保育園に子どもを迎えに行って帰宅するのが、だいたいいつも6時40分ぐらいから7時の間。
子どもたちがベッドに行くのが9時を目標にしているが、だいたい9時半ぐらいになってしまう。
フルタイムで働いている私たちはこの短い時間の間に夕食を囲み、家族のだんらんをし、お風呂に入り、寝かしつけるというサイクルで動いている。
娘と息子が年子の我が家はここ最近二人だけでお風呂に入り、寝かしつけなくても二人でベッドに行ってくれるので子育てがぐっと楽になってきてはいるものの、いつも時間に追われている。
ピアノを習っている(←先生は泰子)娘は夕食前に練習があるし、ここにきて「クイズ大会の練習」(←受験勉強)も加わってしまった。
我が家の「クイズ大会の練習」時間はお風呂に入ったあと。
初めのうちは5分ぐらいをその時間に当てていたのだが、すらすらと問題を解けなくなるにつけ時間は延びていく。
「クイズ大会の練習」時間を確保するために、夕食やお風呂を早く切り上げるようせかすことになるし、「クイズ大会の練習」より「早く寝かせる」ことを優先する夫としばしば衝突するようになる。
また準備不足のあせりもあり、気の短い私はついつい娘ができないと声を荒げてしまう。
娘は赤ちゃんのころから発育もよく、なんでも飛びぬけてできていたのでずっと私は彼女のことを「神童」だと思っていた。
私の下の弟もちなみに子どものころ「神童」の誉れ高く実際今でも超優秀なのだが、その弟を育てたオカンですら、娘は特別だと言う。
とはいえ年を経るごとにスペシャル感は薄れてきているが、そういう期待もあるせいか娘にできないことがあると、激しく「なぜ?」と思ってしまう。
その「なぜ?」という疑問が「なぜできないっ!」という怒りに転化するのは時間の問題だ。
怒っているつもりはなくても、語気が荒くなりがちな私に夫はいつも「待った」をかけてくる。
「何を話しているか」よりも「どう話しているか」を気にかける夫は、娘に話している途中で話を中断させてしまう。
むろん怒ったままで話を終わらせたくない私としては、「怒る→なだめる→励ます→ハッピーエンド」のサイクルでことを進めたいのだが、「怒る」の段階で夫がストップをかけてしまうので、すべてがものすごい不完全燃焼の状態になってしまう。
そこで私の「怒る」矛先が必然的に夫に向かうわけで、このところ夫婦喧嘩が絶えない。
おまけに「僕もクイズ大会やるっ!」といらんところで燃える息子。
あんたはええっちゅうねん! 君は来年、がんばりなさい。
そういってもきかない息子。
「じゃあ、私はもういいや。L(息子)に譲ってあげる」と投げやりな娘。
もうええことあるかいっ! 勝手に譲るな! 君のがんばる番やっ!
「僕もお話の記憶やるっ! あ、ばっちりくんドリルも!」
だ・か・らっ! 君は来年がんばればええっちゅうねん!!
家族全員に怒鳴り散らす日々が始まったのだった。
しかしそれはまだ始まりにすぎなかったのである。
2010年5月31日月曜日
2010年5月30日日曜日
受験勉強始めっ!
G大附属O小に抽選番号をもらいに行ったその日から、我が家の受験勉強が始まった。ペーパーテストのあるG大附属O小の試験日まであと1ヶ月ちょっと。T大附属T小の試験日まであと2ヶ月だ。
そうはいっても2校ともその前の抽選に通っていなければ試験を受ける資格すらもらえないのだが、時すでに遅すぎるほどこれまで何もやってきていない。
こんな短期間で取り戻すことができるのだろうか。
幸い娘は「やれ」と言われたことは忠実にこなすタイプである。私と違って納得できないことはやらないとか、強制されるのが苦手だというめんどくさいタイプではなく、自分の努力を相手に認めてもらいたい、喜んでもらいたいと考える極めて優等生タイプなのだ。
エライぞ!
また国立受験は「クジ」という運も大きく左右するので、私立も受ける雪美ちゃん(仮名)や陽太(仮名)のように、「めざせ! ○○小!」という王道パターンで勉強させるには時間もないし酷である。
考えた結果、「小学校受験」ということは伏せたまま、「クイズ大会の練習」ということにして勉強を始めさせることにした。
抽選がはずれたら(←銀座の先生の占いから言えばありえない!)黙っていればいいし、当たれば「クイズ大会に呼ばれたよ」と言えばいい。
万が一全滅したとしても(←占い的にはもっとありえないだろっ!)、「クイズ大会で勝てなかった」方が「お受験失敗」より本人の傷も浅いはず。
またこんな年齢ですでに挫折を味あわせるのもかわいそうだ。
泰子(仮名)は模擬を受けろとか、塾に行けとうるさいが、とりあえずは家で勉強させてみて様子見だ。
ひとまずピンクの表紙の「ばっちりくんドリル」基本編シリーズから始めてみる。
「点図形」というのは、四角の中に点が規則正しく配置されていて、その点と点を見本どおりに結んでいくというもの。
「回転図形」はマス目の中に○とか□とか△という印が書いてあって、右に1回とか左に2回転がすと、マス目の印がどこに移動するかというもの。三角の場合は角の方角も変わるので要注意だ。
「重ね図形」は左右のマス目の印が右または左に重ねると、印の位置がどこにくるかというもの。
「図形の分割」はたとえば○がいくつかに分割されていて、足りないピースはどれかを当てるなどして、指定された形を完成させるもの。
とりあえずこのあたりから始めてみる。
まず問1~3まではスラスラとできる。なーんだ。うちの娘、全然できるじゃん!
さすがは妊娠中、気合入れて胎教しまくった甲斐があるというもの。
ところが、そのあとが続かない。
問10ぐらいまではヒントを出せばなんとかできるが、それ以降は丁寧に説明しないと無理っぽい。
おいおい、まだ基本編でしょ? すでに引っかかっててどうする?
過去問に関してはいきなり難易度の高いT大附属T小のものはハードなので、G大附属O小から入る。
「お話の記憶」はO小のものは短いこともあって難なくクリアー。図形は「ばっちりくんドリル」の基本編の最後のほうの問題ができれば解けそうな感じ。これには訓練が必要そうだ。
また「お話の記憶」もそうなのだが、G大附属O小の選択問題は正解が特にないものが多い。
具体的には「お話の記憶」でも記憶問題に続いて「このお話の続きがどうなればいいと思いますか?」という本人の好みを問う問題だったり、「お手伝いしたことのあるものはどれですか?」とか「公園で遊んだことのあるものはどれですか?」など、本人の体験を問うもので、解答はいくつあっても構わない。
娘をG大附属O小に通わせている早紀ちゃん(仮名)はO小のことを、「生きる力を本当に身につけさせてくれる学校」だと言っていた。
確かに出題傾向を見ても、自分で考えさせるタイプの問題が多いことがうかがわれる。
あとは本人の面接、親の面接、運動、行動観察、図工だがこういったものはとりあえずパス。
まずは「図形」と「お話の記憶」攻略だ。
そうはいっても2校ともその前の抽選に通っていなければ試験を受ける資格すらもらえないのだが、時すでに遅すぎるほどこれまで何もやってきていない。
こんな短期間で取り戻すことができるのだろうか。
幸い娘は「やれ」と言われたことは忠実にこなすタイプである。私と違って納得できないことはやらないとか、強制されるのが苦手だというめんどくさいタイプではなく、自分の努力を相手に認めてもらいたい、喜んでもらいたいと考える極めて優等生タイプなのだ。
エライぞ!
また国立受験は「クジ」という運も大きく左右するので、私立も受ける雪美ちゃん(仮名)や陽太(仮名)のように、「めざせ! ○○小!」という王道パターンで勉強させるには時間もないし酷である。
考えた結果、「小学校受験」ということは伏せたまま、「クイズ大会の練習」ということにして勉強を始めさせることにした。
抽選がはずれたら(←銀座の先生の占いから言えばありえない!)黙っていればいいし、当たれば「クイズ大会に呼ばれたよ」と言えばいい。
万が一全滅したとしても(←占い的にはもっとありえないだろっ!)、「クイズ大会で勝てなかった」方が「お受験失敗」より本人の傷も浅いはず。
またこんな年齢ですでに挫折を味あわせるのもかわいそうだ。
泰子(仮名)は模擬を受けろとか、塾に行けとうるさいが、とりあえずは家で勉強させてみて様子見だ。
ひとまずピンクの表紙の「ばっちりくんドリル」基本編シリーズから始めてみる。
「点図形」というのは、四角の中に点が規則正しく配置されていて、その点と点を見本どおりに結んでいくというもの。
「回転図形」はマス目の中に○とか□とか△という印が書いてあって、右に1回とか左に2回転がすと、マス目の印がどこに移動するかというもの。三角の場合は角の方角も変わるので要注意だ。
「重ね図形」は左右のマス目の印が右または左に重ねると、印の位置がどこにくるかというもの。
「図形の分割」はたとえば○がいくつかに分割されていて、足りないピースはどれかを当てるなどして、指定された形を完成させるもの。
とりあえずこのあたりから始めてみる。
まず問1~3まではスラスラとできる。なーんだ。うちの娘、全然できるじゃん!
さすがは妊娠中、気合入れて胎教しまくった甲斐があるというもの。
ところが、そのあとが続かない。
問10ぐらいまではヒントを出せばなんとかできるが、それ以降は丁寧に説明しないと無理っぽい。
おいおい、まだ基本編でしょ? すでに引っかかっててどうする?
過去問に関してはいきなり難易度の高いT大附属T小のものはハードなので、G大附属O小から入る。
「お話の記憶」はO小のものは短いこともあって難なくクリアー。図形は「ばっちりくんドリル」の基本編の最後のほうの問題ができれば解けそうな感じ。これには訓練が必要そうだ。
また「お話の記憶」もそうなのだが、G大附属O小の選択問題は正解が特にないものが多い。
具体的には「お話の記憶」でも記憶問題に続いて「このお話の続きがどうなればいいと思いますか?」という本人の好みを問う問題だったり、「お手伝いしたことのあるものはどれですか?」とか「公園で遊んだことのあるものはどれですか?」など、本人の体験を問うもので、解答はいくつあっても構わない。
娘をG大附属O小に通わせている早紀ちゃん(仮名)はO小のことを、「生きる力を本当に身につけさせてくれる学校」だと言っていた。
確かに出題傾向を見ても、自分で考えさせるタイプの問題が多いことがうかがわれる。
あとは本人の面接、親の面接、運動、行動観察、図工だがこういったものはとりあえずパス。
まずは「図形」と「お話の記憶」攻略だ。
2010年5月27日木曜日
G大附属O小、一次受付始まる②
「G大附属O小ってこっから近いの?」
きょとんとした表情を浮かべながら、聞いてくる立木さん(仮名)。
「次の駅から降りて、歩いて10分弱ってところですかね」
「何? 今日なんかあるの?」
「今日明日で一次抽選のための番号をもらいに行かなくちゃいけないんですよ。せっかく近いところにいるから、ちょこっと寄れないかなって思って」
「そうだよなあ。せっかくここにいるんだもんなあ。こういう仕事しててもさ、国立小は行く機会がないからどんな感じなのか気になってたんだよなあ。おもしろそうじゃん。いいよ。行こうぜ」
「やった~!」
ということで、立木さんとG大附属O小に向かう。最寄り駅に降りるとやはり駅の改札を出たところから、小学校に向かう道に沿って業者がチラシを配ったり、ブースを出している。
「ええ? あの人たちっていったいなんなの?」
と言いながらもしっかりとチラシを受け取っている立木さん。
「業者ですよ。お受験業界の。内容は過去問とかお受験塾や模擬の案内です」
「へえ~、すごいなあ。同じ教育業界でもうちとは全然気合が違うよなあ。勉強になるというか、なんというか」
そうこうしているうちにG大附属O小に到着。
「へえ~。なかなか立派な小学校じゃん。あ、でもくせぇ! 銀杏臭い! そういえばさ、先週の土曜日、(G大附属)T小の抽選じゃなかったっけ? どうだったんだよ?」
「ブゥー! 落ちましたよ。きっちりと」
「おや残念!」
「あ、あっちが受付みたいです。ちゃちゃっと行ってきますから」
「おう! いい番号だといいよな」
すでに11時過ぎているからか、受付のところにほとんど人はいなかったので、すんなりと学校説明会のときにもらった一次申し込み用紙と引き換えに抽選番号をもらうことができた。
今度の番号は「252」。
この前は「52」だったので、よほど「52」という数字に縁があるのか?
