2009年5月27日水曜日

2008年6月のある日の夜⑤

「小説ってなんやねん。お前、どんなん書いてんの?」
と超大手広告代理店Hの局長代理田上さん(仮名)がニヤニヤしながら聞いてくる。
「ええっと、恋愛小説」
「恋愛小説!?」
「いや、こいつね、昔会社の金使ってモロッコに出張に行って、現地の男とやりまくっとったんですわ。まあ言ってみればこいつの男遍歴の告白本ですわ。もうエロいしエグイし大変でっせ」
なぜか解説を始める森田(仮名)。そうだ、思い出した。この男にも最初原稿を送ってたんだった。レスポンスの早い本田くん(仮名)とはうってかわり、この男は原稿を送ってもうんともすんとも言ってこない。むむむむ。

「そういえば、あんたに原稿送っとったよなあ。あれ読んだんか?」
「速攻で読んだっちゅうねん」
「あれそうなの?」
「いや、実はおもろかったわ。続きはないんけ? はよ送ったってくれよ」
「そう言ってもあんた、全然レスポンスないやん。本田くんを見てみい。すぐに連絡をくれていろいろと感想やらアドバイスとかくれるで。彼は編集者の鏡やで」
「いや、ほんまや。俺、最低な編集者やなあ。本田は正しい! っていうか、俺は悪いけど、もう編集者やなくて社長やっちゅうねん! 俺は社長業が忙しいねん!」
となぜか私の後頭部をどつくふりをする森田。ひとり漫才である。

 「ふう~ん。なんかおもろそうやん」
 いつの間にか3杯目のビールを頼んでいる田上さん。
 「これね、マジでおもしろいんですよ。清永さんのあんなことやらこんなことやら赤裸々に描かれてますから。これがまたエロいんですよ。文章もね、実はうまいんですよ」
 ここでも褒めてくれる本田くん。すばらしい。
 「へえ、清永の男遍歴かあ。そいつは読みたいなあ。俺はお前の恋愛関係はほとんど把握しているつもりやったんやけど、まんだいろいろとやっとったんやなあ。っていうか、おまえ、俺のことは書くなよ」
 こらこら。やったことないやん! というより私の純恋愛(私的には)小説がなんで、好色一代女みたいな扱いをされているのだ! 遺憾である。

 「俺も読みたいなあ。このふたりは読んでるのに、俺だけ読んでへんって、いややん。お前、帰ったら速攻で俺にも送ってくれよ」
 「わーい、田上さんも読んでくれるの? じゃあ送る送る」
 「おう、楽しみにしてるで」
 
「うちのグループ本体の社長の西岡さん(仮名)やったら、すぐに映画化やって言いだすやろうけどな」
と森田。
「何よ、映画化って」
「なんかあの人、本読んだらすぐに製作委員会を立ち上げて映画化に話持ってくんよ」
「へえ、映画化かあ」
「いいと思いますよ。モロッコの映像とかきれいそうだし、そうなったら原作はうちで、ノベライズは森田さんのところですかね」
と本田くん。
 「それはええねえ。で、西岡さんのところからサントラ盤を出して・・・」
 「もちろん、代理店にはうちを噛ませてもらうで」
 おおっと田上さんまで参入だ。
 みんな飲んだくれている席で適当なことを言っているだけの状態をはいえ、スケールの大きな仕事をしている森田や田上さんも加わると、与太話もでっかくなってくる。その後は版権がどうこうとか分配がどうだとか業界用語が飛び交いだす。
 そうかあ。映画化かあ。考えたこともなかったよなあ。

 その日はその後もガンガン、ビールを飲み、もう何の話をしていたのか途中からどうでもよくなりわからなくなってしまったが、単純な私は夢を見た。
 それは私が書いた小説が映画化されて、みんなでロケ地であるモロッコのエッサウィラに行くのだけど、どうもそこは私が知っているエッサウィラではないのだ。
 海外には間違いないんだけど、都内の私の住んでいる部屋とつながっていたりして、距離的な感覚もめちゃくちゃだし、ハリウッドスターやら日本の芸能人やら、なぜか小学生の時の同級生やらが、同じ場所にいて映画作りに参加しているのだ。
 もちろんありえない設定だ。
 で、肝心な私は何をしてたかといえば、飲んだくれたあげく、ハンモックに揺られながら、夫はなぜかジュード・ロウに変身していて(←それ、絶対にいい! ジュード・ロウかっこよすぎ♡)、ジュードにハンモックをもっと激しく揺すられて、気持ち悪いよなあ、けど彼はかっこいいし、揺らされると気持ち悪いんだけど、美しい彼の顔をもっと近くでみていたいしと激しく葛藤した揚句、身悶えていたのである。
 ついでに洋服がイマイチでいやだなあと夢の中までウジウジと考えていたことを追加しておく。

 翌朝ひどい二日酔いだったのは言うまでもない。

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