとしてちょくちょく出たりしているので、ちょっとした有名人だ。
OB会では女性が少ないことと、元々私は編集者だったことから個人的にも水野さんと飲んだりすることはあった。
気風のいい姉御肌の女性なので、私はいつも「おねえさまぁ」と甘えている。
「お久しぶりっす。さあ、清永さん。作家先生。こっちこっち」
本田くんは軽い調子で言う。
内心私はあちゃ~!!!だ。
「作家先生?」
いつも穏やかな水野さんの顔に険のようなものが浮かぶ。
ああ~、やっちまったよ。知らないよ~。
「そうそう、清永さん、文才あるんですよ。作家先生ってこれからは呼ばないとね。じゃあ、水野さん、のちほどです」
ああ~、本田くんのバカバカ。
おかげでいつもは優しい水野さんの視線がめっちゃ厳しいじゃないか!!!
あの、水野さん。作家先生は嘘です。嘘。あと私が書いているのはノンフィクションじゃなくて、エロです。エロ。はい。
水野さんの守備範囲をなんら侵すものではありませんから、ご安心を!!!
小心者の私は心の中で叫ぶ。
けど思い違いでもなんでもなく、「作家先生」のひとことで水野さんの私に対するフレンドリーさはこの日どこかへ消えてしまった。
彼女にとって、私はまだ編集者なのだ。
彼女は長くフリーランスとして活躍してきた人だ。会社組織に守られてのほほんとしている私たちとは違う。
たったこれだけのことで、フリーランスの厳しさの一端を見たような気がした。
銀座の先生は会社を辞めて私はフリーランスで一生やっていくって言っていたけど、そんな険しい道にこのへタレな私が踏み出していけるんだろうか。
結局、その日水野さんは二度と私に話しかけることはなかった。
0 件のコメント:
コメントを投稿