2010年9月30日木曜日

発表前夜①

 T大附属T小学校の2次試験の翌朝、夫と息子はイギリスに旅立った。
 試験が終わってしまえば娘は日本にいる必要はないので、今から思えば7万円も出して(←私が払わされたけどなっ!)航空券の日にち変更をしたのはムダだった。
 ま、こういうこともあるさ。しかたない。けど7万円はやっぱ痛い出費だよな。

 毎晩、「クイズ大会の練習」と称して娘と一緒に勉強してきたので、その習慣がなくなってしまうと何やらポッカリ穴があいたような不思議な気分。
 娘よ。もう「ちぎり」の練習はしなくていいんだよ。
 私もこれからは心穏やかに過ごそう。
 きっと家族の平和も戻ってくるだろう。

 そうそう、書き忘れていたけど試験が終わって家に帰ってきてから、レストランにお祝いに出かけるまでの時間、私はWの新田先生(仮名)に電話をした。
 Wにはいろいろな情報を与えてもらった。その分のお金を払ったのだから当然だろうとも言えるが、いただいた貴重な情報は先達のお受験ママたちからの実体験を伴うリアルなものだった。
 こういうのはもらいっぱなしなのではなく、人としてやはり後に続くお受験ママたちのためにお返しするのが筋というものだろう。
 珍しく律儀な気分になる私。こんな気分は10年に1回あるかないかだけなので、味わえるときに味わっておかないとね。

 「Bグループ女子の試験についてちょっとお耳に入れたいことが」
 「どうしましたか?」
 電話口でも快活な新田先生。
 「確かに先生が仰っていたとおりの試験の流れだったんですけど、ひとつだけ今まで聞いたこともない展開があったんです」
 「ほう。それは?」
 「実はうちの娘の部屋では試験が始まる前に先生から、“試験が始まる前のあいさつができる子はいるかな?”っていう問いかけがあったそうなんです」
 「ほう。始めのあいさつですか。それは確かに初耳ですね。今までT大附属T小学校の試験ではそんな話は聞いたことがありません。それでどうなさいましたか?」
 「うちの娘は白の部屋で7番だったんですけど、“はい。私がやります”と娘だけが手を挙げて、“白の7番さんだけですか? では白の7番さんどうぞ”と言われたので、娘はあいさつを始めたそうなんです」
 「ほほ~う。ひとりだけですか。うんうん。それはすごいですねえ。それで?」
とちょっと興奮気味の新田先生。

 「“皆さん、今日はとってもいいお天気ですね。このお天気に負けないような晴れやかな気分で皆さん、クイズ大会をがんばりましょう”ってあいさつしたそうなんです。それで先生が“白の7番さんのあいさつはどうでしたか? すばらしかったですね。じゃあみんなで大きな拍手”とおっしゃってみんなから拍手してもらったそうです」
 「ほおお~。それはすごいっ。“晴れやかな気分”なんてよくそんな難しい言葉がその場で出ましたね。まあ“クイズ大会”っていうのはよくわかりませんけど、かなりいいですねえ。有望ですよっ!」
 
「それで終わりのあいさつっていうのもあったらしいんです。最初にあいさつしているので、そのときには娘は手を挙げなかったらしいんですけど・・」
 「うんうんうん」
 「で、今度は白の23番さんという子がひとりだけ手を挙げたそうで、その子は“皆さん。今日は皆さん全力を尽くしてがんばりました。お疲れ様でした”とあいさつしたそうで、そのときも先生から“すばらしいですね。じゃあ白の23番さんに大きな拍手”ということで、みんなで拍手したそうです」
「おお~。その子もすばらしいですねえ。白の23番さんもうちの受講生だったらうれしいんですけどねえ」
「先生、どう思います?」
「やっぱり今年から行動観察を入れた一環なんですかねえ。ほんと、今までにそんな話はまったくなかったですよ。聞いた限りではお子さんもその白の23番さんもかなり有望ですよ。かなり可能性あるんじゃないですかねえ~。結果が楽しみですね」
「こういった情報が明日のCグループの方にも役立つといいんですけど」
「大変参考になります。どんなささいなことでもいいので何か思い出したことなどありましたら、いつでもご連絡くださいね」
「はい。お役に立てて光栄です」

などと殊勝なことを言う私。それもあるけどどっちかといえば新田先生から、「そりゃあ合格間違いないですよっ!」などと太鼓判を押してもらいたい気持ちが強いのが本音だ。
そりゃそうよねえ。
私だって人の親ですもの。 

 さあWの話が出たところで、娘のお受験のためにいくら使ったのか、計算してみよう。
 (←ちょっと唐突)

まずはWの講習代。これが一番かかっているはずだ。
 ・T大附属T小 直前対策 基礎編2回 ¥23,000
 ・T大附属T小 模擬         ¥12,000
 ・T大附属T小 入試一日体験     ¥12,000
 ・T大附属T小 Bグループ前日講習  ¥12,000
 合計 ¥59,000なり

 それなりに使ってるが、みっちゃん(仮名)や由美子さん(仮名)のところが通っていたSG会は月の基本月謝が7万円である。それに様々な講習をくっつけて多いときには20万ぐらいになるときがあると言っていたから、それを考えるとWは良心的な料金設定だろう。
 しかもふたりのところはSG会に1年通ったわけだから、軽く100万円は超えてるはずだ。                       
 
それ以外には問題集や過去問。この内訳はばっちりくんドリル8冊、T大附属T小特訓2冊、過去問2冊、製作ドリル2冊、T大附属T小製作キット、T大附属T小「お話の記憶」問題集、T大附属T小「図形Bグループ」、その他親用の面接本などしめて、¥25,000

お受験グッズ関連では、スリッパ¥1,500、娘の上履き¥600、ブラウス¥780(西松屋)、¥980(ジャスコ)、¥4,200(←百貨店のバーゲン品。当日着用)、キュロット¥3,400(←百貨店の。当日着用)、¥1,980(ジャスコ)、カーディガングレー¥1,500(ジャスコ)、ベストグレー¥980(ジャスコ、当日着用)、ベスト紺¥980(ジャスコ)、セーター紺¥980(ジャスコ)、靴下¥98のを3足(しまむら)で計¥294
 髪留め紺とグレー各¥600(百貨店)で計¥1,200
合計¥19,374

すごいっ! これだけこまごまといろいろなものを買っているのにもかかわらず2万円切ってる! 全部百貨店で揃えるとキュロットだけでも¥13,000するから私ったらお買い物上手!(←そのわりにはいらんものもたくさん買ってるが、この際目を瞑ろう)
やっぱりお受験スーツをケチって買わなかったのも大きかったのかしら♪

あとは交通費。バスやら地下鉄やらで¥5,000ぐらい。
で飛行機のキャンセル料¥70,000とお受験写真代¥2,000と住民票の写し1通¥600を合計すると、¥180,974なり。
上記の金額を娘のお受験に注ぎ込んだことになる。
しめて20万円以下。これで受かれば安いものだろうが、ダメだったら無駄金だ。
こういう費用を人は「子どもへの投資」と呼ぶのか。

さてこの投資。吉と出るか凶と出るか。

2010年9月29日水曜日

試験を終えて③

 「試験自体は完璧だったんだよ。あそこはペーパーって難しくないから。だけど落ちたということは、理由はひとつしか考えられないんだよ」
 眉間に皺を寄せながら、小声でヒソヒソ話す由美子さん(仮名)。

 「試験当日って寒かったんだよねえ。それでね、私、一番やってはいけないことをやっちゃったんだ」
 「何? やっちゃいけないことって?」
 「もうね、そんなのね、小学校受験のタブー中のタブーなんだよ」
 「ええ?? 何それ? いったいどんなタブーなわけ?」
 興味津々の私。
 「雪美(仮名)にコートを掛けちゃったんだよね」
 「は? コート? なんだって?」
 それがいったいなんでタブーなのか?

