20分ほど経ったところで、やっと由美子さん雪美ちゃん(仮名)親子が出てきた。
「終わったね~」と言いながら駅方面に向かう私たち。さすがに試験当日は業者の列はできていない。
駅近くの遊歩道にはちょうど子どもがよじ登れるようなモニュメントみたいなものがあって、試験帰りらしき子どもたちが何人も遊んでいる。
さっそくそのモニュメントみたいなもので遊び始める娘と雪美ちゃん。
さっさとどっか適当なところに入ってお茶でもしたいところだが、試験が終わった解放感からだろうか、子どもたちはきゃっきゃと言いながら遊んでいる。
まったくぅ~、ここでそんなに遊びたいんだったら、T大附属T小に入学したあといっくらでもできるじゃないの。結果も出てないのに妙に楽観的な私。
子どもたちの気が済んだところで、駅の近くにあるジョナサンに入る。
あ~ら。皆さん、試験帰りのお母様とそのお子さまのグループばっかり! 皆様、和やかにケーキなど召し上がっていらっしゃる。
ほぼ満席ながらなんとか席を確保した私たち。娘が「パフェ、パフェ」とうるさいので、それにつられて雪美ちゃんも「パフェ、パフェ」と節をつけながら繰り返している。
「ここってパフェあったっけ?」と言いながら、メニューを開ける私たち。
あ~あ、終わった! 終わった!
ってな気分のときにお上品にお茶なんて飲んでられまして?
「由美子さん、飲むよね?(←もちろん有無を言わせぬ迫力でっ!)」
てめー、ここで「いや、私は紅茶で」などと言い出しやがったら、「皆さ~ん、年金不安の諸悪の根源はこの女のせいなんですよ~!!」(←由美子さんは厚労省のお役人)と、この場で大声で叫んでやる!!
と思ってたら、「いいね、いいね。つまみは?」などとナイスな反応を見せてくれる。
さすがは長妻チルドレン(←当時)。
「お疲れっ! プハァ~」
生ビールの大ジョッキを昼まっからあおってる私たち。気のせいかお上品なお母様方がこちらをヒソヒソ眉をひそめながら眺めているような。
でも気にしないもんねっ! 試験も終わったんだし。
娘たちはきゃっきゃと楽しそうにパフェをつついている。
自分に甘く子どもには厳しい私は子どもたちにパフェとか食べさせたことがなかった。
「クイズ大会に優勝した(←おいっ! まだ結果は出てないぞ!)ごほうびはパフェだったんだね」
とうれしそうな娘。ジョナサンのパフェでそんなに頑張ってくれたんだったら安いものだぞ。
最初の1杯を速攻で飲み干し、「ジョッキ、お代わりっ!」とお受験親子のサロンのようになっていたジョナサンでいきなり居酒屋のノリを持ち込んだ私たち。
しかし昼間のビールは回るよね~。
「雪美がね、図形問題4問残したって言うんだよねえ~。もう終わったねって感じ。ボーダーも越えないよ。これじゃあ。Aちゃんはどんな感じ?」
由美子さんが子どもたちにあまり聞こえないようにコソコソと話し出す。でも子どもたちは子どもたちで盛り上がっていて、まったく私たちの会話など聞いちゃいない。
「うちの子は1問残したって言ってた。けど合ってるかどうかは別問題だよ。制作は最後のノリをつけるところで終わっちゃったみたい」
「ええっ! そんなところまで進んだの? 雪美は半分ぐらいまでしかやってないって! クマ歩きとかは?」
「うん。先生に“天才!”ってほめられたらしいよ」
「はあ~。すごいね。Aちゃん。うちは全然そんなことなかったみたいよ」
「あ、あとね。始めのあいさつとか終わりのあいさつとかあったみたいよ」
「何それ? 雪美! 雪美ちゃんのクラスでは始めのあいさつとか終わりのあいさつとかあったの?」
「ええ~? そんなのなんにもないよ。先生が“始めます”って言って、“終わります”って終わっただけだよ」
「白のお部屋はね、先生から“誰かあいさつできる人はいますか?”って聞かれてみんなの前であいさつしたんだよ」と娘。
「そんな話、始めて聞いたよ。うちが通っていたSG会(←超高額!)でもそんな話出なかったもん。で、どうしたの?」
「えへ。始めのあいさつで手を挙げたのは私だけで、“皆さん、今日はとってもいいお天気ですね。今日のこのいいお天気に負けないように晴れやかな気持ちで、今日のクイズ大会をがんばりましょう”ってあいさつしたんだよ。そしたら“すばらしいですねえ”ってほめられて拍手いっぱいもらったよ」と得意げに話す娘。
「“晴れやかな気持ち”って、Aちゃんすごすぎっ! あ~あ。やっぱ雪美、落ちたね。Aちゃんは合格間違いないよ。それだけできてるし、あいさつもすばらしいよ」
暗い顔をする由美子さん。
「そんなのわかんないじゃん。たまたまAの部屋はあいさつさせたけど、全部のクラスがやったわけじゃないだろうし」
「いいや。Aちゃんは間違いなく合格してるよ。だって頭の出来が全然違うもん。でもね、負け惜しみじゃないけど、うちは私立が1校通ってるからそっち行けばいいからね。だからここがダメでも気楽といえば気楽なんだよ」
「あ、そうそう。そういえばG大附属O小、どうした?」
「もう2次でそっこーで落ちたよっ! そうそう、そのときの話聞いてよっ! 思い出すだけでも腹が立つ。あ、おねえさん、大ジョッキ、もう一杯っ! 美央さん、飲むよねっ!?」
なんだか目が据わり始めた由美子さん。
そうそう、このときからさかのぼること1ヶ月半前。
皆さんはG大付属O小の抽選に由美子さん親子といっしょに抽選に出かけて、うちは見事にハズれ、由美子さんのところは抽選に通り、なぜか落ち込む由美子さんをハズした私たちが一生懸命慰めたというエピソードを覚えておいでだろうか。
その後の後日談をこの場で聞くことになったのであった。
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