「ほお~。それでいくら?」
夫はいつもこうだ。家路についたあと、私はあれこれと銀座の先生に占ってもらった結果を夫に聞かせた。基本的に彼は黙って私の言うことを聞いていたが、明日にでも転職をしたがっている彼は、転職は4年後がベストだと言われたことに落胆し、さらに宝くじは当たらないと言われたことに大いに気を落としていた。
あとは息子が天才だと言われたことには、「ハハハ」とシニカルな笑いを浮かべ、将来田舎でも都会でもない同じような家が立ち並ぶきれいな街だけど天気が悪いところに家を買うという話には、「それってウィンブルドンっぽいな」と私とまったく同じ感想を述べた。
「なんでもいいけどさ」
と夫は私の肩に手をまわし、
「ぼくたちは死ぬまでラブラブなんだろ?」
「うん、離婚とか絶対にないって。あなた、先生からいい旦那さんですって絶賛されてたよ」
「それが一番何よりだな」
と私にキスをした。
そうよね。それが何より一番よね~。と甘い気分に浸っていると、
「で、それでいくら?」
夫はニヤニヤしている。
「教えない」
「ドンペリより高い?」
なんちゅうたとえだ。けどわかりやすい。
「ふつうのやつよりね。でもピンクほどじゃないよ」
「うぎゃあ~。信じられないよ!」
「言うと思ったよ」
「けど君は今、幸せ?」
「そうだね。このまま自然にしていればいいんだってすごく気が楽になった」
「あたりまえだよ。ドンペリを飲んだ以上にハッピーな気分になってなきゃ、元が取れないよ。もっともぼくはこっちのほうが好みだけど」
そう言って夫は冷やしたニコラ・フィアッテのブリュットという青いラベルのシャンパンを私のために抜いてくれた。
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