「それは廊下で待たされている時間のことなんだけど、試験以外の時間も見られてるんだよ。学校の門をくぐって門から出るまでは気を抜くなってのは鉄則中の鉄則でね、母親があれこれ世話を焼いている様子というのは最悪なんだよ。その話をSG会(←Wの倍以上のお月謝!)の先生にしたら、“あ~あ、原因はそれですね”だって」
へえ~、たかがコートを掛けたぐらいでねえ~。やっぱりなんだかよくわからない世界だな。

「でもいいの。もう終わったことだし」
「そうだよっ! そもそも由美子さんG大附属O小の抽選通ったときに運を全部使い果たしたって超落ち込んでたじゃんっ! で、ちゃっかりT大附属T小の抽選だって通ったんだから人騒がせだよ。しかもO小って希望でもなんでもないんでしょっ!」
「そうだけど落ちればやっぱりへこむって! 他落ちた私立だって模擬では全部A判定が出てたんだけど、本番じゃあ全然ダメだしさ。小学校受験ってほんと、どう転ぶかわかんないんだよねえ~」
しみじみ語る由美子さん。

「でもさ、G大附属T小の抽選に落ちてまったくやる気をなくした私に、由美子さんいろいろアドバイスしてくれたじゃん」
「うんうん」
「それでとりあえず勉強させる気になったんだけど、それはそれは怒鳴ってばかり怒ってばかりのストレスフルな毎日だったけど、いい経験させてもらったというか、本人にとってはつらかったかもしれないけど、これほどまで子どもと1対1で向き合う機会が今までなかったんだよね~」
「そうなの! そうなの! 私たちフルタイムで働いてるでしょ。今たまたま私は育休中だけど、やっぱ働いてるとなかなかじっくり子どもと向き合う機会ってないじゃない。うちも毎日夜の11時までいっしょに勉強したり、夕食もマクドナルドになっちゃったりってあったけど、雪美と毎日濃い日々を過ごしたって感じ。もちろんうちだって何度“なんでできないんだ!?”ってふたりで泣いたかわからないし、私だって手も出たこともあったよ。けどどうであれ、それも今日までだね」
「ほんとほんと。私たちもがんばったよ(←って由美子さんほどじゃないだろっ!)。うん。私たちに乾杯。おっ、ジョッキが空になってるじゃないのぉ~」
そういって追加のビールを頼む私たち。
酔っ払ってきたせいか、周りの冷たい視線なんて知るかってなもんだ。

すっかりできあがってジョナサンをあとにするとすでに辺りは暗くなり始めていた。
その足で保育園にいる息子を迎えに行く。
するとバッタリ朔美ちゃん(仮名)とママに出くわす。
「朔美ちゃん。明日だね。がんばって!」
「もうほんと、記念ですみませんって感じだよ。今日Aちゃんはどうだった?」
「今年は行動観察があったよ」
「へえ~。でもどうせ受かんないから。もうサクって終わらせたいって感じだよ」
とすっかり腰が引けている様子。
「そんなのどうなるかわかんないよ。こればっかりは」
「いや、うちはAちゃんほど準備もしてないから」
なんて会話を交わしながら家路に向かう。

試験が終わったらお祝いに近所にできたばかりのフレンチに行くことになったいた。
明日から夫と息子は一足先にロンドンに飛ぶことになっている。試験も終わって1週間近くも娘とふたりっきりになるのだ。
コンクリートが剥き出しながらも不思議と温かいぬくもりを感じるレストランで私たちは大いに食べ、大いに飲んだ。
前もって頼んであったデザートの盛り合わせのプレートには「Aちゃん、よくがんばりました」の文字が。
「わあ~。お誕生日でもないのにすごぉ~い。今日はパフェも食べたのに、これがクイズ大会の優勝(←だからまだ合格してないっつうの!)のごほうびなんだね」
と娘はうれしそうだ。

あとは本当に優勝あるのみ!
果たしてこの結果は? 

2010年9月24日金曜日

試験を終えて②

 20分ほど経ったところで、やっと由美子さん雪美ちゃん(仮名)親子が出てきた。
 「終わったね~」と言いながら駅方面に向かう私たち。さすがに試験当日は業者の列はできていない。
駅近くの遊歩道にはちょうど子どもがよじ登れるようなモニュメントみたいなものがあって、試験帰りらしき子どもたちが何人も遊んでいる。

さっそくそのモニュメントみたいなもので遊び始める娘と雪美ちゃん。
さっさとどっか適当なところに入ってお茶でもしたいところだが、試験が終わった解放感からだろうか、子どもたちはきゃっきゃと言いながら遊んでいる。
まったくぅ~、ここでそんなに遊びたいんだったら、T大附属T小に入学したあといっくらでもできるじゃないの。結果も出てないのに妙に楽観的な私。

子どもたちの気が済んだところで、駅の近くにあるジョナサンに入る。
あ~ら。皆さん、試験帰りのお母様とそのお子さまのグループばっかり! 皆様、和やかにケーキなど召し上がっていらっしゃる。
ほぼ満席ながらなんとか席を確保した私たち。娘が「パフェ、パフェ」とうるさいので、それにつられて雪美ちゃんも「パフェ、パフェ」と節をつけながら繰り返している。
「ここってパフェあったっけ?」と言いながら、メニューを開ける私たち。

あ~あ、終わった! 終わった!
ってな気分のときにお上品にお茶なんて飲んでられまして?
「由美子さん、飲むよね?(←もちろん有無を言わせぬ迫力でっ!)」
てめー、ここで「いや、私は紅茶で」などと言い出しやがったら、「皆さ~ん、年金不安の諸悪の根源はこの女のせいなんですよ~!!」(←由美子さんは厚労省のお役人)と、この場で大声で叫んでやる!!
と思ってたら、「いいね、いいね。つまみは?」などとナイスな反応を見せてくれる。
 さすがは長妻チルドレン(←当時)。