「何番だったんだい?」
「252番です。でもこの前、52番で落ちてるからなんか不吉な感じなんですよね」
「ガハハハハ」と爆笑した後、「なんかさ」と急にヒソヒソ声になる立木さん。
「僕もさ、こういうところにいると、なんていうか、やっぱお父さんちっくに見えちゃうのかな?」
「さあ~。けど普通、仕事のついでに会社の人と来ているとは思われないかな。教育熱心そうなお父さんってお母さんに任せっきりにしてないで、結構説明会でもなんでも来てますからね」
「だろ?」
と言う立木さんにはちょっぴり陰があった。どういう事情だかわからないが、立木さん夫婦にはお子さんがいない。教育の仕事に生きがいを感じているような人だから、子ども好きなんだろうと思う。
そういえば前にみんなで飲んだとき、ちょっと酔っ払った立木さんが、「清永さんのいいところは、子どもを最優先にしているところ」と言ったことがある。
実際、最優先にしているかどうかは別として、立木さんの目にはそう映ったのだろう。
まあ、立木さんと夫婦だと見られるのは不本意だけど、つかの間の保護者気分を味わってもらうのは悪くないかもしれない。
「はいはい、じゃあお父さん。行きますよ」
と校門を出たところに待ち受けていた大勢の業者たちにも聞こえるようにそう声をかけると、彼らは、「お父様もぜひどうぞ。出題頻度ナンバーワンの過去問です」などと立木さんにも次々とチラシを押し付けてきた。
「えへへへ。お父さんって言われちゃった」
と言う立木さんはなんだかうれしそうで、「よし、今度こそお茶行くぞ」と駅に向かって歩いていった。
きょとんとした表情を浮かべながら、聞いてくる立木さん(仮名)。
「次の駅から降りて、歩いて10分弱ってところですかね」
「何? 今日なんかあるの?」
「今日明日で一次抽選のための番号をもらいに行かなくちゃいけないんですよ。せっかく近いところにいるから、ちょこっと寄れないかなって思って」
「そうだよなあ。せっかくここにいるんだもんなあ。こういう仕事しててもさ、国立小は行く機会がないからどんな感じなのか気になってたんだよなあ。おもしろそうじゃん。いいよ。行こうぜ」
「やった~!」
ということで、立木さんとG大附属O小に向かう。最寄り駅に降りるとやはり駅の改札を出たところから、小学校に向かう道に沿って業者がチラシを配ったり、ブースを出している。
「ええ? あの人たちっていったいなんなの?」
と言いながらもしっかりとチラシを受け取っている立木さん。
「業者ですよ。お受験業界の。内容は過去問とかお受験塾や模擬の案内です」
「へえ~、すごいなあ。同じ教育業界でもうちとは全然気合が違うよなあ。勉強になるというか、なんというか」
そうこうしているうちにG大附属O小に到着。
「へえ~。なかなか立派な小学校じゃん。あ、でもくせぇ! 銀杏臭い! そういえばさ、先週の土曜日、(G大附属)T小の抽選じゃなかったっけ? どうだったんだよ?」
「ブゥー! 落ちましたよ。きっちりと」
「おや残念!」
「あ、あっちが受付みたいです。ちゃちゃっと行ってきますから」
「おう! いい番号だといいよな」
すでに11時過ぎているからか、受付のところにほとんど人はいなかったので、すんなりと学校説明会のときにもらった一次申し込み用紙と引き換えに抽選番号をもらうことができた。
今度の番号は「252」。
この前は「52」だったので、よほど「52」という数字に縁があるのか?
「何番だったんだい?」
「252番です。でもこの前、52番で落ちてるからなんか不吉な感じなんですよね」
「ガハハハハ」と爆笑した後、「なんかさ」と急にヒソヒソ声になる立木さん。
「僕もさ、こういうところにいると、なんていうか、やっぱお父さんちっくに見えちゃうのかな?」
「さあ~。けど普通、仕事のついでに会社の人と来ているとは思われないかな。教育熱心そうなお父さんってお母さんに任せっきりにしてないで、結構説明会でもなんでも来てますからね」
「だろ?」
と言う立木さんにはちょっぴり陰があった。どういう事情だかわからないが、立木さん夫婦にはお子さんがいない。教育の仕事に生きがいを感じているような人だから、子ども好きなんだろうと思う。
そういえば前にみんなで飲んだとき、ちょっと酔っ払った立木さんが、「清永さんのいいところは、子どもを最優先にしているところ」と言ったことがある。
実際、最優先にしているかどうかは別として、立木さんの目にはそう映ったのだろう。
まあ、立木さんと夫婦だと見られるのは不本意だけど、つかの間の保護者気分を味わってもらうのは悪くないかもしれない。
「はいはい、じゃあお父さん。行きますよ」
と校門を出たところに待ち受けていた大勢の業者たちにも聞こえるようにそう声をかけると、彼らは、「お父様もぜひどうぞ。出題頻度ナンバーワンの過去問です」などと立木さんにも次々とチラシを押し付けてきた。
「えへへへ。お父さんって言われちゃった」
と言う立木さんはなんだかうれしそうで、「よし、今度こそお茶行くぞ」と駅に向かって歩いていった。
2010年5月26日水曜日
G大附属O小、一次受付始まる①
G大附属T小の一次抽選がダメだったことで、落ち込みに落ち込んだ週末だったが、タイミング良く我が町最大のお祭り「御会式」と重なったことで、お祭りのイケイケモードに触発されて、少しは気がまぎれたところで月曜日が始まる。
この週の月曜日と火曜日はG大附属O小の一次受付があり、折りよく月曜日はO小から一駅しか離れていない某市の教育委員会に直行予定だ。
タイミング的に会社に戻る前にちょっくら寄ってくかといきたいところだが、問題はひとつ。
それは立木さんという同行者がいることだ。
立木さんはプロジェクトメンバーのひとりで、年のころは50代前半。肩書きは総務系部署の課長でそっちが本職なんだけど、どうやら管理とか総務の仕事が嫌いらしく、部下たちに総務系の仕事はほぼ丸投げ状態で、このプロジェクトの仕事をメインでやっている。
そんなこともあって仕事的に社内で1,2を争うぐらい私と近い人物だ。
また万年文学青年で読書量がハンパではなく、ロック好きでいまだにライブハウスに通いつめているところから、私と話が合わないはずはなく、いつも私たちは文学の話、音楽の話をしている。
また私たちは社内で音楽好きの人間を集めて、「ロックの会」というサークルを作り、定期的に集まっては飲みに行き、ひたすら音楽の話をするという楽しい活動もしている。
こんな状態で、立木さんが“佐藤浩一”並みに濃ゆいフェロモンの肉食系オヤジだったら、一発でノックアウトされてるところだったが、幸い彼からは1ミクロンもそういったものは放出されていない。
奥さんを「配偶者」と呼ぶリベラルな草食系オヤジなのである。
話は飛ぶが、男性にしても女性にしても自分の結婚相手をどう表現するかによって、その人自身の「男尊女卑度」とか「夫婦の力関係」みたいなものが滲み出てしまうものだと思う。
英語だと「my husband」とか「my wife」で済んでしまうが、日本語には「ダンナ」「亭主」「主人」「つれあい」「かみさん」「家内」「奥さん」「女房」などいろんな呼び方がある。
ちなみに私は意識して「夫」と呼ぶようにしている。私たちに上下関係はないし、私は彼の所有物ではないからだ。
そういうこともあって、無自覚に自分の結婚相手のことを「うちの主人が・・・」という人はどうもノリ合わないというか、自分とは価値観の違う人だと思っている(←ただし年配の人はちょっと別)。
話を元に戻すと、立木さんには世間話ついでにお受験の話もよくしているので、時々ふざけて私のところの内線に、「G大附属T小の学校長ですか・・・」などと電話をかけてきたりする。
月曜日も某教育委員会をあとにして、駅に近づいたときに、「じゃあさ、お茶行こうよ。お茶」と案の定、立木さんは切り出してきた。
ヘビースモーカーの立木さんは電車に乗る前にニコチンを摂取しておかなければいけないので、必ず外出すると「お茶しよう」と言う。
「お茶もいいんですけど、その前につきあってほしいところがあるんですけど・・・」
「えー、そうなの? どこ?」
「G大附属O小です」
「へぇ!?」
この週の月曜日と火曜日はG大附属O小の一次受付があり、折りよく月曜日はO小から一駅しか離れていない某市の教育委員会に直行予定だ。
タイミング的に会社に戻る前にちょっくら寄ってくかといきたいところだが、問題はひとつ。
それは立木さんという同行者がいることだ。
立木さんはプロジェクトメンバーのひとりで、年のころは50代前半。肩書きは総務系部署の課長でそっちが本職なんだけど、どうやら管理とか総務の仕事が嫌いらしく、部下たちに総務系の仕事はほぼ丸投げ状態で、このプロジェクトの仕事をメインでやっている。
そんなこともあって仕事的に社内で1,2を争うぐらい私と近い人物だ。
また万年文学青年で読書量がハンパではなく、ロック好きでいまだにライブハウスに通いつめているところから、私と話が合わないはずはなく、いつも私たちは文学の話、音楽の話をしている。
また私たちは社内で音楽好きの人間を集めて、「ロックの会」というサークルを作り、定期的に集まっては飲みに行き、ひたすら音楽の話をするという楽しい活動もしている。
こんな状態で、立木さんが“佐藤浩一”並みに濃ゆいフェロモンの肉食系オヤジだったら、一発でノックアウトされてるところだったが、幸い彼からは1ミクロンもそういったものは放出されていない。
奥さんを「配偶者」と呼ぶリベラルな草食系オヤジなのである。
話は飛ぶが、男性にしても女性にしても自分の結婚相手をどう表現するかによって、その人自身の「男尊女卑度」とか「夫婦の力関係」みたいなものが滲み出てしまうものだと思う。
英語だと「my husband」とか「my wife」で済んでしまうが、日本語には「ダンナ」「亭主」「主人」「つれあい」「かみさん」「家内」「奥さん」「女房」などいろんな呼び方がある。
ちなみに私は意識して「夫」と呼ぶようにしている。私たちに上下関係はないし、私は彼の所有物ではないからだ。
そういうこともあって、無自覚に自分の結婚相手のことを「うちの主人が・・・」という人はどうもノリ合わないというか、自分とは価値観の違う人だと思っている(←ただし年配の人はちょっと別)。
話を元に戻すと、立木さんには世間話ついでにお受験の話もよくしているので、時々ふざけて私のところの内線に、「G大附属T小の学校長ですか・・・」などと電話をかけてきたりする。
月曜日も某教育委員会をあとにして、駅に近づいたときに、「じゃあさ、お茶行こうよ。お茶」と案の定、立木さんは切り出してきた。
ヘビースモーカーの立木さんは電車に乗る前にニコチンを摂取しておかなければいけないので、必ず外出すると「お茶しよう」と言う。
「お茶もいいんですけど、その前につきあってほしいところがあるんですけど・・・」
「えー、そうなの? どこ?」
「G大附属O小です」
「へぇ!?」
2010年5月23日日曜日
カフェにて②
「O女も行ってきたんでしょ?」
「うん。なんか上品な学校だね。あ~あ、いいなあ~、泰子んちは。高校までO女に行けるなんて。マジうらやましいよ。うちだってO女に入れるなら行かせてあげたいよ」
そう言いながらハッとする。意地っ張りな私は他人がどんなにうらやましくても、こんなにあからさまに人をうらやんだことなんて今までなかった。
やっぱりお受験というものは、自分だけががんばってもどうにもならないからだろうか。
「そういえばO女の先生、1次抽選に通っても咳とか風邪の症状のある人は2次試験に来ないでくださいって言ってたよ」
「ふう~ん。私たち内部生にはたとえインフルエンザに罹ったとしても這ってでも来いって言ってたんだけどね」
おお~、外部からの受験生と内部生との間に横たわる何たる格差! 片や隔離で、片やは這ってでも来いときた!
