山木(仮名)に教えてもらった連絡先に電話を入れ、山木と森重さん(仮名)と美野里(仮名)の名前をいっぺんに出すと、
「ああ~はいはい。S社(←前の会社)の人たちね。あの会社の人たち、このところよく来るんだよね」
と渋谷の父は明るい声で言う。声だけ聞いていると東京の気のいいおっちゃんって感じ。
しかし占いって口コミが本当に大切なのね。占ってもらっているS社の人たちはたいてい女性たちなんだろうけど、きっと切実な悩みを抱えている人が多いんだろうなあ。
山木や森重さんや美野里は結婚しているけど、圧倒的にシングル女性が多い職場である。
女性として今後どう生きていくのか、結婚は? お相手は? 仕事は? 子どもは? 悩みや葛藤もてんこ盛りだろう。
わかるよ。そんな気持ち。私もよく。
予約はあっさり取れ、そのときに私と夫の生年月日をあらかじめ聞かれ、息子の保育園の親子遠足のあと渋谷にゴーと相成った。
当日。方向音痴の私は迷いに迷ってようやく渋谷の父の元へ。
場所はマンションの一室。住まい用のマンションというより、ほとんどの人がオフィスとして使ってそうな古びた大きめなワンルームといった趣だった。
銀座の先生のところとはゴージャス感が違う。
「はい。いらっしゃい」と迎えてくれた渋谷の父はでっぷりと肥えていて、似てないけどなぜか青空球児を連想してしまった。
「あのさあ、最初に聞くけど、なんか悩みあんの? 生年月日見てもおたく、特に悩みなんてなさそうなんだよねえ」
いきなり核心をついてくる渋谷の父。しかし生年月日だけで悩みの有無なんてわかるのか? だって私とまったく同じ生年月日の人なんて、世の中に何十万人といるんじゃないの?
「う~ん。特にないです」
「そうでしょう! こういう人が一番診るのむつかしいんだよ。あのね、ここに来る人はね、もっと深刻な悩みを抱えてんの。借金で首がまわんないとか、ダンナからひどい暴力を受けているとか、子どもがグレてどうしようもないとか、まるっきり縁がなくて男の人と付き合ったことがないとか、わかる? みんなもっと大変なんだよ」
「はあ~」
「でもまあいいや。今日時間ある?」
「あります」
「じゃあ、今日は占いの考え方っていうのか、そういったこともレクチャーしていきますからね」
と渋谷の父はホワイトボードに向かって何やら書き始める。
出たっ! これが話に聞いた六星占術の話とやらなのだな。
「まずは陰陽五行の話からしていくと・・・」
こうして渋谷の父のレクチャーが始まった。
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