「お疲れっ! プハァ~」
生ビールの大ジョッキを昼まっからあおってる私たち。気のせいかお上品なお母様方がこちらをヒソヒソ眉をひそめながら眺めているような。
でも気にしないもんねっ! 試験も終わったんだし。
娘たちはきゃっきゃと楽しそうにパフェをつついている。
自分に甘く子どもには厳しい私は子どもたちにパフェとか食べさせたことがなかった。
「クイズ大会に優勝した(←おいっ! まだ結果は出てないぞ!)ごほうびはパフェだったんだね」
とうれしそうな娘。ジョナサンのパフェでそんなに頑張ってくれたんだったら安いものだぞ。

最初の1杯を速攻で飲み干し、「ジョッキ、お代わりっ!」とお受験親子のサロンのようになっていたジョナサンでいきなり居酒屋のノリを持ち込んだ私たち。
しかし昼間のビールは回るよね~。
「雪美がね、図形問題4問残したって言うんだよねえ~。もう終わったねって感じ。ボーダーも越えないよ。これじゃあ。Aちゃんはどんな感じ?」
由美子さんが子どもたちにあまり聞こえないようにコソコソと話し出す。でも子どもたちは子どもたちで盛り上がっていて、まったく私たちの会話など聞いちゃいない。

「うちの子は1問残したって言ってた。けど合ってるかどうかは別問題だよ。制作は最後のノリをつけるところで終わっちゃったみたい」
「ええっ! そんなところまで進んだの? 雪美は半分ぐらいまでしかやってないって! クマ歩きとかは?」
「うん。先生に“天才!”ってほめられたらしいよ」
「はあ~。すごいね。Aちゃん。うちは全然そんなことなかったみたいよ」

「あ、あとね。始めのあいさつとか終わりのあいさつとかあったみたいよ」
「何それ? 雪美! 雪美ちゃんのクラスでは始めのあいさつとか終わりのあいさつとかあったの?」
「ええ~? そんなのなんにもないよ。先生が“始めます”って言って、“終わります”って終わっただけだよ」
「白のお部屋はね、先生から“誰かあいさつできる人はいますか?”って聞かれてみんなの前であいさつしたんだよ」と娘。

「そんな話、始めて聞いたよ。うちが通っていたSG会(←超高額!)でもそんな話出なかったもん。で、どうしたの?」
「えへ。始めのあいさつで手を挙げたのは私だけで、“皆さん、今日はとってもいいお天気ですね。今日のこのいいお天気に負けないように晴れやかな気持ちで、今日のクイズ大会をがんばりましょう”ってあいさつしたんだよ。そしたら“すばらしいですねえ”ってほめられて拍手いっぱいもらったよ」と得意げに話す娘。
「“晴れやかな気持ち”って、Aちゃんすごすぎっ! あ~あ。やっぱ雪美、落ちたね。Aちゃんは合格間違いないよ。それだけできてるし、あいさつもすばらしいよ」
暗い顔をする由美子さん。

「そんなのわかんないじゃん。たまたまAの部屋はあいさつさせたけど、全部のクラスがやったわけじゃないだろうし」
「いいや。Aちゃんは間違いなく合格してるよ。だって頭の出来が全然違うもん。でもね、負け惜しみじゃないけど、うちは私立が1校通ってるからそっち行けばいいからね。だからここがダメでも気楽といえば気楽なんだよ」
「あ、そうそう。そういえばG大附属O小、どうした?」
「もう2次でそっこーで落ちたよっ! そうそう、そのときの話聞いてよっ! 思い出すだけでも腹が立つ。あ、おねえさん、大ジョッキ、もう一杯っ! 美央さん、飲むよねっ!?」
なんだか目が据わり始めた由美子さん。

そうそう、このときからさかのぼること1ヶ月半前。
皆さんはG大付属O小の抽選に由美子さん親子といっしょに抽選に出かけて、うちは見事にハズれ、由美子さんのところは抽選に通り、なぜか落ち込む由美子さんをハズした私たちが一生懸命慰めたというエピソードを覚えておいでだろうか。
その後の後日談をこの場で聞くことになったのであった。

2010年9月21日火曜日

試験を終えて①

 「クイズ大会、楽しかった?」
 「うん」
 もう試験内容に関して聞きたくてしかたがないことが山のようにある。
 逸る気持ちを抑えて(←抑えきれなかったと思うが!)、あれこれ娘に質問をぶつける。
 そう、要は一番聞きたいことは、「娘よ! 君は試験がちゃんとできたのかい?」。
 これに尽きるのである。

 「お話の記憶はどうだった? 時間がなくてできなかったところとかなかった?」
 「ううん。全部やったよ。わかんなかったことはないかな」
 「図形は? どんなのが出たの?」
 「やったことがないのが出たけど(←ちなみに出題されたのは左図通りに写しなさいという問題の変形バージョンで、書き写す側のマス目が変形しているけど位置は変わらないというものだった。←ってこの説明だとわかんないかっ!?)、最後の1問以外は全部できたよ」
 「おお~、1問を残したのみかっ! エライっ! じゃあ制作は? ちぎりは?」
 「うん。最後まで完成できなかった。あとね、ノリを貼れば全部できたんだけど」
 「そうかっ! でもほとんどできたも同然だなっ! 行動観察は? 何やったの?」
 「スポンジ(←すばらしいっ! Wの新田先生(仮名)の予測通り!)を積み上げてどのチームが一番高くできるかってのをやったよ。私たちのチームね、優勝したんだよ」
「それはよかったねえ。クマ歩きは?」
「うん。楽しかったよ。終わったときにね、先生から天才!って褒められたよ」

す、すばらしいっ! 相当できてるではないか!
「最初に先生に何か質問されなかった?」
「“朝ごはんに何を食べましたか?”って聞かれたから“おにぎりです”って答えたよ。その次に“おにぎりには何が入っていましたか?”って言われたから、“梅干とサケです”って言った」

そう、T大附属T小学校の口頭試問は、試験が始まる前に受験票に貼られた写真と本人を先生が確認するときに1問か2問、何か質問されると聞いていた。
このときに聞かれることはたいてい「朝ごはんに何を食べましたか?」とか「ここまで何で(←交通手段のこと)来ましたか?」という他愛のないもので、合否にはそれほど影響しないらしいが、一番大切なことはここではきちんと先生の目を見て話すことだという。
受け答えの利発さを求められているのではなく、視線が合わない子がいれば自閉の気や発達障害を疑い、排除するのだという。
「先生を目、ちゃんと見た?」
「うん。見たよ」
よしよし。

あと「朝ごはんに何を食べましたか?」と聞かれて、最悪なのは「何も食べていません」と答えさせることだけど、朝ごはんを通じてある程度ちゃんとした家庭であるということもこの際、アピールしておきたい。
なんとなく朝ごはんのことが聞かれそうな気がしていたので、おにぎりにしておいたのは正解だった。トーストというのも味気ないし、ご飯とおかずもあれこれあったって、子どもはとっさに答えられないからね。
国立小の口頭試問に必要なものは、“テンポ”。それに尽きるそうだ。

あとT大附属T小の試験は30人ひとつのグループとして色分けされ、赤の5番だとか青の26番だとかという番号が当日の受験番号になる。
Wの新田先生が言うには、教室は6人で一列、全部で5列という配置になり、お話の記憶のテープの位置や、黒板などは前にある関係から、一番前の真ん中辺りにあたる各色の7番、13番、19番は若干有利なのではないかということだった。
娘は白の7番であった。この点からいってもなんかいい感じだ。

「それとね、クイズ大会の始まる前にね、“これから試験を始めますが、誰か始めのあいさつが言える人はいますか?”って先生が言うからね」
何っ!? 始めのあいさつだと!? そんな話はWでも聞いたことないねっ!

