そして3部のトリはもちろん一番上手い音大を目指すような高校生だ。彼女らはショパンの「ソナタ2番」とか「ソナタ3番」、「バラード4番」などの超難易度の高い曲を披露する。
他にも3部には小学4年生でベートーベンの「テンペスト」を弾く子だとか、中学生や高校生が「英雄ボロネーズ」だの「幻想即興曲」だの「黒鍵エチュード」などといった難しい曲に挑戦しているのだ。
泰子のピアノ教室は小さいころから習い始めた子が大きくなっても辞めないのが特徴らしく、中学生や高校生も多い。
しかしそれ以上の特徴として泰子のところは大人の生徒も多いのだ。一口に大人といっても30代や40代の人もいれば、お孫さんといっしょに習っているという60代や70代の人もいる。
そのことにオカンが大いに衝撃を受けていた。
毎年休憩を挟んで合間に子どもたちによる合唱が入ったり、泰子と真由子先生の連弾が入る。
やっぱり今年もふたりは花嫁のお色直しのような派手なドレスを着て、髪もばっちりセットして登場してくる。
今年の選曲はリストの「ハンガリー狂詩曲第2番」。超難易度の高い曲に挑戦してくる生徒には負けないという矜持に溢れた選曲で、この曲を弾きこなすために派手なドレスに身を包み、己を奮い立たせているのだろうと思わせる気迫に満ちた演奏であった。
泰子は日ごろは適当なヤツだが、ピアノを弾く姿は別人である。やっぱり音大出身は伊達ではないと思う。
さて肝心な私の演奏だが、ボロボロであった。毎年のことだが練習の時には引っかからないパートを本番でトチるのである。日ごろトチるところはものすごく意識しているから、むしろ本番ではだいじょうぶだったりする。
日ごろトチらないところをトチると、頭の中が真っ白になる。トチることを想定していないので、どうしたらいいかわからなくなるからだ。
まったく越路吹雪風の赤いドレスが泣くぜ。
代わりにといってはなんだが、3部のトップバッターで次に真美ちゃんや麻奈ちゃんが続くというプレッシャーの中でも、娘はミスひとつせず「タランテラ」を見事に弾ききった。
エライ! よくやった! 感動した!(←小泉元総理風)
しかし思いっきり見知らぬ何人ものお母様方から、
「今年も可愛いドレスですねえ。でもそれ、去年泰子先生の娘さんが着ていたやつですよね?」
と突っ込まれた。
ガーンっ! なんで皆さん、そんな他人のドレスとかチェックしてるわけ?
う~ん。道理で泰子や真由子先生が、娘のドレスは目立ってたからバレると気にしていた理由がわかったような。
さあ~てと、来年はドレスどうしましょうねぇ!?(←ちょっと憂鬱)
実は今回の発表会は、私にとって最後の発表会だ。
これが終わったら、いったんピアノをやめるからだ。
理由はそろそろ息子にピアノを習わせるため。3人揃ってピアノをやるのも出費がかさむし、ピアノの練習をする時間も実際ない。
まあ問題は息子がちゃんとやってくれるかどうかだが、息子は3部の途中からすっかり飽きたのか大口を開けて爆睡している。
果たしてだいじょうぶか?
まったくやる気のない息子の隣で、それほど音楽が好きではないはずのオカンが食い入るようにステージを見つめている。
「あの人、私よりも年上やねえ?」
とステージでリストの「愛の夢」を弾いている柴田さん(仮名)という泰子の生徒さんを指差す。柴田さんは上品な感じの女性で確か74歳と言っていたっけ。去年は確か「乙女の祈り」を弾いていて、年々ちゃんと上達している。
「私もあれぐらい弾けるようになるやろか?」
「?」
「私、この前67歳になったところやろ。74歳っていったらあと7年あるがね。7年後にはあれぐらい弾けるようになっているやろか?」
「さあ~? 練習しだいちゃう?(←適当)」
「決めたっ! GW明けから私もピアノ習う! L(←息子)も始めるんやろ? じゃあLとどっちが先に上達するか競争やっ(←5歳児と競争すんなよっ! しかも赤ちゃん返り中の!)。60の手習いやでぇ~(←四捨五入すると70です!)」
ということでピアノの発表会は思わぬところで、オカンの音楽心に火を点けたのであった。
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