2009年3月1日日曜日

そしてついに!

向かった先は瀟洒なマンションだった。こんな一等地にさぞかしお家賃も高いんだろうなあとすぐに下衆な考えが浮かぶ。
マンション自体は新しく、インテリアも占いの館的なものがいっさい置かれていない。殺風景でもないし、おしゃれすぎてもいないし、シンプルだけど温かみのある室内で、来る人を選ばない懐の深さを感じる。
電話に出た男の人が冷たい麦茶を勧めてくれて、昨日もRさまのご紹介の方がいらっしゃったんですよとにこやかに話しかけてきた。想像通り若くて背の高い感じのいい青年だった。
みんなの話によると、銀座の先生は若い女性で、可愛らしい感じのどこからどう見ても占い師には見えない普通の人だという。
ということはこの感じのいい男の人は先生の彼氏とかなのかなとか、またしても下衆な勘繰りをしてしまう。
差し出された用紙の記入欄は、名前と生年月日と住所と電話番号だけだった。そそくさと必要事項を書き込むと、7~8分待たされて、その間はその受付の男の人と「今日も暑いですねえ」とか「やっぱりRさまの会社のお友だちなんですか?」とか「うちもそろそろホームページでも作って宣伝しようかなとかいろいろ考えているんですよ」といった当たり障りのない話をして過ごす。
そしていよいよ、扉の向こうから「どうぞ」とふんわりとした優しい声が聞こえた。
ああ~、なんて言われるんだろう。私の人生お先真っ暗なんて言われたらへこむよなあ。ご主人との相性は最悪ですとか、子どもがグレますとか、何よりも今の部署は会社を辞めない限り変わりませんなんて言われたら悪夢だ。

ドキドキしながら扉を開ける。
そこにいたのは、確かに若くて可愛らしい普通の女性だった。街で再度すれ違っても気がつかないだろう。着ているものも顔立ちも何も印象に残らない女性だった。ただいっさい過剰なものがなく、シンプルでプレーンでここのインテリアと同じように誰でも受け入れてくれそうな温かみを感じた。
シンプルなふたり掛け用のダイニングテーブルに向かい合わせに座る。改めて見ても取り立てて欠点が見当たらない整った顔をした女性だ。
「じゃあ、電気消しますね」
うわ! 出た! あらかじめ聞いていたが、部屋を暗くして、ろうそくの炎で私の背後をチェックし、私についている守護霊だとか、悪霊の有無などを確認する儀式だ。
ろうそくの炎の中心部に先生の顔が仄暗く浮かび上がる。こんなときになぜか昔TVでよく見た「スター・ドッキリまる秘報告」のアイドルが寝ているところにカメラが潜入するレポーターを思い出してしまう。
先生は「あ~」とか「ふんふん」とか小さな声で呟きながら、私の背後を見ている。私の背後にはいったい何がいるの? 怖いよう~。
 「はい」と言いながら先生は部屋の灯りをつける。
 「だいじょうぶ、何も変なものは憑いていませんでしたよ」
ああ~、良かった。事務所にいる加齢臭オヤジや自慢たれ流しオヤジが憑いてたら目も当てられないもんね。
 先生はにっこりと笑い、そのあと紙に何かを書き込みながら、「仕事の件ですよね」といきなり核心を突いてきた! 確かにすごい! ひとことも仕事の相談なんて言ってないのに!
「ものすごく仕事のオーラが乱れています。このような乱れ方をするのはよほど向いていない仕事をさせられているのか、夜勤が多いなどの不規則なシフトで働くことを強いられているパターンのどちらかです。そしてあなたの場合は嫌な仕事をさせられているパターンです」
「そうなんです。今日は仕事の件で来たんですけど」
「ええ、わかりますよ。仕事ですよね。ちなみにあなたにもっとも向いていないのは、経理や事務です」
うお~、またしても直球ど真ん中! そうなんだよ、わたしゃあ、今その経理と事務をやらされているんだよ。
「今会社にお勤めですよね? 今いる部署だけではなくそもそもその会社自身全然あなたには合っていません」
うわ~。やっぱり! 今の会社は私にとっては2社目で結婚前から働いているのだが、なんというのか外様意識がずっと抜けないでいる。今いる部署はもちろんその中でも最悪なのだが、違う部署にいたところで、そもそもなんとなく社風が合わないのだ。もちろん仲のいい人はいっぱいいるし、個人個人はとてもいい人が多い会社なんだけど、集団になったときに生まれるグルーヴ感が苦手でいたたまれない気持ちになってしまう。
「ご主人と出会うためにあなたは今いる会社に一度入る必要があったけど、もう出会ってしまったあとはいつ辞めても良かったのです」
ううん。これも心当たりがあるぞ。夫とは違う会社だし、仕事を通じて知り合ったわけではないが、たまたま仕事の帰りに会社の後輩といっしょに立ち寄ったバーで夫とは出会った。間接的だが今いる会社に勤めていなかったら確かに夫と出会うことはなかっただろう。
でもあれ、先生、ご主人って? まだ結婚してるって言っていないのに。まあ、結婚指輪をしているから一目瞭然か・・・・。
こんな感じで先生は私に関することをいろんな角度から話してくれる。
そしてその話を項目ごとにまとめたのが以下の通り。

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