「説明会でほか何か言ってた?」
そう聞かれて質疑応答のときに興味深い質問が飛んだことを思い出した。
ひとつは「文科省の学習指導要領に沿った指導をしているのか?」という質問で、それに対する学校側の答えが、「参考程度にさせていただいています」というものだったこと。
G大附属系はT小もO小も「学習指導要領」に沿って指導していると学校説明会のときに言っていた。さすがは天下のO女、日本の教育を牽引しているのは自分たちだという自負があるんだろうなあ。
そしてもうひとつの質問は、「小学校で英語の時間がないようなのですが」というものだ。
それに対する回答が、「本校では中学からしか英語は行いません。それよりも国語に力を入れています」というもので、これにも驚いた。
どうしてこれらの質疑応答に私が激しく反応してしまったかというと、今の私の仕事内容に関係があるからだ。
2011年から全国の公立小学校では5,6年生で年間35時間の英語活動が必修化される。
それに向けて移行措置の今、全国の小学校では実施時間や内容などに格差はあるとはいえ、まったく取り組んでいないところは皆無だ。
そんな中、「英語より国語が大切」と言い切るO女ってすごすぎる。
「まあさ、あと3校残ってるからさ、がんばりなよ」
とポンと私の肩を叩く泰子。
泰子と別れて家に帰ると、なぜか誰もいない。外からは祭りの音が聞こえてくる。
今日の祭りの酒はまずいよなと思いながら、片っ端から電話なりメールなりしまくる。
恵一くん(仮名)もG大附属T小の抽選がだめだったそうだが、奈美子さん(仮名)の様子はメールからでも伝わってくるぐらい晴れ晴れとしていて、「次、次! 本番は(T大附属)T小だから気にしない気にしない!」という返事が返ってきた。
どうやら一番私がくよくよしてるみたいだ。いろんな人に慰めまくってもらって、何とか気を取り直して次に進んでいこう!
というふうにはなかなか気持ちが切り替えられないんだよねえ~。あ~あ、この性格がうらめしい。
「うん。なんか上品な学校だね。あ~あ、いいなあ~、泰子んちは。高校までO女に行けるなんて。マジうらやましいよ。うちだってO女に入れるなら行かせてあげたいよ」
そう言いながらハッとする。意地っ張りな私は他人がどんなにうらやましくても、こんなにあからさまに人をうらやんだことなんて今までなかった。
やっぱりお受験というものは、自分だけががんばってもどうにもならないからだろうか。
「そういえばO女の先生、1次抽選に通っても咳とか風邪の症状のある人は2次試験に来ないでくださいって言ってたよ」
「ふう~ん。私たち内部生にはたとえインフルエンザに罹ったとしても這ってでも来いって言ってたんだけどね」
おお~、外部からの受験生と内部生との間に横たわる何たる格差! 片や隔離で、片やは這ってでも来いときた!
「説明会でほか何か言ってた?」
そう聞かれて質疑応答のときに興味深い質問が飛んだことを思い出した。
ひとつは「文科省の学習指導要領に沿った指導をしているのか?」という質問で、それに対する学校側の答えが、「参考程度にさせていただいています」というものだったこと。
G大附属系はT小もO小も「学習指導要領」に沿って指導していると学校説明会のときに言っていた。さすがは天下のO女、日本の教育を牽引しているのは自分たちだという自負があるんだろうなあ。
そしてもうひとつの質問は、「小学校で英語の時間がないようなのですが」というものだ。
それに対する回答が、「本校では中学からしか英語は行いません。それよりも国語に力を入れています」というもので、これにも驚いた。
どうしてこれらの質疑応答に私が激しく反応してしまったかというと、今の私の仕事内容に関係があるからだ。
2011年から全国の公立小学校では5,6年生で年間35時間の英語活動が必修化される。
それに向けて移行措置の今、全国の小学校では実施時間や内容などに格差はあるとはいえ、まったく取り組んでいないところは皆無だ。
そんな中、「英語より国語が大切」と言い切るO女ってすごすぎる。
「まあさ、あと3校残ってるからさ、がんばりなよ」
とポンと私の肩を叩く泰子。
泰子と別れて家に帰ると、なぜか誰もいない。外からは祭りの音が聞こえてくる。
今日の祭りの酒はまずいよなと思いながら、片っ端から電話なりメールなりしまくる。
恵一くん(仮名)もG大附属T小の抽選がだめだったそうだが、奈美子さん(仮名)の様子はメールからでも伝わってくるぐらい晴れ晴れとしていて、「次、次! 本番は(T大附属)T小だから気にしない気にしない!」という返事が返ってきた。
どうやら一番私がくよくよしてるみたいだ。いろんな人に慰めまくってもらって、何とか気を取り直して次に進んでいこう!
というふうにはなかなか気持ちが切り替えられないんだよねえ~。あ~あ、この性格がうらめしい。
2010年5月21日金曜日
カフェにて①
「美央さん、今どこにいるの? 結果はどうだったの?」
耳元でやけにデカい泰子(仮名)の声が響いてくる。
「結果はバツ。今、本屋さん出たところ」
「ええ~っ! マジ!? おかしいね、それ。じゃあ、そこまで行くからさ、そこで待っててよ。これからお茶しよう!」
ということできっかり5分後に電動自転車で書店までやってきた泰子。
そこから近くにあるカフェに入る。そこはオシャレ系カフェとしてよく雑誌で紹介されるカフェで、北欧調のインテリアでポップなアートに囲まれている。個人的には北欧のインテリアもポップ系アートも趣味ではないので、気に入っているわけではないが、他にゆっくり話ができそうなところも思い浮かばなかった。
「あたし、ケーキ頼んでもいいかな。美央さん、すっごく疲れた顔してるよ。だいじょうぶ? ビールにしておく?」
ケーキを頬張る泰子を尻目に「やってられるかっ! こらぁ~!」状態で昼下がりのビールをガンガン飲んでる私。
「でもさ、美央さん、ちゃんと番号本当に確かめた?」
この期に及んでもG大附属T小の抽選に落ちたことが信じられないとブツブツ言う泰子。
「抽選は絶対にだいじょうぶだと思ったんだけどなあ。でもあの銀座の先生、はずすんだ。びっくりだよ」
そう、泰子はまた最近銀座の先生のところに行ってきて、家を建てる予定の土地の写真を持って風水を診てもらったところだった。
「だから1ケタ台を取らないとダメなんだよ、抽選って。まあでも国立4校受けるとそのうち絶対に1校は抽選通るから。来週は(G大附属)O小の一次抽選だよね?」
「そうだけど、あそこは遠いからなあ。考えちゃうな」
「そんなの、受かってから考えなよ!」
「まあそうだけど・・・」
「まあこうなったら、本格的に受験勉強するしかないね。買ったテキスト見せてよ」
ということでテーブルの上に買ったばかりのテキストを広げる。そういえばまだ何を買った(というより買わされた)か、確認していなかった。
「ふむふむ、“折り重ね図形”、“回転図形”、“図形の重なり”、“点図形”、“重ね図形”、“図形の分割”・・それと学校別過去問かあ。まあ妥当だね。他に“季節と行事”とか、“ものの名前”とか“生活常識”とか“ルールとマナー”なんてものもあるけど、こういったものはやらなくてもできるからね。Aちゃん(←うちの娘)みたいに本の好きな子にとっては、楽勝だよ。そうそう、(T大附属)T小は季節の花とかよく出るらしいからそれは押さえておいたほうがいいね」
ペラペラとテキストをめくりながら、さすがはお受験猛者ぶりを発揮する泰子。
「うーん、やっぱり全然、難易度が違うよね」と言いながら、T大附属T小とG大附属O小の過去問を見比べている泰子。
「そうなんだ?」
「ほら、見てみなよ。“お話の記憶”ひとつとったって、まず長さが全然違うよ」
“お話の記憶”とはカセットでお話を聞かせ、そのあとの設問に答えるというもの。
「ほう~、どれどれ・・・うわっ! 何これっ!!!」
「でしょ?」
恐るべしT大附属T小。去年のお話の記憶の問題がAグループではなんとG大附属O小の10倍ぐらいの長さなのだ!
