「G大附属O小ってこっから近いの?」
きょとんとした表情を浮かべながら、聞いてくる立木さん(仮名)。
「次の駅から降りて、歩いて10分弱ってところですかね」
「何? 今日なんかあるの?」
「今日明日で一次抽選のための番号をもらいに行かなくちゃいけないんですよ。せっかく近いところにいるから、ちょこっと寄れないかなって思って」
「そうだよなあ。せっかくここにいるんだもんなあ。こういう仕事しててもさ、国立小は行く機会がないからどんな感じなのか気になってたんだよなあ。おもしろそうじゃん。いいよ。行こうぜ」
「やった~!」
ということで、立木さんとG大附属O小に向かう。最寄り駅に降りるとやはり駅の改札を出たところから、小学校に向かう道に沿って業者がチラシを配ったり、ブースを出している。
「ええ? あの人たちっていったいなんなの?」
と言いながらもしっかりとチラシを受け取っている立木さん。
「業者ですよ。お受験業界の。内容は過去問とかお受験塾や模擬の案内です」
「へえ~、すごいなあ。同じ教育業界でもうちとは全然気合が違うよなあ。勉強になるというか、なんというか」
そうこうしているうちにG大附属O小に到着。
「へえ~。なかなか立派な小学校じゃん。あ、でもくせぇ! 銀杏臭い! そういえばさ、先週の土曜日、(G大附属)T小の抽選じゃなかったっけ? どうだったんだよ?」
「ブゥー! 落ちましたよ。きっちりと」
「おや残念!」
「あ、あっちが受付みたいです。ちゃちゃっと行ってきますから」
「おう! いい番号だといいよな」
すでに11時過ぎているからか、受付のところにほとんど人はいなかったので、すんなりと学校説明会のときにもらった一次申し込み用紙と引き換えに抽選番号をもらうことができた。
今度の番号は「252」。
この前は「52」だったので、よほど「52」という数字に縁があるのか?
「何番だったんだい?」
「252番です。でもこの前、52番で落ちてるからなんか不吉な感じなんですよね」
「ガハハハハ」と爆笑した後、「なんかさ」と急にヒソヒソ声になる立木さん。
「僕もさ、こういうところにいると、なんていうか、やっぱお父さんちっくに見えちゃうのかな?」
「さあ~。けど普通、仕事のついでに会社の人と来ているとは思われないかな。教育熱心そうなお父さんってお母さんに任せっきりにしてないで、結構説明会でもなんでも来てますからね」
「だろ?」
と言う立木さんにはちょっぴり陰があった。どういう事情だかわからないが、立木さん夫婦にはお子さんがいない。教育の仕事に生きがいを感じているような人だから、子ども好きなんだろうと思う。
そういえば前にみんなで飲んだとき、ちょっと酔っ払った立木さんが、「清永さんのいいところは、子どもを最優先にしているところ」と言ったことがある。
実際、最優先にしているかどうかは別として、立木さんの目にはそう映ったのだろう。
まあ、立木さんと夫婦だと見られるのは不本意だけど、つかの間の保護者気分を味わってもらうのは悪くないかもしれない。
「はいはい、じゃあお父さん。行きますよ」
と校門を出たところに待ち受けていた大勢の業者たちにも聞こえるようにそう声をかけると、彼らは、「お父様もぜひどうぞ。出題頻度ナンバーワンの過去問です」などと立木さんにも次々とチラシを押し付けてきた。
「えへへへ。お父さんって言われちゃった」
と言う立木さんはなんだかうれしそうで、「よし、今度こそお茶行くぞ」と駅に向かって歩いていった。
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