扉の向こうには穏やかな顔をした先生が座っていた。
「お久しぶりですね」
にこやかに先生が言う。どうやら覚えていてくれたらしい。
嬉しい反面、これだけ私の紹介した人が来てるんだもん、覚えてくれていたって、罰は当たらないよねとも思う。
「では背後を見させていただきますね」
うわ~! 出た!
パチンっと電気を消され、一本だけろうそくに火がともされる。ほの暗い炎の背後に浮かぶ先生の整った顔。
燭台を持った先生がぐるりと私の背後を照らし出す。先生の視線は私を通り越したところにあって、前回同様、「あ~」とか「うんうん」とか「ふーん」とか言いながら私の肩越しに向かって先生が頷いたり何やら納得していたりしている。
この瞬間はどこを向いていたらいいのか、さっぱりわからない。ちょっとの沈黙のあと、電気を点けた先生が、
「うん、だいじょうぶ、だいじょうぶ。変なのはやっぱり憑いていない」
と言う。
ああ~、良かった。何か憑いていたら大変なことである。
「受験生がいますか?」
唐突に切り出す先生。
「はい?」
「あなたの周りに受験生がいますか?」
再度念を押すように畳み込む先生。
「いや、いません!」
きっぱり断言する私。私にとって受験生って、「サザエさん」における甚六さんのような存在で、イメージ的にはどうも受験イコール大学受験なのだ。
大学受験といえば、該当する年代といえば、夫の甥や姪ぐらいしか思い浮かばない。
「そんなはずがありません。絶対にいるはずですよ」
あくまでも自らの主張を譲らなさそうな先生。
ええ~、受験生っていえば、そうねえ~。
あ! わかった!
私の上の弟の長男が中学受験をするって燃えていたっけ。
小学校4年生(当時)なのに毎月塾代に10万円以上使っていた私の甥っこ。
そうだ、そうだ! 私の甥っこのことに違いない!
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