フリーライターのママ友・井戸田さん(仮名)からメールが来た。
小説「エッサウィラ」を送って3日も経っていなかった。
感想は後ほど送りますという文面のあとに、至急プロフィールを送ってほしいとメールには書かれていた。
私は単純に井戸田さんの読んだ感想を聞きたかっただけなので、意味がわからず適当に書いたプロフィールと、何に使うのか?というメッセージも送った。
そのあと彼女から電話があり、
「美央さんはどこの賞に出したいの?」
と唐突に聞かれた。
あまりに唐突な質問だったので、わけがわからずしばらく彼女のクワバタオハラのクワバタそっくりな顔を思い浮かべていた。
「ほらK社だったらG新人賞があるでしょ。私もダンナもそこの編集者は顔見知り程度には知っているから送ったほうが良かったら送るけど」
「はあ?」
「何? そういうことじゃないの?」
「っていうか、井戸田さん、私の小説もう読んでくれた?」
「うん、読んだよ」
「いや、単純に読んでもらって感想を聞きたかったのと、もう少しいやらしいことを言えば、読んでもらって気に入ってもらえたんだったら、こういうタイプの小説に興味を示してくれそうな編集者を教えてもらえればいいかなあぐらいに考えてたんだけど」
「ああ、そういうことだったのね。じゃあ、賞には応募しないの?」
「うん、下手に送らないほうがいいような気がしているんだけど」
「そうか。私文芸系の編集者はよく知らないから、誰がどうっていうのはわからないけど、単純にK社内の新人賞宛のところに送ることだけだったらできると思ったんだよね」
・ ・・・・・・うーん、どうもこの人とは話が噛み合わない。そんなもん、社内便で送ろうと、こっちから直接送ろうと何も大差などないではないか。
「じゃあ、まあ感想だけでも教えて」
そう答えて電話を切ったのち、彼女から長文の感想が届いた。
さすがライターだけあって字がいっぱい書いてあるのには驚いたが、考えたら私は彼女の書いた記事を読んだことがないのだ。
その感想を読んで私はぶったまげた。
基本的に褒めてくれているようなのだが、主人公が完璧すぎるというのだ。
ええええええ~、なんで???
井戸田さんによると、主人公が完璧すぎるので感情移入できない。たとえばもっと色情狂だとか、抜けているところがあるほうがいいというのだ。
えええええ~???
である、
「エッサウィラ」の「私」は基本的に男にだらしなく、仕事も中途半端。情熱だけが空回りし、簡単に周りに流される“痛い女”だ。
ただ同じ“痛い女”でもそれなりに学歴はあり、有名企業に勤めているという設定にしているだけあって、吉村萬壱や戸梶圭太の小説に出てくるような下流感はなく、心底ダメではないが、プチダメというか、ダメさ加減も中途半端な女として描いたつもりだった。
それを“完璧すぎる”と言われると、“なんでやねん!!”と激しく突っ込みたくなってしまう。
その話を後日、私の親友沙織(仮名)にしたら、彼女も激しく“なんでやねん!!”と突っ込んでいた。
「ええ~、どう考えてもこの主人公、信念はないわ、だらしないわ、仕事できへんわ、自分勝手やわ、貞操観念ないわ、優柔不断やわ、相当あかんやん!!!」
彼女は電話口で吐き捨てる。
「うううーん、そうやけど一応モデル私やしなあ~」
「わかってるって!」
えええ~、わかっていて、そんなあ~。
「美央、心配せんでええで。十分、この主人公はダメ女やからな!」
ううう~ん、別にダメ女自体を描きたかったわけじゃないんだけど。
「お、赤ちゃん(沙織は無事41歳で可愛い女の子を出産したのだ)がぐずり始めたから、またな。まあ、そんなママ友の書評なんで気にしんとき。十分美央のダメさが伝わってくるから。だいじょうぶやで。じゃあ、ほなな!」
そう沙織は元気づけてくれているのか、私がただ単にダメなヤツだと言いたいのか、よくわからない反応をして早々に電話を切ってしまった。
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