「それで誰も手を挙げなかったので、私が手を挙げたのね」
えっ!? そうなの?
「で、どうなったの?」
あまりに意外な展開に思わず声がうわずる私。

「“はい、白の7番さんどうぞ”って言われたから、私あいさつしたの」
「ど、どんな?」
「“皆さん、今日はとってもいいお天気ですね。今日のこのいいお天気に負けないように晴れやかな気持ちで、今日のクイズ大会をがんばりましょう”ってあいさつしたんだよ」
「!!!」

「クイズ大会」かいっ! まあそうやって教えてきたのだから仕方がない。
それにしてもだ。「晴れやかな気持ち」だなんて、いつの間にそんな難しい言葉を覚えたんだ? 娘よ。
マジか? すばらしすぎるぞ。そのあいさつ。

「先生はそのあとなんて言ったの?」
「“皆さん、白の7番さんのあいさつはどうでしたか? すばらしかったですね。じゃあ拍手!”って拍手をいっぱいもらったよ」
ふっむっ! あまりの誇らしさに鼻の穴が膨らむ私。

「でね、終わったあとにね、“では終わりのあいさつができる人がいますか?”って言われたんだけど、そうしたら白の23番さんが“私が今度はやります”って手を挙げて・・・」
「ちょっと待った! そのときにAちゃん(←娘)は手を挙げなかったの?」
「うん。だって私、一度あいさつしてるんだもん」
エライ! あんまりやりすぎると単なるでしゃばりだもんね。

「で、白の23番さんはなんてあいさつしたの? あと他に手を挙げている子はいなかったの?」
「白の23番さんだけだったよ。白の23番さんはね、“今日は皆さん、全力を尽くしてがんばりました。本当にお疲れ様でした”だって」
すごい。「全力を尽くして」だって! やるなあ~。白の23番さん。
「先生はなんて言ってた?」
「“白の23番さんもすばらしいですね。じゃあ皆さん、拍手!”って拍手してもらってたよ」
おお~。娘と白の23番さんはかなり有望ではないかっ!
いいぞ~。いいぞ~。これはかなりいい線をいくのではないか?

「赤のお部屋はあいさつしなかったって」
「なんでそんなことがわかるの?」
「だってお部屋を移動するときに、赤のお部屋にいたお兄さんお姉さんに聞いてみたんだもん」
なんと娘なりに独自調査をしたというのか?
そうかあ~。部屋によるんだな。

「本当にそんなすばらしいあいさつしたの?」
 できすぎていてちょっと半信半疑な私。
「うん。そうだよ。褒められると気持ちいいね」
君の笑顔も今日の天気に負けないぐらい晴れやかだよ。

白の部屋は娘と23番さんで決まりだな。
すばらしいっ! 期待に胸高鳴る私であった。

2010年9月19日日曜日

T大附属T小学校試験当日②

 子どもたちが試験を受けている間、保護者たちは講堂へ。ちなみにこの日の私の姿はグレージュのインナーに紺のジャケットとスカート。
 ジャケットは袖は7分丈のものでスカートとジャケットはそれぞれ違うブランドで別々に買ったもの(←だいぶ前になっ)ながら、わりと似たような素材だったのでぱっと見はスーツみたい。
 結局お受験スーツは買わずじまいだった。

 前もって聞いていた通り、「T大附属T小学校の生活」というビデオを見せられる。
 内容も前もって聞いていた通り。しかし途中途中で先生のコメントが入る。
 実際に見てみると、聞いていたよりもなんだかすさまじい。
 運動会の様子が始めに映し出されるのだが、ちっとも楽しそうじゃなくて子どもたちの顔が本当に苦痛で歪んでいるのだ。

 「5年生の3人4脚はすごいですよ。なんといってもひとりひとり走るのよりタイムがいいですからね。だって連帯責任ですから」だとか、
 「3年生でなわとびの2重跳びは連続で15分はできるようになります。高学年になると30分はいけますね」だとか、遠泳や山登りでフラフラになりながらうつろな眼をしている子どもたちの表情がアップされた映像を見ながら、
 「本当にみんな一生懸命で可愛らしいですね」だとか、いちいち突っ込みどころ満載なコメントが入るのだ。
 Wの新田先生が言ってた通り、本当にあっちこっちから小さく「ひぃっ!」と押し殺したような声が上がる。

 しかしこの日のT大附属T小の先生のコメントで一番笑えたのが、
 「こんなビデオを見せられるとうちの小学校って遊んでばっかりいると思われたでしょう(←誰も思わへんわいっ!)。勉強もそれなりにちゃんとやってますからね」
というものだった。
 恐るべし。
 そして最後の締めの言葉が、やはり「これぐらいの体力のないお子さんはご辞退されたほうがよろしいかと思います」だった。
 体育学校のノリですな。まったく。

 そしてビデオが終わると前もって用意してあった志望動機を書き写す。
 志望動機を書いている途中で、真っ青な顔をした女の子がひとり講堂に連れてこられた。どうやら私の隣に座っていたお母さんのお子さんらしく、試験途中で気分が悪くなって退場させられることになったらしい。ここまできてなんて運の悪いことか。
 しかしこのお母さん、最初の一声を上げる前に「ちぇっ!」と舌打ちしたのを私は聞き逃さなかったねっ!
 そのあといくら「あらあら。どうしたの? だいじょうぶ?」などと優しく声をかけてたって、このお母さんの本音は「ちぇっ!」なのだ。
 しかしわかるぞ。その気持ち。痛いくらい。

 その後も2~3人、お腹が痛いだの、気持ち悪いだのという子が講堂に連れてこられて、お母さんといっしょに退場していた。
 どのお母さんも「マジかよっ! この期に及んで」と言わんばかりのわかりやすい表情をしていた。
 こうなってくるとうちの娘はだいじょうぶか!?と不安になってくる。
 しかしそんな不安もよそに1時間きっかり経ったあと、在校生のお兄さんお姉さんに誘導されて試験を終えた娘のグループが講堂に入場してきた。
 娘はニコニコしていて明るい表情をしていた。その姿を見るとなんだか胸がキュンとして、よし、よくやったっ! 頑張ったぞ!と誇らしい気持ちに目頭が熱くなる。
 あの辛かった日々。あれはもう今日で終わるのだ。

 私たちは手をつないで校門を出た。記念写真を撮って由美子さん(仮名)と雪美ちゃん(仮名)が出てくるのを待った。
 試験が終わったらお茶することになっていたのだ。

 ところがふたりは全然出てこない。とりあえず待っている間、娘にあれこれ試験のことを聞く。
 娘から聞かされた話にその後、私は大いに驚かされることになる。

2010年9月18日土曜日

T大附属T小学校試験当日①

 娘の試験開始時刻は午後1時からなので、午前中はゆっくりと過ごす。
 もう昨夜の前日講習以降はすべての勉強はストップ。ひたすらリラックスさせ、気持ちを楽にさせることに専念する。
 幸い、快晴でわりと暖かい日であった。
 試験日は来てしまえば、あとは腹をくくるのみである。