こんなの、読んだ先から忘れるよ。
小学校受験では、子どもはまだ“字が読めない”という前提で問題が作られている。実際は字の読めない子なんて年長の時点ではほとんどいないし、ましてや受験するような家の子どもが字も習っていないなんてありえない。
それでも文字を習うのは小学校になってからという建前になっているために、問題も記憶力を問うものや図形問題など、かえって難しいものになっているのだ。
「これ、やばいよ。私解けないかも」
「そうだね。私も無理かも」
顔を見合わせる私たち。マジで難しい。あの~、私、一応大学出てるんですけどぉ~。
あ~あ、気が重いよ。こんなのこれから毎日やるの? 勘弁してよ。それもこれもG大附属T小の抽選にはずれるからじゃん。はあ~、気が滅入る。
耳元でやけにデカい泰子(仮名)の声が響いてくる。
「結果はバツ。今、本屋さん出たところ」
「ええ~っ! マジ!? おかしいね、それ。じゃあ、そこまで行くからさ、そこで待っててよ。これからお茶しよう!」
ということできっかり5分後に電動自転車で書店までやってきた泰子。
そこから近くにあるカフェに入る。そこはオシャレ系カフェとしてよく雑誌で紹介されるカフェで、北欧調のインテリアでポップなアートに囲まれている。個人的には北欧のインテリアもポップ系アートも趣味ではないので、気に入っているわけではないが、他にゆっくり話ができそうなところも思い浮かばなかった。
「あたし、ケーキ頼んでもいいかな。美央さん、すっごく疲れた顔してるよ。だいじょうぶ? ビールにしておく?」
ケーキを頬張る泰子を尻目に「やってられるかっ! こらぁ~!」状態で昼下がりのビールをガンガン飲んでる私。
「でもさ、美央さん、ちゃんと番号本当に確かめた?」
この期に及んでもG大附属T小の抽選に落ちたことが信じられないとブツブツ言う泰子。
「抽選は絶対にだいじょうぶだと思ったんだけどなあ。でもあの銀座の先生、はずすんだ。びっくりだよ」
そう、泰子はまた最近銀座の先生のところに行ってきて、家を建てる予定の土地の写真を持って風水を診てもらったところだった。
「だから1ケタ台を取らないとダメなんだよ、抽選って。まあでも国立4校受けるとそのうち絶対に1校は抽選通るから。来週は(G大附属)O小の一次抽選だよね?」
「そうだけど、あそこは遠いからなあ。考えちゃうな」
「そんなの、受かってから考えなよ!」
「まあそうだけど・・・」
「まあこうなったら、本格的に受験勉強するしかないね。買ったテキスト見せてよ」
ということでテーブルの上に買ったばかりのテキストを広げる。そういえばまだ何を買った(というより買わされた)か、確認していなかった。
「ふむふむ、“折り重ね図形”、“回転図形”、“図形の重なり”、“点図形”、“重ね図形”、“図形の分割”・・それと学校別過去問かあ。まあ妥当だね。他に“季節と行事”とか、“ものの名前”とか“生活常識”とか“ルールとマナー”なんてものもあるけど、こういったものはやらなくてもできるからね。Aちゃん(←うちの娘)みたいに本の好きな子にとっては、楽勝だよ。そうそう、(T大附属)T小は季節の花とかよく出るらしいからそれは押さえておいたほうがいいね」
ペラペラとテキストをめくりながら、さすがはお受験猛者ぶりを発揮する泰子。
「うーん、やっぱり全然、難易度が違うよね」と言いながら、T大附属T小とG大附属O小の過去問を見比べている泰子。
「そうなんだ?」
「ほら、見てみなよ。“お話の記憶”ひとつとったって、まず長さが全然違うよ」
“お話の記憶”とはカセットでお話を聞かせ、そのあとの設問に答えるというもの。
「ほう~、どれどれ・・・うわっ! 何これっ!!!」
「でしょ?」
恐るべしT大附属T小。去年のお話の記憶の問題がAグループではなんとG大附属O小の10倍ぐらいの長さなのだ!
こんなの、読んだ先から忘れるよ。
小学校受験では、子どもはまだ“字が読めない”という前提で問題が作られている。実際は字の読めない子なんて年長の時点ではほとんどいないし、ましてや受験するような家の子どもが字も習っていないなんてありえない。
それでも文字を習うのは小学校になってからという建前になっているために、問題も記憶力を問うものや図形問題など、かえって難しいものになっているのだ。
「これ、やばいよ。私解けないかも」
「そうだね。私も無理かも」
顔を見合わせる私たち。マジで難しい。あの~、私、一応大学出てるんですけどぉ~。
あ~あ、気が重いよ。こんなのこれから毎日やるの? 勘弁してよ。それもこれもG大附属T小の抽選にはずれるからじゃん。はあ~、気が滅入る。
2010年5月20日木曜日
由美子さん(仮名)の渇っ!
「あと2ヶ月ある」と呟く由美子さん。
「何それ?」
「(T大附属)T小の2次試験よ」
「そんなの無理に決まってるじゃん!!(T大附属)T小なんて難関中の難関で死ぬほど難しいんでしょ!? ここの受験のために年少のころから塾通いして準備する人も多いっていうじゃない!」
由美子さん自身、ここが第一希望で娘の雪美ちゃん(仮名)に塾通いのために多額のお金をかけ、毎日マクドナルドの夕食に耐え、11時まで勉強しているというのだ。
そんな子どもたちとあと2ヶ月でどう張り合えというのだ?
「美央さんも知っての通り、(T大附属)T小の抽選の倍率は約50%。(G大附属)T小よりも2次に進む確率が高いのはわかってるよね? だったら運なんてものに左右されずに実力を発揮しやすいからある意味ではフェアーなんだよ。あと(G大附属)O小だって一次は半分以上通るっていうから可能性もあるし」
「でも試験でだめだもん。うちなんて」
「何言ってるの! もっとAちゃん(←うちの娘)を信じてあげなさいよ。あのね、今日から始めればまだ間に合うの! でも今日から始めないともう手遅れなんだよ。どうするの? 今日から始めるの? それとも手遅れになってもいいの? 言っておくけどどっちも一時抽選が通ってから考えればいいなんてのは甘いからね。それじゃあ手遅れだから。やるなら今日からだよ」
「でも抽選で落ちたら無駄じゃん」
「お受験勉強に無駄はないの! 仮に抽選で落ちて試験を受けるまでに至らなくても、お受験で身につけた力は必ずその後、子どもの役に立つんだから!」
すごい。
由美子さんの全身から湯気が立っている。この人ってこんなキャラだったっけ?
「孟母三遷」なんてことわざを思い出してしまう。まさにこのことわざを地でいってるよなあ。
「勉強っていってもどっから手をつけていいかわからないよ」
「そうだね。時間が限られてるからね。効率的にやっていくしかないんだけど、お受験問題っていうのはね、勉強しなくてもある程度できるものと、やらないと絶対にできないものに大別できるんだよ。だからやらないと絶対にできないものを集中してやって、なおかつ出題頻度の高いものに絞らないとね」
由美子さんの顔は超真剣だ。
「やらないと絶対にできないものって何よ?」
「たとえば点図形とかね、回転図形とか、折り重ね図形とか」
「何それ?」
「こういったものは訓練が必要なの。テキストもちゃんと売ってるから、このあと本屋さんに行って、買おう!」
「え? このあと?」
「落ち込んでる時間はないっ! 今日からやるのっ! 私が全部やるべきテキストを選んであげるから!」
す、すごい・・・。由美子さんの迫力にタジタジな私。
「う~ん。じゃあ、選んでもらっちゃおうかなぁ・・・」
と気弱に答えたあとに、唖然と立ち尽くしているタケルに目を向けると、
「う、うちはいいっす・・・。子どもより親が無理っす・・・」
と私以上に気弱な態度だ。
そうこうしているうちにバスは終点で停まる。近くに巨大書店があるので、その前でタケルとは別れ、由美子さんに連れられてお受験テキスト売り場まで行く。
この書店はうちからもわりと近いのでよく利用しているのだが、このコーナーには初めて立ち寄った。
小学校受験のテキストだけでもこんなにいっぱい出版されているのかと、まずはビックリだ。
もうタイトルを見ただけでは何がなんだかわからない。これだけでも一大市場だと思う。
由美子さんはタイトルを一瞥しただけで、ガンガンテキストを選んでいく。
おいおい、どんだけ買わすんだよっ!
「うちは通ってるからSG会のテキストも使ってるんだけど、R会のテキストも使い勝手がいいんだよ。まずはこの“ばっちりくんドリル”の基本から始めて、応用もやることだね。あとは当然(T大附属)T小と(G大附属)O小の過去問は必須だし・・・」
と言いながら由美子さんの両手にはすでに抱えきれないほどのテキストが!
「ちょっと、ちょっとそんなに買ったってやりきれないよぉ!」と途方に暮れる私に、
「甘いっ! お受験をなんだと思ってるんだぁ! よし、じゃあ今日のところは基本だけで勘弁してやるが、本当は応用まで行かないと意味ないからねっ!」
「マジ!?」
由美子さん、怖すぎ。目が据わってるよ! 絶対にキャラ、豹変してるって! あのおっとりとした優しい由美子さんはどこに行ったの? おーい! カムバック!
「はい。これ全部買う!」と手渡されたテキストの重いこと重いこと。
「このドリルは全ページ、最低でも3枚ずつコピーとってね」
「え!? すごい量になっちゃうじゃんっ! なんのために?」
「3回は少なくてもやらないと身につかないからだよっ!」
マジですか! はあ~。
「お会計は合計1万2500円になります」
嘘! テキスト&ドリルで1万円超! とんだ出費だわ。
「これだけじゃ、もちろん足りないからね。今日買ったのはあくまでも最低限の基本だから。1ヶ月でこれ全部3回以上はやりきって、2ヶ月目で応用に移ってそれでなんとかギリギリだから」
「応用ももちろん最低3回だよね?」
「当然! あと模擬も受けておかないとね。ねえ、美央さん、どうせやるなら後悔しないようにベストを尽くさなきゃ」
最後に由美子さんは私の手を握る。あの~、テキストで荷物重いんですけど・・。
由美子さんと別れたあと、重いテキストを持ちため息をついていると、携帯電話が鳴った。相手は泰子(仮名)だった。
「何それ?」
「(T大附属)T小の2次試験よ」
「そんなの無理に決まってるじゃん!!(T大附属)T小なんて難関中の難関で死ぬほど難しいんでしょ!? ここの受験のために年少のころから塾通いして準備する人も多いっていうじゃない!」
由美子さん自身、ここが第一希望で娘の雪美ちゃん(仮名)に塾通いのために多額のお金をかけ、毎日マクドナルドの夕食に耐え、11時まで勉強しているというのだ。
そんな子どもたちとあと2ヶ月でどう張り合えというのだ?
「美央さんも知っての通り、(T大附属)T小の抽選の倍率は約50%。(G大附属)T小よりも2次に進む確率が高いのはわかってるよね? だったら運なんてものに左右されずに実力を発揮しやすいからある意味ではフェアーなんだよ。あと(G大附属)O小だって一次は半分以上通るっていうから可能性もあるし」
「でも試験でだめだもん。うちなんて」
「何言ってるの! もっとAちゃん(←うちの娘)を信じてあげなさいよ。あのね、今日から始めればまだ間に合うの! でも今日から始めないともう手遅れなんだよ。どうするの? 今日から始めるの? それとも手遅れになってもいいの? 言っておくけどどっちも一時抽選が通ってから考えればいいなんてのは甘いからね。それじゃあ手遅れだから。やるなら今日からだよ」
「でも抽選で落ちたら無駄じゃん」
「お受験勉強に無駄はないの! 仮に抽選で落ちて試験を受けるまでに至らなくても、お受験で身につけた力は必ずその後、子どもの役に立つんだから!」
すごい。
由美子さんの全身から湯気が立っている。この人ってこんなキャラだったっけ?
「孟母三遷」なんてことわざを思い出してしまう。まさにこのことわざを地でいってるよなあ。
「勉強っていってもどっから手をつけていいかわからないよ」
「そうだね。時間が限られてるからね。効率的にやっていくしかないんだけど、お受験問題っていうのはね、勉強しなくてもある程度できるものと、やらないと絶対にできないものに大別できるんだよ。だからやらないと絶対にできないものを集中してやって、なおかつ出題頻度の高いものに絞らないとね」
由美子さんの顔は超真剣だ。
「やらないと絶対にできないものって何よ?」
「たとえば点図形とかね、回転図形とか、折り重ね図形とか」
「何それ?」
「こういったものは訓練が必要なの。テキストもちゃんと売ってるから、このあと本屋さんに行って、買おう!」
「え? このあと?」
「落ち込んでる時間はないっ! 今日からやるのっ! 私が全部やるべきテキストを選んであげるから!」
す、すごい・・・。由美子さんの迫力にタジタジな私。
「う~ん。じゃあ、選んでもらっちゃおうかなぁ・・・」
と気弱に答えたあとに、唖然と立ち尽くしているタケルに目を向けると、
「う、うちはいいっす・・・。子どもより親が無理っす・・・」
と私以上に気弱な態度だ。
そうこうしているうちにバスは終点で停まる。近くに巨大書店があるので、その前でタケルとは別れ、由美子さんに連れられてお受験テキスト売り場まで行く。
この書店はうちからもわりと近いのでよく利用しているのだが、このコーナーには初めて立ち寄った。
小学校受験のテキストだけでもこんなにいっぱい出版されているのかと、まずはビックリだ。
もうタイトルを見ただけでは何がなんだかわからない。これだけでも一大市場だと思う。
由美子さんはタイトルを一瞥しただけで、ガンガンテキストを選んでいく。
おいおい、どんだけ買わすんだよっ!
