2010年4月24日土曜日

恵一くんの変貌①

 恵一くん(仮名)ママの奈美子さん(仮名)は清楚でおっとりとしたきれいな人だが、赤ちゃんのころから恵一くんは癇癪持ちで手がかかる子だった。
 ハイハイを始めるころには娘や勇人くんの髪を引っ張ったり、ママの乳首を噛んだりやりたい放題。

 歩くころになると一瞬でも目が離せない。
 ただ知能は高いらしく文字を覚えるのも早かったし、言葉も達者だ。
 幼稚園に入ると悪童ぶりに磨きがかかり、奈美子さんは毎日“今日はだれそれを殴った”だの“蹴った”だの“噛んだ”などと先生から報告を受けるはめになる。
 毎年娘や息子のお誕生日パーティーに奈美子さんも招待しているのだが、幼稚園に入った年から“他の人の迷惑になるから”という理由で来てくれなくなった。
 なんでも別のお友だちのお誕生日パーティーで恵一くんが4人ほど殴り倒し、楽しいパーティーが子供たちの泣き喚く阿鼻叫喚の地獄絵図と化したのだとか。

 「本当に困っちゃう」
奈美子さんはため息をつく。
感情に任せて叱りつける私と大違いで、奈美子さんはいつも優しく諭すように恵一くんに接しているのだが、本人はもちろん聞いちゃいない。

いつもならこういう待ち合わせのとき、走り回ってどこかにいなくなるはずの恵一くんがきちんと両手を膝の上にそろえ、ニコニコしながらおとなしく座っているじゃないか!
しかも「こんにちは」というあいさつも素晴らしい!
どうした!? 恵一!?
しかし私はこの時点では、まあ久しぶりだし、しばらく見ないうちにきっと落ち着いたんだろうなぁ~という感想を持つのにとどまったのであった。

イタリアン・レストランに入り、昼間っからワインでも飲もうということになり、さっそくボトルを頼んだのだが、イケる口の奈美子さんが「今、ちょっと飲めないの」と言う。
おお~、まさかまさか!

「うふふ、そうなの。今、5ヶ月になったの。予定日は3月末だから卒園式とか入学式に出られるかどうか微妙なんだけどね」
とのこと。いやあ~。良かった。良かった。

奈美子さん夫婦はずっと二人目を望んでいたんだけど、なかなか恵まれず挙句何度か流産を繰り返していた。いわゆる二人目不妊というやつだ。深刻に悩んでいたからさぞかしうれしいことだろう。
恵一くんが落ち着いたのも、もしかしたらお兄ちゃんになる自覚ができたからかもしれない。

「保美さん(仮名)はどうなの? 二人目は?」
「あるわけないじゃないっ! もう48歳だよっ! 生理もあがっちゃたわよっ!」
「え? マジっ?」
「そういう美央さんこそ、どうなのよっ? 3人目!」
「ありえないっしょっ!」
「そうだ、千鶴さん(仮名)はどうなの? 二人目の予定は?」
「・・・ありえないよ。お金ないから」
 ポツリと呟く千鶴さん。
「そうだよね。子どもお金かかるよねぇ~」
「っていうか、うち競売にかけられるから・・・」
「競売!?」

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