 バスにふたりで乗り込み、受付の始まる30分前に学校到着。続々と受験生が列を作っている。
 娘は特に緊張している様子はなく、
 「マミィ、クイズ大会が終わったらパフェ食べさせてね」
などと余裕の様子。
 いいとも、いいとも。今日さえ無事に乗り切ったら、パフェでもなんでも食ってくれ。

 教室に入るまでの手順などはWで講習を受けているので、迷うことなくちゃっちゃと済ます。
 娘のグループは白のグループで番号は7番。おお~、幸先よさそうな番号ではないかっ!
 教室には暖かい日差しが差し込んでいる。

 半そでの白い丸襟のブラウスに紺色のベスト、紺色のキュロット姿の娘は、ロングヘアーを二つに分けたみつあみをしていてめっちゃくちゃ可愛い。ぐるりと他の受験生を見回すと、とりたててめぼしい子はいない。
 見た目だけならうちの娘はダントツだぞ。
と親バカながらに思う。
親バカの色眼鏡で見ると、よその子はなんだか貧弱で貧乏臭い。
 だいたい筆記試験に通るのは7人に1人程度だといわれている。
 この教室で言えばだいたい4人ぐらいが2次通過するはずなのだ。
この場にいる先生は来年度1年生を担任する先生だそうで、いわば「自分のクラスにはこんな子がほしい」と思う生徒を合格させるそうなので、試験というよりはある種のオーディションみたいなものなのだ。
 私が先生なら絶対にうちの娘のような子は残すねっ! 傍で見ていても娘は目立っていて光り輝いて見えた。

 ただここでちょっぴり不安なことがひとつ。
 テストが始まるまでの待ち時間の間、在校生の6年生のお兄さん、お姉さんたちが各教室で絵本を読んでくれたり、歌を歌ってくれたり、紙芝居を見せてくれたりして受験生たちを和ませてくれるのだが、在校生のお姉さん方がどうにもダサいのだ。
 
個人的に昔から小学校高学年から中学生ぐらいの子どもは、一番ダサくて一番薄汚いと思っている。
 それにしてもだ! いくら薄汚い年代だと言っても、普通、いるだろう。せめて1人かふたりはハッとするような美少女が!

ところがこの学校の女の子で可愛い子がまったく見当たらないのだ。どいつもこいつも色が黒くて固太りで髪の毛がボサボサしていて、自分を可愛らしく見せようだとかきれいに見せようだとかという意思を1ミクロンも感じさせないのである。
 きっと運動はできて勉強もうんとできるんだろうけど、いいのか女の子として!?
 間違ってもバレエとか習っていそうな子がいないのだ。
 こんな中では女の子オーラ全開の娘はきっと浮いてしまう。
 それとも小学校に入ったら入ったで、娘もこんな感じになってしまうのか?
 それはそれで悩ましい。
 
 「トイレだいじょうぶ?」
 「うん」
と答える娘だが、どうにも不安になりちょっと無理やりトイレに連れて行く。
 「マミィ、こんなトイレじゃ、できないよぉ~」
と情けない声を出す娘。
し、しまった! 小学校のトイレは全部和式だった! 特にT大附属T小の校舎は古めなので、洋式トイレなどなかったのだった。
 しかも慣れないキュロット! 
 そう、今どきの子どもって和式トイレには慣れてないのよぉ~。
 これは小学校に入るまでに訓練せねば!

 そして教室に戻り、時間が来たら保護者たちは講堂へ。
 このときにWの新田先生(仮名)からアドバイスされていたのが、子どもたちが元気になる「魔法の言葉」をひと言かけてあげようというもの。
 もうここまで来たらどうにもならないのである。
 
「愛しているよ」
 「今日は思いっきり楽しんで」
 「Aちゃんならできるっ!」
 「あとでパフェ食べようね」
 「クイズ大会終わったらイギリスとニースに行くから」
 「今日はフランス料理食べに行くから」
 「あとでいっぱいむぎゅうってしようね」
等など・・・。

 ひと言が選びきれなくて延々と声をかけ続ける私。
 よそのお母さんたちを見ても皆さん、子どもの耳元で何やらブツブツと囁いている。
 きっとどこのお受験教室でも同じようなアドバイスをしてるんだろうな。

 娘はにっこりと微笑んで「またあとでね」と手を小さく振ってくれる。30人のグループに欠席(棄権!?)が4名、お母さんと別れるときになって泣き出した子が1名。
 よしこれで5人退場! ひたすら娘に有利になることばかりを祈る私である。

澪ちゃん(仮名)親子

 Wの前日講座を終えていざ帰ろうと家路に向かう私たち。
 娘からちらりと今日の判定を見せてもらうとどれもがA判定。
 よっしゃあっ~!!!
 この調子で明日も頑張れ!

 「なんかノド乾いちゃったなあ~」と娘。
 「おうち帰ったらオレンジジュースでも飲む?」などと話してたら、
 「あらっ! こんにちは! AちゃんもWの講習受けてたんだね」
と声をかけてきたのが澪ちゃんママと澪ちゃんの親子であった。
 澪ちゃんはうちの会社がやっている幼児教室で娘と同じクラスだ。
 そういえば澪ちゃんのママやパパをT大附属T小学校の抽選やら何やらで見かけたっけ。
 「澪ちゃんもBグループなんだね」
 「そうそう。うちは明日2時半からなんだ。Aちゃんは何時から?」
 「うちはその前の回なの」
 「そっかあ。じゃあ当日は会えないね」

 などと立ち話をしているうちに子どもたちもひょんなところで会えたことがうれしかったみたいで、盛り上がっている。
 なんだったらお茶でもということになり、目に入ったカフェに4人で入る。

澪ちゃんは年中のころからWの講習を受けていて、ママが専業主婦なので平日に通っていたとのことだった。
しかも家が江東区だというので、Wからえらい遠いところから通っていたことになる。
うちの幼児教室もWと最寄り駅は同じ(←ということはうちの地元)なので、わざわざ何回か地下鉄を乗り換えて週に何回もこの街に来てたということになる。すごいなあ。
つくづく歩いて行けるところになんでもあるのは、ありがたいことだと思う。

私はさっそくビール、澪ちゃんママは何やら可愛らしいカクテルを飲みながら(←お茶じゃないだろっ!)、あれこれ語る。
澪ちゃんママとは知り合って1年半以上は経つのに、こんなにおしゃべりするのは初めてだ。
話しているうちにうちの幼児教室には澪ちゃんが赤ちゃんのころから通っていて、また別の場所で会社が運営しているキッズ英語教室にも3歳のころから通っているということがわかった。
なんとすばらしいっ! 我が社のヘビーユーザーではないかっ!
それに加えてWも行ってたのかあ~。
子どもにお金をかける人はかけるものだ。

「明日、お互い頑張ろうね」
そう言い合って澪ちゃん親子と別れたのであった。

2010年9月16日木曜日

恐るべし! Wの前日講習

T大附属T小学校の2次試験がいよいよ始まった。
例年通り初日はAグループ男女、2日目がBグループ、3日目がCグループだ。
そしてWには前日講習なるものがある。
それは何か?