「うちは通ってるからSG会のテキストも使ってるんだけど、R会のテキストも使い勝手がいいんだよ。まずはこの“ばっちりくんドリル”の基本から始めて、応用もやることだね。あとは当然(T大附属)T小と(G大附属)O小の過去問は必須だし・・・」
と言いながら由美子さんの両手にはすでに抱えきれないほどのテキストが!
「ちょっと、ちょっとそんなに買ったってやりきれないよぉ!」と途方に暮れる私に、
「甘いっ! お受験をなんだと思ってるんだぁ! よし、じゃあ今日のところは基本だけで勘弁してやるが、本当は応用まで行かないと意味ないからねっ!」
「マジ!?」
由美子さん、怖すぎ。目が据わってるよ! 絶対にキャラ、豹変してるって! あのおっとりとした優しい由美子さんはどこに行ったの? おーい! カムバック!
「はい。これ全部買う!」と手渡されたテキストの重いこと重いこと。
「このドリルは全ページ、最低でも3枚ずつコピーとってね」
「え!? すごい量になっちゃうじゃんっ! なんのために?」
「3回は少なくてもやらないと身につかないからだよっ!」
マジですか! はあ~。
「お会計は合計1万2500円になります」
嘘! テキスト&ドリルで1万円超! とんだ出費だわ。
「これだけじゃ、もちろん足りないからね。今日買ったのはあくまでも最低限の基本だから。1ヶ月でこれ全部3回以上はやりきって、2ヶ月目で応用に移ってそれでなんとかギリギリだから」
「応用ももちろん最低3回だよね?」
「当然! あと模擬も受けておかないとね。ねえ、美央さん、どうせやるなら後悔しないようにベストを尽くさなきゃ」
最後に由美子さんは私の手を握る。あの~、テキストで荷物重いんですけど・・。
由美子さんと別れたあと、重いテキストを持ちため息をついていると、携帯電話が鳴った。相手は泰子(仮名)だった。
2010年5月19日水曜日
そんなバカな!?の結果発表
掲示板の前に行列を作る保護者たち。もうドキドキものだ。うん十年前に遡るが、自分の受験のときだってこんなにドキドキしただろうか?
黙っていると緊張でおかしくなってしまいそうなので、私はひっきりなしにしゃべっている。
もしひとりだったらどうしていただろうか。
こんなときにいっしょに受験する仲間がいるのは、とても心強い。
行列が動き始める。どうやら女子の部の抽選結果が貼り出されるようだ。3人一列で順番に進むように指示され、何十秒か1分ぐらいずつなのか前から順番に3人ずつ掲示板を見て、抽選に当たった人は2次試験の受付に、はずれた人はそのままさようならというわけだ。
掲示される番号は全部の番号が掲載されるわけではなく、下二桁が掲載される。
なので、たとえば10番という数字だったら、10番、110番、210番、310番・・・の数字の人が合格というわけだ。
ここの抽選で当たれば2次試験は11月の下旬で、行動観察を突破できれば、最後の抽選で、最終結果は11月末に決まる。
2次試験は同じ系列のO小と重なり、その後の日程もほぼ同じはずだが、地理的にも占い的にももしどちらも一次抽選に通ってしまったら、G大附属T小に決まりだろう。
緊張しながらものんきなことを考えている私。
いよいよ私たちの番だ。由美子さん(仮名)もタケル(仮名)も掲示板を写メで撮っている。私は掲示された番号に目をこらす。
52番、52番、52番・・・・・。
昨年度の女子の応募者数は1400人とちょっとで、そのうち一次抽選に通ったのは400人ちょっと。2次を通過したのが44人とかで、最終合格者は24名だという。
考えれば考えるほどすごい倍率だよなと思う。
だけど銀座の先生はあそこまで断言したのだ。今年も昨年度並みの倍率だろうから、この掲示板には52番が必ず入っているはず。
だったのだが・・・・って、ないじゃん!?
嘘でしょ!! 52番ないじゃんっ!!!
「あ~あ、はずれだよ」とタケル。
「うちも。でもいいんだよ。初っ端だもん」と由美子さん。
嘘! 嘘! 嘘! マジっ!? あんたたちがはずれてるのは当然だって!
でもどうして私の番号がないの? ねえ、なんで?
目の前が真っ暗になる私。だってこのあと2次のための受付をするんじゃなかったの?
ガーンっ!!!
「美央さん!?」
「姐さん、どうしたっすか!?」
お、終わったよ。私のお受験は・・・。
正門に待ち構えている試験問題集やお受験塾のビラを配る業者が憎らしい。
あまりのショックで口もきけない私。
タイミング良くバスがやってきたので、3人でバスに乗り込む。
「姐さん、何固まってるんすっか?」
「そうよ。美央さん、どうしたの? 顔色悪いよ。あれ? もしかしたら落ち込んでる?」
当たり前だっつうの!
「あ~あ、終わったよ・・・・」
もうほとんど涙目の私。もうバカバカバカ。銀座の先生のバカ。どうせ私なんてクジ運が悪いのよ。そんなアホみたいな倍率のところなんて通るわけないじゃない。
あんなに期待させてひどすぎる。
「でもまだ3つ残ってるじゃない」
「ダメに決まってるよ。もういい。他の3つも受けない。うち本当に記念で何もやってないもん。O女は(G大附属)T小より高倍率だし、あとはペーパーがあるから無理だよ。もう遅すぎる・・・」
そう。ここを逃せばもう芽はないのだ。あ~あ、もうだめ。号泣したい。
「あきらめるのはまだ早いっ!!」
絶望の淵に沈んだ私に、カツを入れたのは、いつもはおっとりしている由美子さんだった。
「ここであきらめてどうするんだぁ~!!」
由美子さんの声がバス中にこだまする。お受験スーツに身を包んだ保護者たちがギョッとした顔で私たちを眺めていた。
黙っていると緊張でおかしくなってしまいそうなので、私はひっきりなしにしゃべっている。
もしひとりだったらどうしていただろうか。
こんなときにいっしょに受験する仲間がいるのは、とても心強い。
行列が動き始める。どうやら女子の部の抽選結果が貼り出されるようだ。3人一列で順番に進むように指示され、何十秒か1分ぐらいずつなのか前から順番に3人ずつ掲示板を見て、抽選に当たった人は2次試験の受付に、はずれた人はそのままさようならというわけだ。
掲示される番号は全部の番号が掲載されるわけではなく、下二桁が掲載される。
なので、たとえば10番という数字だったら、10番、110番、210番、310番・・・の数字の人が合格というわけだ。
ここの抽選で当たれば2次試験は11月の下旬で、行動観察を突破できれば、最後の抽選で、最終結果は11月末に決まる。
2次試験は同じ系列のO小と重なり、その後の日程もほぼ同じはずだが、地理的にも占い的にももしどちらも一次抽選に通ってしまったら、G大附属T小に決まりだろう。
緊張しながらものんきなことを考えている私。
いよいよ私たちの番だ。由美子さん(仮名)もタケル(仮名)も掲示板を写メで撮っている。私は掲示された番号に目をこらす。
52番、52番、52番・・・・・。
昨年度の女子の応募者数は1400人とちょっとで、そのうち一次抽選に通ったのは400人ちょっと。2次を通過したのが44人とかで、最終合格者は24名だという。
考えれば考えるほどすごい倍率だよなと思う。
だけど銀座の先生はあそこまで断言したのだ。今年も昨年度並みの倍率だろうから、この掲示板には52番が必ず入っているはず。
だったのだが・・・・って、ないじゃん!?
嘘でしょ!! 52番ないじゃんっ!!!
「あ~あ、はずれだよ」とタケル。
「うちも。でもいいんだよ。初っ端だもん」と由美子さん。
嘘! 嘘! 嘘! マジっ!? あんたたちがはずれてるのは当然だって!
でもどうして私の番号がないの? ねえ、なんで?
目の前が真っ暗になる私。だってこのあと2次のための受付をするんじゃなかったの?
ガーンっ!!!
「美央さん!?」
「姐さん、どうしたっすか!?」
お、終わったよ。私のお受験は・・・。
正門に待ち構えている試験問題集やお受験塾のビラを配る業者が憎らしい。
あまりのショックで口もきけない私。
タイミング良くバスがやってきたので、3人でバスに乗り込む。
「姐さん、何固まってるんすっか?」
「そうよ。美央さん、どうしたの? 顔色悪いよ。あれ? もしかしたら落ち込んでる?」
当たり前だっつうの!
「あ~あ、終わったよ・・・・」
もうほとんど涙目の私。もうバカバカバカ。銀座の先生のバカ。どうせ私なんてクジ運が悪いのよ。そんなアホみたいな倍率のところなんて通るわけないじゃない。
あんなに期待させてひどすぎる。
「でもまだ3つ残ってるじゃない」
「ダメに決まってるよ。もういい。他の3つも受けない。うち本当に記念で何もやってないもん。O女は(G大附属)T小より高倍率だし、あとはペーパーがあるから無理だよ。もう遅すぎる・・・」
そう。ここを逃せばもう芽はないのだ。あ~あ、もうだめ。号泣したい。
「あきらめるのはまだ早いっ!!」
絶望の淵に沈んだ私に、カツを入れたのは、いつもはおっとりしている由美子さんだった。
「ここであきらめてどうするんだぁ~!!」
由美子さんの声がバス中にこだまする。お受験スーツに身を包んだ保護者たちがギョッとした顔で私たちを眺めていた。
2010年5月15日土曜日
G大附属T小学校 第一次抽選!
O女大附属小学校の説明会が終わると、午後からはいよいよG大附属T小学校の一次抽選だ。私の手元にある受験票の番号は52番。
どういう根拠でなのか理解できないが、うちのオカンはその番号を聞いて、「いい番号やないの。縁起良さそうやん」と言っていた。ホンマかいな。
由美子さん(仮名)とタケル(仮名)の3人で大通りに出ると、由美子さんが「あら、陽太くん(仮名)ママからメール来てるよ」と言った。
自分の携帯もチェックしてみるとみっちゃん(仮名)がちょうど3人に一斉メールを送ってくれていて、内容は抽選結果だった。
G大附属T小の男子の抽選は午前中に行われていて、陽太は残念ながらハズれていたということだった。「けどみんなのところは受かっているといいね」とメールの文は結ばれている。
G大附属T小の抽選はだいたい25~6%ぐらいの合格率だ。だいたい4人受ければ1人ぐらいが抽選に通る計算になる。
抽選方法は体育館でみんなが見ているところで定員分のクジを引いて、その当選番号を表に貼り出すということだ。クジを引くときに立ち会う必要はないので、結果が貼り出されたころに見に行けばいいということになり、時間がしばらくあるのでランチを食べようということになった。
夜は居酒屋になるという店に入り、各自食べたいものをオーダーする。
「そういえばG大附属T小の学校説明会のあと、まっ昼間から飲んだっすよね」
とタケル。
なんでもないときならこんなとき、このメンバーならビールでも頼んでるだろう。けど今はまったくそんな気になれない。
お店に入ったあとぐらいからなんだか胃がキリキリと痛み出し、心臓もバクバク動き出している。
まったくなんて小心者なんだ! この私はっ!
