2010年9月29日水曜日

試験を終えて③

 「試験自体は完璧だったんだよ。あそこはペーパーって難しくないから。だけど落ちたということは、理由はひとつしか考えられないんだよ」
 眉間に皺を寄せながら、小声でヒソヒソ話す由美子さん(仮名)。

 「試験当日って寒かったんだよねえ。それでね、私、一番やってはいけないことをやっちゃったんだ」
 「何? やっちゃいけないことって?」
 「もうね、そんなのね、小学校受験のタブー中のタブーなんだよ」
 「ええ?? 何それ? いったいどんなタブーなわけ?」
 興味津々の私。
 「雪美(仮名)にコートを掛けちゃったんだよね」
 「は? コート? なんだって?」
 それがいったいなんでタブーなのか?

「それは廊下で待たされている時間のことなんだけど、試験以外の時間も見られてるんだよ。学校の門をくぐって門から出るまでは気を抜くなってのは鉄則中の鉄則でね、母親があれこれ世話を焼いている様子というのは最悪なんだよ。その話をSG会(←Wの倍以上のお月謝!)の先生にしたら、“あ~あ、原因はそれですね”だって」
へえ~、たかがコートを掛けたぐらいでねえ~。やっぱりなんだかよくわからない世界だな。

「でもいいの。もう終わったことだし」
「そうだよっ! そもそも由美子さんG大附属O小の抽選通ったときに運を全部使い果たしたって超落ち込んでたじゃんっ! で、ちゃっかりT大附属T小の抽選だって通ったんだから人騒がせだよ。しかもO小って希望でもなんでもないんでしょっ!」
「そうだけど落ちればやっぱりへこむって! 他落ちた私立だって模擬では全部A判定が出てたんだけど、本番じゃあ全然ダメだしさ。小学校受験ってほんと、どう転ぶかわかんないんだよねえ~」
しみじみ語る由美子さん。

「でもさ、G大附属T小の抽選に落ちてまったくやる気をなくした私に、由美子さんいろいろアドバイスしてくれたじゃん」
「うんうん」
「それでとりあえず勉強させる気になったんだけど、それはそれは怒鳴ってばかり怒ってばかりのストレスフルな毎日だったけど、いい経験させてもらったというか、本人にとってはつらかったかもしれないけど、これほどまで子どもと1対1で向き合う機会が今までなかったんだよね~」
「そうなの! そうなの! 私たちフルタイムで働いてるでしょ。今たまたま私は育休中だけど、やっぱ働いてるとなかなかじっくり子どもと向き合う機会ってないじゃない。うちも毎日夜の11時までいっしょに勉強したり、夕食もマクドナルドになっちゃったりってあったけど、雪美と毎日濃い日々を過ごしたって感じ。もちろんうちだって何度“なんでできないんだ!?”ってふたりで泣いたかわからないし、私だって手も出たこともあったよ。けどどうであれ、それも今日までだね」
「ほんとほんと。私たちもがんばったよ(←って由美子さんほどじゃないだろっ!)。うん。私たちに乾杯。おっ、ジョッキが空になってるじゃないのぉ~」
そういって追加のビールを頼む私たち。
酔っ払ってきたせいか、周りの冷たい視線なんて知るかってなもんだ。

すっかりできあがってジョナサンをあとにするとすでに辺りは暗くなり始めていた。
その足で保育園にいる息子を迎えに行く。
するとバッタリ朔美ちゃん(仮名)とママに出くわす。
「朔美ちゃん。明日だね。がんばって!」
「もうほんと、記念ですみませんって感じだよ。今日Aちゃんはどうだった?」
「今年は行動観察があったよ」
「へえ~。でもどうせ受かんないから。もうサクって終わらせたいって感じだよ」
とすっかり腰が引けている様子。
「そんなのどうなるかわかんないよ。こればっかりは」
「いや、うちはAちゃんほど準備もしてないから」
なんて会話を交わしながら家路に向かう。

試験が終わったらお祝いに近所にできたばかりのフレンチに行くことになったいた。
明日から夫と息子は一足先にロンドンに飛ぶことになっている。試験も終わって1週間近くも娘とふたりっきりになるのだ。
コンクリートが剥き出しながらも不思議と温かいぬくもりを感じるレストランで私たちは大いに食べ、大いに飲んだ。
前もって頼んであったデザートの盛り合わせのプレートには「Aちゃん、よくがんばりました」の文字が。
「わあ~。お誕生日でもないのにすごぉ~い。今日はパフェも食べたのに、これがクイズ大会の優勝(←だからまだ合格してないっつうの!)のごほうびなんだね」
と娘はうれしそうだ。

あとは本当に優勝あるのみ!
果たしてこの結果は? 

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