なんとBグループのために、Aグループの試験が行われる当日にAグループで出された試験問題が集められてそのデータを元に翌日行われるBグループの試験の傾向を予測するというもので、同様にCグループのために、Bグループの試験当日にデータが集められ翌日のCグループの試験に備えるという離れ業的な講習だ。
そんなこと物理的に可能なのか?
あとこの場合、一番割りを食うのは初日のAグループだ。

泣いても笑っても試験は明日。後悔のないように午後から早退し、娘とともに前日講習にゴーッ!
前日講習は午後3時40分から。もう会場は人! 人! 人! である。
講習料壱万弐千円也。例によって箱に無造作に放り込まれる万札! 万札! 万札!である。
わーい、現金だ、現金だ。

しかしすでに何百人分のAグループの今年の試験問題、それに対する予想問題がすでに完成していて印刷されてるなんて、いったいどうなってるわけ!?
だって最後のグループの試験が終わったのってついさっきなんじゃないの?
一番早いパターンでも男子の最初のグループが終わるのが午前10時ごろ、女子の最初のグループに至っては午後2時過ぎぐらいのはずだ。
それなのにもう男女別に試験内容をゲットし、対策を立ててるなんてすさまじすぎる!
恐るべしW。

 例によって保護者と子どもは分離させられ、子どもたちは今日出たAグループの出題を元に予測されるBグループ用の「お話の記憶」「図形」「制作」「クマ歩き」を行う。
保護者たちはカリスマ講師・新田先生(仮名)のありがたい解説だ。

まずは子ども編から。
本日出題された試験から今年の傾向を読み解く。
実際Aグループの図形の問題を見ると例年より易しめだ。通常Bグループの問題がAグループの問題以上に難しい問題は出ないので、基本さえきちんと押さえておけばだいじょうぶそうだ。
そしてなんと今年は「行動観察」が入っていたとのこと!

だいたい国立小のどこでも行われる「行動観察」はT大附属T小では過去行われたことがなかった。
ここにきてなぜいきなり「行動観察」?
この謎を鮮やかに解いてみせるのが我らが新田先生だ。
新田先生いわく、なんと今年の1年生であろうことか天下のT大附属T小で学級崩壊が起きているというのだ!
というわけであらかじめクラスの学級崩壊の要因になりそうな子どもを行動観察によって排除するという目的があるらしい。
さすが筆記試験ばっかりできたってダメだということよねえ~。

よって新田先生によるとこの場合の「行動観察」はグループを引っ張るリーダーシップの素養を見るだとか、グループのムードメーカーになっているだとか、協調性だとかそんな難しいことを考える必要はないらしく、ずばり問題児の排除だけなので、ほとんどの子は「行動観察」で引っかかることはないというのが結論だ。
「行動観察」の課題は男女ともスポンジのさいころ型を用い、男子はチームに分かれてどのチームが一番高く積み上げられるのかを競い、女子は協力しながらお城を作るというもの。

新田先生の予測はせっかくのスポンジなので明日も必ず使うとのこと。
すばらしいっ!
こういう「行動観察」なら娘はお手の物だ。
いいぞ、いいぞ。いい感じ。

「行動観察」が入った時間分、「制作」の時間が削られていてどうやら例年より易しくなっているとのこと。
これも娘にとっては好材料だ。

 あとは当日の流れを1日講習のときより詳しく解説されたり、今年は赤色のクーピーしか使わなかったという話だったり、どこでマスクをはずしたかという話だったりで微に入り細に入ってる。
 ほんと、まるで見てきたかのようなリアルな話ばかり。
 
こういう情報は会員でもある受験生やその親から試験が終了した時点で聞き出して、最低でも10人以上の一致した情報でウラをとっているのだという。
少人数の塾はきっとひとりひとりに目が届いて十分なケアをしてくれるだろうけど、こういう迅速は情報収集は大規模校ならではの人海戦術がものをいう。

「こうして皆さんは前日の試験の様子の情報を手にしているわけですから、皆さんも明日試験を受けるCグループの皆さんのために、さらには今後の受験生のためにどんなことでもいいので、明日の会場の様子をぜひ私たちに知らせてください。また可能であればお子さんたちに出題された問題を覚えておいてもらってください。あ、もちろん、問題を覚えることが優先ではなくて、合格するように集中して問題に取り組むことが最優先ですよ」

笑顔で情報提供を呼びかける新田先生。
ええ、もちろん。ご恩はちゃんと返しますよ。情報だってなんだってもらいっぱなしはいけないですからね。
ここはギブ&テイクということで、明日の試験が終わったらしっかりとご協力させていただきましょう。
ひとまずはWの新田先生、ありがとう。
情報提供とともに合格報告もできることを祈って・・・。

まったく偶然の再会

 私が以前、働いていたレコード会社は中にグループ会社がたくさんあって、私が最初に配属された会社はその中でも出版を手がける会社だった。ずいぶん前に紹介した同期でかつ同じ大学出身の森田(仮名)が現在社長を務めている。

 前原さん(仮名)は4期か5期上の先輩で、私が入社したころは当時一番売れていた音楽情報誌の副編集長だった。
 豪放磊落で変わり者だったが、相当なインテリでああいう特殊な世界では愛されるキャラクターだった。
 業界屈指のグルメとしても有名でそのせいかどっぷり太っていて、歯並びが異常に悪い人だった。
 キャラクター的に柄ではないが、茶色く変色し解けたような歯並びはシンナー中毒でボロボロになった歯を彷彿させ(←って実際はそんな歯見たことないけど。あと断じて彼にはヤンキー的な資質はない)、彼の風貌を一層奇怪なものにしていた。

 ところが今目の前に立っている前原さんは当時からゆうに30キロは違うだろうと思われるほど痩せており、トレードマークともいえたあのシンナーでボロボロになったような歯並びはきれいに整えられていた。
 いや厳密にいえば痩せたせいで歯ばかりがどうも人工的に目立ってしまい、どうもしっくりしていない。
 そのせいか、ふつう痩せて歯並びを整えれば以前より絶対に見てくれが良くなるはずなのに、不思議と前原さんの場合はそうはなっていない。
 以前の風貌のほうが愛嬌があったというか、今は何やら荒んだ禍々しさに包まれている。

 前原さんは前社長の右腕兼ペットのような存在だった。
しかし編集長として任された雑誌を前原さんは何冊も廃刊させてしまっていた。
折からの出版不況で経営危機に襲われた会社の建て直しの任を受けた森田が社長になったときに、高給取りだけど会社のお荷物になってしまっていた前原さんは、森田からリストラされたというもっぱらの噂だった。