「うちはここハズしたら、もっと難しいO女っすからね。ドキドキするなあ」とタケル。
「クジばっかりはもう運だから仕方ないよね。うちはここに関してはダメもとで臨んでるから」と由美子さん。
そう、クジばっかりは運だ。しかも私のクジ運は相当悪い。
けど銀座の先生がうちの子どもたちは揃ってG大附属T小に入るって言うんだもの。その通りになるのなら、今日の一次抽選はほんのその入り口にすぎない。
52番という番号が貼り出されている光景が目に浮かぶ。残念ながらタケルのところも由美子さんのところもハズれている。
ふたりの手前、思いっきり「やったあ~!!」と叫びたい衝動をこらえる。
次は2次だ。行動観察だ。行動観察ならまったく受験準備をしていないうちの娘、しかも優等生タイプなら楽勝かも。
一次当選者は2次試験のための受付を済ませなければならない。
「これから受付に行くから、ここで失礼するね」と二人に申し訳なさそうに別れを告げる私。
「あとで御会式で会おうね」と二人に微笑む私。ガックリ肩を落としている二人。
うれしいんだけど、一人だけ出し抜いてしまったという罪悪感もちょっぴり。けどやっぱり素直にうれしい。
お祭りのときにも二人の心情を考えてあまりはしゃがないように自制せねば。
昨日から御会式という秋祭りが始まっていて、地元の町は祭り一色に染まっている。私たちが住んでいるところはなぜか祭りが多くて、しかも盛り上がっているのだが、その中でも御会式は特別だ。
講ごとに万燈(まんどう)と纏(まとい)を揺らし、講ごとに掛け声を上げながら練り歩く姿は、激しく日本人としてのDNAに訴えかけてくるものがある。
なんだかんだといっても、しょせん私は祭りでガス抜きをさせられるイエロー・モンキーの下々の者だぜっ!と身の程を知る瞬間でもある。
今夜の祭りで飲む酒はうまいはずっ!とひとり妄想に浸っていると、
「姐さんはなんか余裕の表情っすね!」とタケル。
「いや、緊張してるよ」
「姐さんでも緊張することあるんっすか?」
「まあね」
とか言っているうちに時間がやってきた。
3人で歩いてG大附属T小に向かう。O女大附属小学校から徒歩でほぼ10分ほどのところだ。
すっかりおなじみになったこの校門。あと何十回、いや何百回通うことになるのだろうか。
ワラワラと振って沸いたように集うお受験スーツ姿の保護者たち。自然と背筋が伸びる。
いよいよ一次抽選の結果発表だ。
どういう根拠でなのか理解できないが、うちのオカンはその番号を聞いて、「いい番号やないの。縁起良さそうやん」と言っていた。ホンマかいな。
由美子さん(仮名)とタケル(仮名)の3人で大通りに出ると、由美子さんが「あら、陽太くん(仮名)ママからメール来てるよ」と言った。
自分の携帯もチェックしてみるとみっちゃん(仮名)がちょうど3人に一斉メールを送ってくれていて、内容は抽選結果だった。
G大附属T小の男子の抽選は午前中に行われていて、陽太は残念ながらハズれていたということだった。「けどみんなのところは受かっているといいね」とメールの文は結ばれている。
G大附属T小の抽選はだいたい25~6%ぐらいの合格率だ。だいたい4人受ければ1人ぐらいが抽選に通る計算になる。
抽選方法は体育館でみんなが見ているところで定員分のクジを引いて、その当選番号を表に貼り出すということだ。クジを引くときに立ち会う必要はないので、結果が貼り出されたころに見に行けばいいということになり、時間がしばらくあるのでランチを食べようということになった。
夜は居酒屋になるという店に入り、各自食べたいものをオーダーする。
「そういえばG大附属T小の学校説明会のあと、まっ昼間から飲んだっすよね」
とタケル。
なんでもないときならこんなとき、このメンバーならビールでも頼んでるだろう。けど今はまったくそんな気になれない。
お店に入ったあとぐらいからなんだか胃がキリキリと痛み出し、心臓もバクバク動き出している。
まったくなんて小心者なんだ! この私はっ!
「うちはここハズしたら、もっと難しいO女っすからね。ドキドキするなあ」とタケル。
「クジばっかりはもう運だから仕方ないよね。うちはここに関してはダメもとで臨んでるから」と由美子さん。
そう、クジばっかりは運だ。しかも私のクジ運は相当悪い。
けど銀座の先生がうちの子どもたちは揃ってG大附属T小に入るって言うんだもの。その通りになるのなら、今日の一次抽選はほんのその入り口にすぎない。
52番という番号が貼り出されている光景が目に浮かぶ。残念ながらタケルのところも由美子さんのところもハズれている。
ふたりの手前、思いっきり「やったあ~!!」と叫びたい衝動をこらえる。
次は2次だ。行動観察だ。行動観察ならまったく受験準備をしていないうちの娘、しかも優等生タイプなら楽勝かも。
一次当選者は2次試験のための受付を済ませなければならない。
「これから受付に行くから、ここで失礼するね」と二人に申し訳なさそうに別れを告げる私。
「あとで御会式で会おうね」と二人に微笑む私。ガックリ肩を落としている二人。
うれしいんだけど、一人だけ出し抜いてしまったという罪悪感もちょっぴり。けどやっぱり素直にうれしい。
お祭りのときにも二人の心情を考えてあまりはしゃがないように自制せねば。
昨日から御会式という秋祭りが始まっていて、地元の町は祭り一色に染まっている。私たちが住んでいるところはなぜか祭りが多くて、しかも盛り上がっているのだが、その中でも御会式は特別だ。
講ごとに万燈(まんどう)と纏(まとい)を揺らし、講ごとに掛け声を上げながら練り歩く姿は、激しく日本人としてのDNAに訴えかけてくるものがある。
なんだかんだといっても、しょせん私は祭りでガス抜きをさせられるイエロー・モンキーの下々の者だぜっ!と身の程を知る瞬間でもある。
今夜の祭りで飲む酒はうまいはずっ!とひとり妄想に浸っていると、
「姐さんはなんか余裕の表情っすね!」とタケル。
「いや、緊張してるよ」
「姐さんでも緊張することあるんっすか?」
「まあね」
とか言っているうちに時間がやってきた。
3人で歩いてG大附属T小に向かう。O女大附属小学校から徒歩でほぼ10分ほどのところだ。
すっかりおなじみになったこの校門。あと何十回、いや何百回通うことになるのだろうか。
ワラワラと振って沸いたように集うお受験スーツ姿の保護者たち。自然と背筋が伸びる。
いよいよ一次抽選の結果発表だ。
2010年5月10日月曜日
O女子大学附属小学校 学校説明会②
上品そうな学校長が壇上に上がる。第一声が、
「これだけ志願者の方々に来ていただいても、本校の抽選はひとえに運です。それ以外にありません」ときた。
そりゃそうだろうな。だって一次抽選だけでも50倍!なんだもん。
「誠に申し訳ない限りです」と頭を下げる学校長。
だったら受験方法変えろよなっ。
例によってビデオを見ながら、学校生活などの説明が行われる。G大系のようなイベントばっかり感はなく、全体的に地味目な感じ。
そのあとは受験日程に話が移り、この日にもらった受験票を11月末に提出し、12月上旬に一次抽選、その2日後に2次試験(保護者個別面談あり)、翌日2次結果と3次抽選。12月17日は合格者説明会とのこと。
学校説明会から出願までにずいぶん時間が開いていて、一次抽選以降は怒涛のスケジュールだが、一次抽選自体の日程は4校中、一番遅い。
この2次試験のときに「インフルエンザ感染拡大を防ぐため」ということで、咳が出ている等の少しでも感染が疑われる症状が親子ともにある場合は、2次試験を辞退してほしいとのこと。
ええ~っ? だって50倍の競争率を勝ち抜いて、それはないでしょ。厳しすぎ。
あと特筆すべきことは初年度に42万円もかかるということ。
その中に制服代なども含まれているらしいが、高くないか?
それでもO女は女子なら高校まではたいてい進学できるみたいだし、男子でも中学までしかないとはいえ、泰子の話によればO女の面子にかけて結構いい高校に男子は推薦で行かせてもらえるらしいので、決して男子にとっても悪くないという。
その後は質疑応答に入り、学校説明会は終了。
全体的に上品な感じのする学校であった。
「うちの雪美にはここは厳しいな」と由美子さん。活発な雪美ちゃんはこういうおっとりとしたお嬢様学校は向かないとのこと。
「でもAちゃん(うちの娘)にはすごく合ってると思うよ。バレエとかピアノとかやっている子も多そうだし、Aちゃんっぽい感じがするけどなあ」
・・・だったらそりゃいいけどねえ~。いかんせん50倍だからなあ~。
「これだけ志願者の方々に来ていただいても、本校の抽選はひとえに運です。それ以外にありません」ときた。
そりゃそうだろうな。だって一次抽選だけでも50倍!なんだもん。
「誠に申し訳ない限りです」と頭を下げる学校長。
だったら受験方法変えろよなっ。
例によってビデオを見ながら、学校生活などの説明が行われる。G大系のようなイベントばっかり感はなく、全体的に地味目な感じ。
そのあとは受験日程に話が移り、この日にもらった受験票を11月末に提出し、12月上旬に一次抽選、その2日後に2次試験(保護者個別面談あり)、翌日2次結果と3次抽選。12月17日は合格者説明会とのこと。
学校説明会から出願までにずいぶん時間が開いていて、一次抽選以降は怒涛のスケジュールだが、一次抽選自体の日程は4校中、一番遅い。
この2次試験のときに「インフルエンザ感染拡大を防ぐため」ということで、咳が出ている等の少しでも感染が疑われる症状が親子ともにある場合は、2次試験を辞退してほしいとのこと。
ええ~っ? だって50倍の競争率を勝ち抜いて、それはないでしょ。厳しすぎ。
あと特筆すべきことは初年度に42万円もかかるということ。
その中に制服代なども含まれているらしいが、高くないか?
それでもO女は女子なら高校まではたいてい進学できるみたいだし、男子でも中学までしかないとはいえ、泰子の話によればO女の面子にかけて結構いい高校に男子は推薦で行かせてもらえるらしいので、決して男子にとっても悪くないという。
その後は質疑応答に入り、学校説明会は終了。
全体的に上品な感じのする学校であった。
「うちの雪美にはここは厳しいな」と由美子さん。活発な雪美ちゃんはこういうおっとりとしたお嬢様学校は向かないとのこと。
「でもAちゃん(うちの娘)にはすごく合ってると思うよ。バレエとかピアノとかやっている子も多そうだし、Aちゃんっぽい感じがするけどなあ」
・・・だったらそりゃいいけどねえ~。いかんせん50倍だからなあ~。
2010年5月9日日曜日
O女子大学附属小学校 学校説明会①
10月17日土曜日は都内の国立小学校受験生(というより親)にとって、大きなイベントが2つ行われた。
午前中に(厳密にいえばこの日以外にもあと2日あったのだが)O女子大学附属小学校の学校説明会が、午後にはついにやってきたG大附属T小学校の第一次抽選である。
まずはO女子大学附属小学校に向かう。ここの説明会は実は3つのグループに分かれていて、A、B、Cの各グループは、生まれ月に応じている。
うちの娘は8月生まれなので真ん中のBグループにあたり、この日はBグループの説明会なのであった。
いつものバスに乗り、由緒正し気な校門を通り抜け講堂までまっすぐ伸びている道を歩いて行くと、これまた長蛇の列である。
もちろん80%ぐらいの父兄はお受験スーツである。このころになるとずいぶんと涼しくなってきたので、スーツでも過ごしやすくはなってきている。
ちなみにこの日の私はチャコールグレーのジェケットと黒のインナー、黒のスカートという、お受験スーツではないけど、とりあえず地味ないでたちだ。
長蛇の列を見渡すと、おっ、カリンちゃん(仮名)パパことタケル(仮名)と、雪美ちゃん(仮名)ママこと由美子さん(仮名)を発見!
