2009年3月27日金曜日

鋼鉄の女

異動先の上司は女性だった。その女性は社内の超有名人で、ずっと違う事業部にいた私ですら彼女の存在は知っていた。
「プロ中のプロ」、「職人」、「こだわりの人」、「鉄の女」などなど彼女を言い表す枕詞名数知れず。
そして何より、彼女の部下になった人で「病気にならなかった人」「精神的に壊れなかった人」「会社を辞めなかった人」というには存在しないらしい。
なんだよ~! それ! 業務命令で精神科に行かされ、無理やり休養させられている私にいきなりそんなスーパー・ハードな上司をあてがうとは、辞めろということなのか?
 その鋼鉄の女性上司、以前は本部のトップとして大勢の部下を率いていたらしいが、なんらかの政治闘争があったらしく、今では今回の異動で社員の部下は私一人。あとはHANAちゃんという派遣の女性がアシスタント業務を行なっていた。
 部署自体は私にとってまったく新しい分野の仕事だったが、ジャンルは違ってもかつての仕事が役に立つ要素がたくさんありそうだと感じた。
 なんであれ、絶対に加齢臭と自慢オヤジよりはマシなはずだと自分に言い聞かせる。
 彼女は私を笑顔で迎えてくれた。けどその笑顔もちょっぴり怖い。
私は以前やっていた仕事の話をすると、彼女は目をまん丸にして、
「あら私が聞いていたのはあなたって事務や経理のプロフェッショナルだってことだったのに、それはうれしい誤算ね」
と言い、そのほかにもいろいろな共通点があることがわかった。
「でも事務や経理もできなくはないんでしょ?」
「好きではありませんが、この前までやっていました。けどプロフェッショナルだっているのはかなり間違った情報です」
「ある程度できればいいのよ。思うにあなたはかなりうちの部署に向いていると思う。ある部署がこういう人がほしいと思う人材とそれに向いている人がきちんとその部署に配属されることって意外とないものなのよ。前にあなたがいた部署はかなりありえない人事だったと思う。絶対にあなたには合わないもの。どれぐらいあなたに合わないところかといえば、私がその部署に出向させられる以上に合わないと思う。けどこの部署ではあなたは活躍できるはず。がんばってちょうだい」
 鉄の女はそうやって笑顔を見せた。
 その言葉を聞いて、私は前の部署にいた痛手からものすごく救われるような気持ちになった。
 こんなふうに今までやってきたことを承認されたいっていう気持ちがずっとどこかにあったからだ。そう言ってくれたのが社内で誰よりも恐れられていた彼女だったというのもポイントが高い。
リハビリにしてはハードな感じだけど、とりあえず彼女のもとでがんばってみよう。
 そのときにふっと思った。銀座の先生が言っていたキーマンは、人事の役員じゃなくって、彼女なのかもしれない。
 おお~。この点に関しては当たっていたようだ。

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