マスコミOB会で森田に会ったときにその噂の真偽を本人に確かめたことがあったが、森田は苦虫を潰したような顔をして、
「前原さんはセンスもあるし、めっちゃええ人やけどな。広岡さん(仮名:昔の私の上司)にしろ、給料がめっちゃ高いねん。他のやつらを守らんとあかんからな」
とかなり飲んだ後にぽつりと漏らした。
 森田は情に厚いやつだけど、情に流されるやつではない。
 いくら私のことを「女の中では一番の親友」といったところで、もし私がまだ会社にいたとしたら、私の首だって躊躇なく切るだろう。やつはそうゆうやつだ。

 「おお~、これが噂の清永の子か」
 しみじみと前原さんは娘を見る。
 「前原さん、今お仕事は?」
 「まあ、適当だよ。適当。アハハハ」
 声だけは明るいがその調子じゃ仕事はしていなさそうだ。

 どう考えても40歳代後半の前原さんが以前と同じぐらいの収入を得るのはかなり難しいというか、不可能だろう。
 出版の世界だけでなく、音楽業界も縮小していっているのだ。
 前原さんだけじゃなく、未だその業界に残っている人たちから景気のいい話を聞くことはない。
 つくづく30歳の早いうちに他業界に転職しておいてよかったと思うこのごろである。

 5分ほど立ち話をしてお互い連絡先を交換することもなく私たちは別れた。
 今後、前原さんはどうなっていくんだろう。
 いい大学を出てたって、いい会社に入ったって本当にこれからはどうなるかわからない世の中なのだ。
 そう思うと娘がテストでいい結果を残さなかったことなんて、急にどうでもよくなってしまった。
 お受験していいところに入ったところで所詮、たかが小学校なのである。

 前原さんとの偶然の再会は結果的に、感情的に熱くなった私の気持ちをクールダウンさせるのに十分なものであった。

2010年9月15日水曜日

Wの1日入試体験③

 そして講習の締めは試験当日までの時間の過ごし方だ。
 泣いても笑っても試験まで1週間切っているのだ。あとは体調を整えて、楽しく笑顔で試験を受けられるように子どもたちをその気にさせようとのこと。

 T大附属T小に向いている子どもは「明るくてタフであきらめない子ども。問題を解決しようとあがく子ども」。
 うん。うちの娘に向いてそうだ!(←ついこの前まではO女附属小が一番向いていると思っていたが、それはそれ。これはこれ)

 「ここまでお子さんたちなりに頑張って、お父様方お母様方もずいぶんいっしょに頑張ってこられたと思います。どういう結果になっても、仮にダメだったとしてもやってきたことは絶対に無駄になりません。国立受験の勉強を通じて身につけたことは公立であろうとどこであろうと学校という場所では絶対に必要とされ、先生方に評価される資質です。あと小学校受験で人生が決まるわけではありません。どういう結果であれお子さんのすべてを受け入れてください」

 カリスマ講師新田先生(仮名)が熱く語る。聞きようによっては「ダメでもそれはそれ。うちでは責任は取りませんよ」と言っているように聞こえなくもないが、「どういう結果であれ受け入れる」というのはその通りだと思う。
 確かにダメならダメで仕方がないではないか。
 確かに娘はよくがんばった。私に叱られ怒鳴られ、ときには手を上げられながらも「クイズ大会(←未だにお受験だとは知らないでいる!)をやめる」とは言わなかった。
 これこそ、T大附属T小が求める「あきらめない子」ではないか!

 確かに当日マスクをしたまま試験を受けさせられるだろうからと、家の中でマスクをしてプリントに取り組む様子などは異様だった。
 このあと娘に会ったらしっかりと抱きしめ、よく頑張ったねと優しく声をかけてあげよう。
 私の心は穏やかに満たされていた。

・・・・のは娘から見せられたこの日のプリント結果を見るまでだった。
 なんと! こんな直前になってニアミスの連続で試験結果がボロボロだったのである。
 「何をやってるんだぁ~!!! このバカモンがぁ!!!!」
 一瞬で頭に血が上る。
 何が頑張っただ、何がありのままを受け入れるだ。
 こんなんじゃあかんだろうがぁっ!!!

 どうしてこんなにハラハラさせられるんだろう。うちの娘はダメなら徹底してダメならあきらめもつくのに、中途半端にできたりできなかったり、下手に期待を持たされたり、裏切られたりする。
 まあ期待するのは親の勝手なわけだし、徹底してダメな娘を持ってもそれはそれで困る。
 振り上げた拳を振り下ろすわけにもいかず、モヤモヤとするばかり。

 神童・朔美ちゃん(仮名)の試験結果を見せてもらうと、それなりにできている。
 朔美ちゃんママはそれほど結果に拘泥している様子もなく、淡々としている。きっとこれぐらい淡々としているほうが子どもにとってはいいんだろうなあと頭では思うものの、なかなか感情がついていけない。
 
 朔美ちゃん親子とお茶してから別れたあと、駅につながっているデパートの通路を歩きながらもついつい説教モードになる私。
 ところが何やら辺りにものすごく禍々しいオーラを感じて、つないでいた娘の手をぎゅっと固く握る。
 「マミィ、急に黙ってどうしたの?」
と訝しがる娘。
 何だ何だ。これは?

 禍々しいオーラは同じく地下でつながっている大型書店から流れてくるようだ。そのオーラに引かれるように書店に足を踏み入れると、なんとそこには知っているような知らないような疲れ切ったおじさんが異様な存在感を放って佇んでいた。
 この人、もしかして・・・・?

 「おお、もしや清永なのでは?」
 そのおじさんが声をかけてきた。やっぱり。思ったとおりだ。
 「マミィ、知ってる人?」
 娘は怯えて私の背後に回る。子ども心にもその風貌は異様に映っただろう。

 その人とは私の前の会社の先輩である前原さんなのであった。

2010年9月14日火曜日

Wの1日入試体験②

 まるでその場に居合わせたかのような臨場感をもって、試験当日の様子を説明する新田先生(仮名)。
 試験当日の流れ・子ども編のあとは、保護者編だ。
 当日、保護者たちは子どもの受験番号別にグループ分けされ、体育館で待たされるらしい。
 まずT大附属T小の生活の様子を映したビデオを見せられるのだという。
 新田先生いわく、このビデオがすさまじいらしい。

 最初に運動会の様子を見せられるらしいのだが、かけっこでも綱引きでも「絶対に何が何でも勝て!」という周りの人間の煽り具合も映され、そのプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも歯を食いしばってがんばっている子どもたちが次から次へと映し出され、そのあとは遠距離通学に耐える子どもたち、2キロの遠泳を延々と続ける子どもたち、2000メートル級の山登りに吐きそうになっている子どもたち、縄跳びの2重跳びを30分近くひたすらやっている子どもたちなど、これでもか、これでもかというぐらいにしごきに耐え苦痛に顔を歪めた子どもたちの姿が映し出されているというのだ。
 そして、先生からひとこと。
「これぐらいの体力がない子は辞退してください」
と冷たく言い放たれるのだとか。