「よっ!」と2人に声をかけると、
「あ、美央さんも一緒に並んじゃいなよ」
と大胆なことを言う由美子さん。でもこの2人のあとにも長蛇の列である。
「いや、それはひんしゅくでしょ。いいよ、一番後ろに並んでるから」
と言うと、「ま、今日は単なる学校説明会だから姐さんと一緒に一番後ろに並ぶっすよ」と優しいことを言ってくれるタケル。
そういうことで、3人で列に連なる。
携帯のメールを見ると、お受験エキスパートにして私と娘のピアノの先生でもある泰子(仮名)から激励メールがっ!
「今日、O女の説明会だよね。うちは来週だよ。あと(G大附属)T小の抽選もがんばって! 絶対に結果教えてね。あとでお茶しよう♪」
とのこと。
ちなみに泰子の娘はO女の幼稚園に通っており、附属小学校の進学も確定している。それでも一般の志願者に混じって説明会を受けないといけないらしく、3月生まれなのでCグループに属する泰子のところは来週受けるということだ。
受付が始まり、講堂の中に入る。外から見ると重厚な作りの講堂だが、中に入ると改装されたのか、わりと新しくて想像したより明るい感じだった。
しかし整然と並べられた椅子には隙間なく保護者たちが座っている。これだけ志願者がいても、全志願者のうちの6分の1。今日はBグループの説明会なのだが、男子の部は午前中に終わっている。
その男子の部に陽太(仮名)ママであるみっちゃん(仮名)も参加していたはずだ。
土曜日だということもあってか、わりとお父さん方も参加している。タケル以外のお父さん方はいかにも教育熱心そうな見た目をしている。
そして受付のところで学校のパンフレットが売られている。その額100円也。T大附属T小の10分の1というお手ごろさ。
100円なのでとりあえず買ってみると、なんと「これで100円も取りやがるのかよっ!」と叫びたくなるような代物だった。
ホント、つくづく思うけど国立大学も学校法人化されて、予算が厳しいんだろうな。こうやってみみっちく稼ぐしかないのだろうか。
そうこうしているうちに学校長が壇上に上がった。
午前中に(厳密にいえばこの日以外にもあと2日あったのだが)O女子大学附属小学校の学校説明会が、午後にはついにやってきたG大附属T小学校の第一次抽選である。
まずはO女子大学附属小学校に向かう。ここの説明会は実は3つのグループに分かれていて、A、B、Cの各グループは、生まれ月に応じている。
うちの娘は8月生まれなので真ん中のBグループにあたり、この日はBグループの説明会なのであった。
いつものバスに乗り、由緒正し気な校門を通り抜け講堂までまっすぐ伸びている道を歩いて行くと、これまた長蛇の列である。
もちろん80%ぐらいの父兄はお受験スーツである。このころになるとずいぶんと涼しくなってきたので、スーツでも過ごしやすくはなってきている。
ちなみにこの日の私はチャコールグレーのジェケットと黒のインナー、黒のスカートという、お受験スーツではないけど、とりあえず地味ないでたちだ。
長蛇の列を見渡すと、おっ、カリンちゃん(仮名)パパことタケル(仮名)と、雪美ちゃん(仮名)ママこと由美子さん(仮名)を発見!
「よっ!」と2人に声をかけると、
「あ、美央さんも一緒に並んじゃいなよ」
と大胆なことを言う由美子さん。でもこの2人のあとにも長蛇の列である。
「いや、それはひんしゅくでしょ。いいよ、一番後ろに並んでるから」
と言うと、「ま、今日は単なる学校説明会だから姐さんと一緒に一番後ろに並ぶっすよ」と優しいことを言ってくれるタケル。
そういうことで、3人で列に連なる。
携帯のメールを見ると、お受験エキスパートにして私と娘のピアノの先生でもある泰子(仮名)から激励メールがっ!
「今日、O女の説明会だよね。うちは来週だよ。あと(G大附属)T小の抽選もがんばって! 絶対に結果教えてね。あとでお茶しよう♪」
とのこと。
ちなみに泰子の娘はO女の幼稚園に通っており、附属小学校の進学も確定している。それでも一般の志願者に混じって説明会を受けないといけないらしく、3月生まれなのでCグループに属する泰子のところは来週受けるということだ。
受付が始まり、講堂の中に入る。外から見ると重厚な作りの講堂だが、中に入ると改装されたのか、わりと新しくて想像したより明るい感じだった。
しかし整然と並べられた椅子には隙間なく保護者たちが座っている。これだけ志願者がいても、全志願者のうちの6分の1。今日はBグループの説明会なのだが、男子の部は午前中に終わっている。
その男子の部に陽太(仮名)ママであるみっちゃん(仮名)も参加していたはずだ。
土曜日だということもあってか、わりとお父さん方も参加している。タケル以外のお父さん方はいかにも教育熱心そうな見た目をしている。
そして受付のところで学校のパンフレットが売られている。その額100円也。T大附属T小の10分の1というお手ごろさ。
100円なのでとりあえず買ってみると、なんと「これで100円も取りやがるのかよっ!」と叫びたくなるような代物だった。
ホント、つくづく思うけど国立大学も学校法人化されて、予算が厳しいんだろうな。こうやってみみっちく稼ぐしかないのだろうか。
そうこうしているうちに学校長が壇上に上がった。
2010年5月6日木曜日
計算ミス②
「どうやら結果がまったく変わってしまうものらしいです」
という電話が山木からあったのは、先ほどの電話から10分ほど経ってからだった。
「受付の人が電話に出て、先生に聞いてきてもらったら、そう言われたそうなんです。で、計算し直して先生の方から電話をくれるってことになりました」
「そうか、占い直してもらえるならいいね。まあ電話じゃなくてタダでもう一度占い直してもらうのが一番いいけど」
「あ、そういう手もあったか。でもさすがにそこまでは無理でしょ」
「でもそんなものは計算ミスする方が悪いよ」
「そうですよねえ~。どっちみちまた報告しますから」
というやりとりのあった翌日、次はメールが山木から届いた。そのメールで山木はめちゃくちゃ怒っていた。
なんでも先生が電話をくれたのはいいらしいが、ハイハイと話を聞いているうちに、「特に他にはありませんよね?」と言われ、「ええ。まあ~」と言っているうちに「それでは以上です」ということで電話が切られてしまったというのだ。
最初のうちはこんなものかなと思っていたらしいが、時計を見ると電話占いの時間はたったの7分。
そうこうしているうちにだんだんと怒りが沸いてきた山木は、「バカ野郎っ! 2万円返しやがれ!」という気分になっていったというのだ。
そりゃそうだよな。
しかしこういう場合は「ええ。まあ~」などとおっとりと構えていてはいけない。そこのところがやっぱり山木はお嬢様育ちだ。
ちなみに山木は小学校から広尾にある私立の超お嬢様学校に高校まで通っていて、大学は成城という経歴の持ち主である。お父様は某団体の理事長で、天皇陛下から園遊会にご招待されるような筋金入りのアッパー系だ。
本人が音楽業界やらベンチャー企業などといったヤクザな稼業を渡り歩いてきてといっても、根底がお嬢様なのだ。
そこんところが少しでも元を取ろうと、がめつく突っ込む私とは違うよな。
商売人の両親から、「定価で物を買うやつはアホや」とか「とりあえず値切っとけ」とか「聞くだけやったらタダや」とか「なんでも自分でやるのは合理的ではない」とか「チビチビ節約するぐらいならそのあいだに稼げ」と言われて育ち、すべての基準は「元がとれる・とれない」になっている私は、銀座の先生のところに行くと息する時間すらもったいと思っている。
そんな私だから、もし同じ状況になったら電話で突っ込みまくり、質問しまくるね。
いや、ベストはやはりもう一度タダで占い直してもらうことだろう。
しかし今週の土曜日はいよいよG大附属T小学校の抽選というのに、ちょっと暗雲が垂れ込めた感じだよな。
という電話が山木からあったのは、先ほどの電話から10分ほど経ってからだった。
「受付の人が電話に出て、先生に聞いてきてもらったら、そう言われたそうなんです。で、計算し直して先生の方から電話をくれるってことになりました」
「そうか、占い直してもらえるならいいね。まあ電話じゃなくてタダでもう一度占い直してもらうのが一番いいけど」
「あ、そういう手もあったか。でもさすがにそこまでは無理でしょ」
「でもそんなものは計算ミスする方が悪いよ」
「そうですよねえ~。どっちみちまた報告しますから」
というやりとりのあった翌日、次はメールが山木から届いた。そのメールで山木はめちゃくちゃ怒っていた。
なんでも先生が電話をくれたのはいいらしいが、ハイハイと話を聞いているうちに、「特に他にはありませんよね?」と言われ、「ええ。まあ~」と言っているうちに「それでは以上です」ということで電話が切られてしまったというのだ。
最初のうちはこんなものかなと思っていたらしいが、時計を見ると電話占いの時間はたったの7分。
そうこうしているうちにだんだんと怒りが沸いてきた山木は、「バカ野郎っ! 2万円返しやがれ!」という気分になっていったというのだ。
そりゃそうだよな。
しかしこういう場合は「ええ。まあ~」などとおっとりと構えていてはいけない。そこのところがやっぱり山木はお嬢様育ちだ。
ちなみに山木は小学校から広尾にある私立の超お嬢様学校に高校まで通っていて、大学は成城という経歴の持ち主である。お父様は某団体の理事長で、天皇陛下から園遊会にご招待されるような筋金入りのアッパー系だ。
本人が音楽業界やらベンチャー企業などといったヤクザな稼業を渡り歩いてきてといっても、根底がお嬢様なのだ。
そこんところが少しでも元を取ろうと、がめつく突っ込む私とは違うよな。
商売人の両親から、「定価で物を買うやつはアホや」とか「とりあえず値切っとけ」とか「聞くだけやったらタダや」とか「なんでも自分でやるのは合理的ではない」とか「チビチビ節約するぐらいならそのあいだに稼げ」と言われて育ち、すべての基準は「元がとれる・とれない」になっている私は、銀座の先生のところに行くと息する時間すらもったいと思っている。
そんな私だから、もし同じ状況になったら電話で突っ込みまくり、質問しまくるね。
いや、ベストはやはりもう一度タダで占い直してもらうことだろう。
しかし今週の土曜日はいよいよG大附属T小学校の抽選というのに、ちょっと暗雲が垂れ込めた感じだよな。
2010年5月5日水曜日
計算ミス①
前の会社の後輩で新婚ほやほやの山木(仮名)から電話があった。
そういえばそろそろ銀座の先生のところに行ってきたはずだった。夏に予約をしてから3ヵ月ほど待たされていた山木は、「結果は必ず報告しますね」と楽しみにしていた。
案の定、山木の第一声は、「今日ね、行ってきたんですよ。銀座に」だった。
「で、お姐さんのアドバイス通りに忘れないうちに言われたこと箇条書きにしなきゃって思って、そのまま近くのカフェに飛び込んで。今そこから電話しているというわけです」
「おお~、どうだった? 何占ってもらったの?」
「まあ基本はダンナとの相性とか、家庭生活ですよね。あとは仕事とか」
「で、当たってた?」
「う~ん。えええ???っていうのはなかったんですけど、へえ~、そうなんだぁ~、なるほどねえ~っていうのはいっぱいありましたよ」
「たとえば?」
「子どもは将来できるとか、いろいろあったんですけど。・・・実はね、私、発見しちゃったんです」
急に声を落とす山木。
「生年月日のところを足していって最終的に先生、数字を出すじゃないですか。この数式自体は単純だから、どうってことないんですけど、もらった紙をじっと見てたら、なんとダンナの生年月日を計算した表のところ、間違ってるんですよ!」
「間違ってるって何が?」
「だから計算がですよ! 私、計算間違いされたんですよ!」
「はあ!?」
目の前が暗くなる私。占いなんて当たるも八卦、当たらぬも八卦っていうけど、いいことばかり言われていた私は懸命に信じようとしていた。実際にそうなるといいなって表立って考えていなかったようなことでも、もしかしたら深層心理では望んでいたことだったのかもしれない。
そういう願望を刺激されていた私は、すでに「当たるも八卦、当たらぬも八卦」という心境ではなくなってきている。
ご神託はそうなるべき未来として私の中で定着している。
だからこそ、自分以外の人が占われたこともご神託の通りになっていてくれないと、私の未来まで揺らいでしまう。
その前提のひとつである計算が間違っていた?
「それ本当なの?」
「私も信じられなくて何度も計算し直したんです。けど何度やっても計算間違いがあるんですよ。結局占ってもらったことの8割がダンナに関係あることなんで、結果も全然違うものになってしまうと思うんですけど、こういうのってどうしたらいいと思います?」
「そりゃ、2万円も払ってるんだから、放っておくことないよ。電話してみたら?」
「そうですよねぇ~」
「そうだよ。ただ先生の占いって霊感みたいなものあるから、生年月日はすべてじゃないとは思うけど。考えられるのは、①計算が違っていても占い結果は変わらない ②一部変わるところもある ③全然変わってしまう・・・のうちのどれかだよね。まず、それを確認しなよ。そのうえで占い直してもらうとかしないと。だって2万円だからね」
「そっか、まずは結果がどれくらい変わるかですよね。ありがとうございました。じゃあ、今から連絡してみます」
「また結果教えてね」
「はいはい。お姐さんのブログ的にはおいしいネタですもんね(←なので今、取り上げている!)」
さすがは山木。わかってるぜっ!
そういえばそろそろ銀座の先生のところに行ってきたはずだった。夏に予約をしてから3ヵ月ほど待たされていた山木は、「結果は必ず報告しますね」と楽しみにしていた。
案の定、山木の第一声は、「今日ね、行ってきたんですよ。銀座に」だった。
「で、お姐さんのアドバイス通りに忘れないうちに言われたこと箇条書きにしなきゃって思って、そのまま近くのカフェに飛び込んで。今そこから電話しているというわけです」
「おお~、どうだった? 何占ってもらったの?」
「まあ基本はダンナとの相性とか、家庭生活ですよね。あとは仕事とか」
「で、当たってた?」
「う~ん。えええ???っていうのはなかったんですけど、へえ~、そうなんだぁ~、なるほどねえ~っていうのはいっぱいありましたよ」
「たとえば?」
「子どもは将来できるとか、いろいろあったんですけど。・・・実はね、私、発見しちゃったんです」
急に声を落とす山木。
「生年月日のところを足していって最終的に先生、数字を出すじゃないですか。この数式自体は単純だから、どうってことないんですけど、もらった紙をじっと見てたら、なんとダンナの生年月日を計算した表のところ、間違ってるんですよ!」
「間違ってるって何が?」
「だから計算がですよ! 私、計算間違いされたんですよ!」
「はあ!?」
目の前が暗くなる私。占いなんて当たるも八卦、当たらぬも八卦っていうけど、いいことばかり言われていた私は懸命に信じようとしていた。実際にそうなるといいなって表立って考えていなかったようなことでも、もしかしたら深層心理では望んでいたことだったのかもしれない。
そういう願望を刺激されていた私は、すでに「当たるも八卦、当たらぬも八卦」という心境ではなくなってきている。
ご神託はそうなるべき未来として私の中で定着している。
だからこそ、自分以外の人が占われたこともご神託の通りになっていてくれないと、私の未来まで揺らいでしまう。
その前提のひとつである計算が間違っていた?
「それ本当なの?」
「私も信じられなくて何度も計算し直したんです。けど何度やっても計算間違いがあるんですよ。結局占ってもらったことの8割がダンナに関係あることなんで、結果も全然違うものになってしまうと思うんですけど、こういうのってどうしたらいいと思います?」
「そりゃ、2万円も払ってるんだから、放っておくことないよ。電話してみたら?」
「そうですよねぇ~」
「そうだよ。ただ先生の占いって霊感みたいなものあるから、生年月日はすべてじゃないとは思うけど。考えられるのは、①計算が違っていても占い結果は変わらない ②一部変わるところもある ③全然変わってしまう・・・のうちのどれかだよね。まず、それを確認しなよ。そのうえで占い直してもらうとかしないと。だって2万円だからね」
「そっか、まずは結果がどれくらい変わるかですよね。ありがとうございました。じゃあ、今から連絡してみます」
「また結果教えてね」
「はいはい。お姐さんのブログ的にはおいしいネタですもんね(←なので今、取り上げている!)」
さすがは山木。わかってるぜっ!
2010年5月1日土曜日
T大附属T小のパンフレット
志願票を取りに行った日の夜、夫はバンドの練習のために出かけていった。家の近くのスタジオで2時間ほど練習したあとは、いつもメンバーを引き連れてうちに帰ってきて、軽くみんなで飲むのが定例になっている。
この日、夫が連れて帰ってきたのがカズヒロ(みっちゃんの夫であり陽太パパ)とタケル(洋子の夫でありカリンパパ)全員仮名である。
陽太の第一志望がT大附属T小だったことから、「今日、誰が志願票取りに行ったの?」と聞くと、「俺、行ったよ」と答えるカズヒロ。
タケルのところは試験のあるT大附属T小とG大附属O小はパスだという。完全に運試し組だ。
「パンフレット買った?」と聞くと、
「なんか並んでたからめんどくさくてさ、買わなかったら光子に“何やってんだっっ!!”って殴られそうになった。マジ、あいつ怖いよ。必死すぎて」
と「そんなことよりビール、ビール」とうれしそうにビールを注いでいるカズヒロ。
夫がバンドの練習に行っている間、パンフレットを流し読みしてみたのだが、なんだかすごい学校であった。
「130年の歴史」とか「校章は明治天皇から下賜された御紋」とか「本校での教育成果が全国の公立小学校を牽引」とか、もうハハア~と気分は「お代官さま。おねげぇしますだ」とひれ伏す下賤の者だ。
もう超上から目線! 皆の者、控えよっ!って感じ。
「本校生徒が乗り越えるべき3つの試練」というのもすごい。
まずは有名な遠泳2キロ。あとは2500メートル級の登山。そしてスキー。
なんだかめちゃくちゃ体を鍛えまくってるぞ。
運動オンチで集団行動が苦手で、競争させられたり強制されたりするのが死ぬほど嫌いな私には絶対に向かない学校である。
自分だったらまず不登校になるな。変な確信をする私。
そして教育目標もすごい。
なんといっても「国民的自覚を持つ子ども」なのだ。
国民ですよ。国民! 国民と言われるとその前につく冠が「日本」というより「大日本帝国」のほうを思い浮かべてしまう私って偏ってる?
しかもうちの子ども、ハーフだし。国民って言われてもなあ~。
あとは「文化を継承し、創造し~」とか「人間としての自覚~」とか、もう「自覚」を促されっぱなしなのである。
でも自覚って強制されて芽生えるもんかね?
パンフレットを見れば見るほど、自分には合わないT大附属T小学校。
要はスパルタチックなんだよなあ。
そうは言っても、私に合わなくても(←たぶん夫にも合わなさそうだが)、娘には合っているという可能性はある。
あ、でも銀座の先生に娘もT大附属T小は合わないって言われてたか。
じゃあ、だめじゃん!!
しかも結果が出るのがここが一番遅いし。
まあどうせ合わないんだったら、クジでとっとと落としてもらった方がスッキリするかもね。
この日、夫が連れて帰ってきたのがカズヒロ(みっちゃんの夫であり陽太パパ)とタケル(洋子の夫でありカリンパパ)全員仮名である。
陽太の第一志望がT大附属T小だったことから、「今日、誰が志願票取りに行ったの?」と聞くと、「俺、行ったよ」と答えるカズヒロ。
タケルのところは試験のあるT大附属T小とG大附属O小はパスだという。完全に運試し組だ。
「パンフレット買った?」と聞くと、
「なんか並んでたからめんどくさくてさ、買わなかったら光子に“何やってんだっっ!!”って殴られそうになった。マジ、あいつ怖いよ。必死すぎて」
と「そんなことよりビール、ビール」とうれしそうにビールを注いでいるカズヒロ。
夫がバンドの練習に行っている間、パンフレットを流し読みしてみたのだが、なんだかすごい学校であった。
「130年の歴史」とか「校章は明治天皇から下賜された御紋」とか「本校での教育成果が全国の公立小学校を牽引」とか、もうハハア~と気分は「お代官さま。おねげぇしますだ」とひれ伏す下賤の者だ。
もう超上から目線! 皆の者、控えよっ!って感じ。
「本校生徒が乗り越えるべき3つの試練」というのもすごい。
まずは有名な遠泳2キロ。あとは2500メートル級の登山。そしてスキー。
なんだかめちゃくちゃ体を鍛えまくってるぞ。
運動オンチで集団行動が苦手で、競争させられたり強制されたりするのが死ぬほど嫌いな私には絶対に向かない学校である。
自分だったらまず不登校になるな。変な確信をする私。
そして教育目標もすごい。
なんといっても「国民的自覚を持つ子ども」なのだ。
国民ですよ。国民! 国民と言われるとその前につく冠が「日本」というより「大日本帝国」のほうを思い浮かべてしまう私って偏ってる?
しかもうちの子ども、ハーフだし。国民って言われてもなあ~。
あとは「文化を継承し、創造し~」とか「人間としての自覚~」とか、もう「自覚」を促されっぱなしなのである。
でも自覚って強制されて芽生えるもんかね?
パンフレットを見れば見るほど、自分には合わないT大附属T小学校。
要はスパルタチックなんだよなあ。
そうは言っても、私に合わなくても(←たぶん夫にも合わなさそうだが)、娘には合っているという可能性はある。
あ、でも銀座の先生に娘もT大附属T小は合わないって言われてたか。
じゃあ、だめじゃん!!
しかも結果が出るのがここが一番遅いし。
まあどうせ合わないんだったら、クジでとっとと落としてもらった方がスッキリするかもね。
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