 ひょえ~。
 子どもの体力に自信がなく、気の弱いお母様方はそれだけで「もうやめて~ぇえ」と叫びだしたくなるのだとか。
 確かにすさまじいよなあ。聞きしに勝るスパルタ方式!
 そんなビデオ、いきなり見せられると引くよなあ。あらかじめ聞いておいてよかったよ。

 そしてその子どもたちの阿鼻叫喚の様子が映し出されたビデオを鑑賞したのちは、志望理由を20分で書くのだとか。
 この志望理由はあらかじめ用意しておけばいいので、当日は書き写すのみ。
 実は以前、講習で聞いた志望理由の書き方のコツを参考にして書き直した志望理由を、ファックスで1週間ほど前に新田先生に送って添削してもらっていた。
 うふふ、自慢じゃないがこう見えても元編集者である。
 カリスマ講師・新田先生から一文字も赤を入れられることなく、「完璧です」とのお褒めの言葉を預かりましたよ。
 おおほほほぉ~。
よし、志望理由はこれでばっちりだぁ!
 
 そして発表のあとは抽選そして最終結果発表と続く。
 服装で要注意日は3次試験すなわち抽選の日だという。このときだけ紺色のスーツでばっちり決めればいいとのことだ。
 T大附属T小は合格までも流れの中で保護者は計8回も学校に呼ばれる。
 それは保護者が学校にどこまで協力できるのか試す意味でもあるらしい。

 まったく、こっちとくらあ働いてるんでい! 手間かけるんじゃない!

 とは言ってはいけない世界なのである。とほほ。

2010年9月2日木曜日

Wの1日入試体験①

 T大附属T小の入試まであと1週間を切った日曜日。この日はWで行われる「T大附属T小の1日入試体験」というのに行ってきた。
 本番さながらに子どもたちはお受験用の洋服を着て、本番と同じようにテストを受け、その間に保護者たちはみっちり例のカリスマ講師(後から聞いたら本部校の代表でした)新田先生(仮名)からお役立ち度200%の講習を受けるという流れになっている。

 お受験用のお洋服といえば、白い丸い襟のブラウスを西松屋で1枚、地元のジャスコで1枚購入していたのだが(両方とも1000円以下の激安品)、T大附属T小対策には元気のいい印象をつけるためにみんな12月だというのに半袖で臨むという話をWの講習で聞いていたので、慌てて半袖のブラウスを購入することに。
 しかしいかんせん12月だ。半袖のシャツなんてどこにも売ってない!

・・・と思っていたら、ちゃんとありましたよ。百貨店のお受験コーナーに!!
 恐るべし百貨店。しかし単なる半袖のシンプルな白いシャツがなんで4700円もするわけ!?

 あとすごいなあ~と感心したのは、「T大附属T小の指示製作練習セット」っていうのが販売されていて過去に出た制作の材料と作り方のDVDがついて、なんと5,250円! この中には過去問のプリントもついているのだが、もうこうなると高いんだか、安いんだか感覚がわからなくなってくる。
 え!? この練習キットを買ったかですって? 
 ええええ、買いましたともよ。夫からはだいぶんと「なんだ、このわけわからないものに5000円とは!」と叱られましたけどね。しょぼん。

 で、1日講習である。神童・朔美ちゃん(仮名)といざWの本部校へ。
 もう外は木枯らしが吹き荒れ冬将軍の本格到来といった様相なのに、いったいどうしたのだ、この中の熱気は!?

 2次試験まで1週間切っていることもあり、人、人、人!
 しかもこの講習は当日現金払いなので、無造作にどんどんと箱(←それまでまんじゅうが入っていたような感じのやつ)に万札が放り込まれていく。
 この1日の講習の売上だけでいくらぐらいあるんだろう?
 
 ちなみに今、私は教育関係の仕事をしているのだが、ここ何年もずーっと苦戦が続いている。教育以外の部署が善戦してくれているので、なんとか潰れずにすんでる。
 その原因は少子化の問題だとか、競合他社との競争激化だとかいろいろ言われている。
 仕事にかかわっているほとんどの人たちは本当に純粋に仕事を愛しているし、自分たちがやっていることは本当に意義があるのだと信じて疑っていない。
 実際、うちの娘も息子も会社のやっている幼児教室に通わせているが、本当に良心的だし、値段も場合によっちゃあWの10分の1ぐらいだったりする。
 にもかかわらず大苦戦しているのだ。

しかしWのこの繁盛振り! 母親としてというより職業人として、いったいどうなっているんだ!?と思う。
やはり狭いセグメントで特化した者勝ちなのか?
 う~ん。それにしてもあの札束! 会社のエラい人たちにも見せてみたいものだ。 

 熱気溢れる保護者用の会場にて、我らが新田先生の登場。
 この日の解説は2次試験当日の流れから入る。
 まずは服装から。コートと靴を脱いでから学校に入るので、コートと靴はなんでもいいとのこと。そして上履きに名前を書いてはいけない。
 そして控え室。控え室の様子から、頭につけるゴム製のハチマキについてまで描写は微に入り細に入っている。
 あんた、それ見たんかいっ? と関西人じゃなくても突っ込みたいところだ。
 だって去年、ゴムを取り替えたところだからブカブカして脱げることはないって、あんた、本当に何者?という世界だ。
 しかし我々はこういった情報に決して安くはないお金を払っているわけだよ。
 
 受験番号は色+数字の組み合わせらしく、待っている間6年生がやってきていろいろと芸をやって楽しませてくれるらしい。
 新田先生の読みでは、おそらくこのときに全員してきたマスクをはずさせるのではないかとのことで、その後先生から子どもたちにひとりずつ簡単な質問をされるそうだ。しかしこの質問での答えは評価には関係ないそうだが、必ず先生の目を見て話すようにとのこと。

 もう新田先生の解説はそんな調子で本番の試験の様子を詳しく教えてくれるので、当日きっと「あ~あ、このことを言ったたんだな」と腑に落ちること間違いないだろう。
 「お話の記憶」「図形」「製作」「クマ歩き」のそれぞれのポイントを押さえたあとは、「生物」について。

 T大附属T小は年によっては、「ザリガニ」だとか「コウロギ」などを子どもに捕まえさせる試験が出る。
 新田先生によると学校の敷地にいる生物が試験に使われるので、毎年新田先生はその生物の生息状況を調べに行くのだという!
 なんというプロ根性!
 「今年は私の予測ですが、ザリガニもコウロギもありません。そして亀もないです」
と大胆予測。

 「ザリガニは敷地の池を調べたら今年は生息していませんでした。亀も菌がたくさんついていて危険なのでやめているはずです。そしてコウロギですが、コウロギ担当の先生が異動されたそうなので、コウロギも出ません。そして何より子どもたちは容赦ないですから、試験にコウロギを出すと大量のコウロギが死にます。それに耐えられなくてコウロギ担当の先生が移られたという話もあります」

 コウロギ担当? 大量のコウロギ死? まったくホンマかいなっ!という摩訶不思議な世界。
 う~ん。シュールすぎる。