夕食後、夫と息子のお勉強タイムが始まった。娘のT大附属T小学校の2次試験から3週間後のことである。
言葉を換えれば、私たちの安らぎの時間は3週間しかなかったということだ。
まだ時間があるので初めは5分ぐらいから始める。幸い息子はずっと娘の勉強しているのを見ていて自分も参加したがっていたので、今度は自分の番だ、やったあ!ぐらいに思ってくれている。
それでも夫はずいぶん苦戦しているようだった。
まあ、がんばってくれたまえ。
2月には子どもたちが習っているバレエの発表会がある。娘にとっては3度目の、息子にとっては初めての発表会だ。
秋ごろから発表会用の練習を始めていて、今回はオッフェンバックの「パリの喜び」を上演することに。
通常、発表会といえば全員参加に決まっているが、発表会の練習に入るときに、バレエの先生から、
「お母さん、Lくん、発表会どうしますか?」
と打診された。それってどういう意味よ?
「Lくんしか男の子がいないので、ぜひ出てほしいのはヤマヤマなんですけど・・・」
何やら先生は言いにくそうに口ごもっている。
「あまりにも微妙すぎるんですよねぇ~。彼は・・・」
ああ、やっぱり。微妙すぎるというより、ダメダメすぎるのだ。
バレエを始めてなんだかんだで10ヶ月近く経っているが、とにかくやる気がない。先生の言うことを聞かない。みんなと同じ動きができない。奇声を発する。脱走する。バーにずっとぶら下がっている。叱られてもヘラヘラしている。ステップとかスキップとか全部できないふりをする(←レッスンでやらないくせに、家などで軽やかにスキップとかステップとか踏まれると超ムカつく。やればできるんじゃんっ!)。
月1回の親の見学日にはいつも息子の狼藉ぶりに、他の親御さんたちから失笑が漏れる。もう申し訳なくて赤面することしきり。
私がよその親だったら絶対に先生に文句言うね。
ちなみに夫は一度見学に来て以来、2度と来ない。バレエ代は夫が払っているので、お金をドブに捨てるとはまさにこのことっ!と、腹が立つからだそうだ。
う~ん。わかるぞ。その気持ち。
まさに学級崩壊児そのもので、こんな様子を毎月見せられるとお受験どころか、普通の小学校生活すらままならないのではないかと大いに不安にさせられる。
「お母さんもおわかりだと思いますけど、あの調子だとステージ自体、破壊しかねないですよねぇ?」
う~ん。確かに。
けど息子はいつも無茶苦茶なわけじゃあない。保育園の運動会や発表会ではクラスの出し物にちゃんと参加しているし、とりたててひとりだけおかしな動きをするわけではない。
発表会の演奏では事前に担任の先生から、
「Lくん、すごっく木琴が上手でした。リズム感もあるし、すぐに覚えるし、何か楽器でも習ってるんですか?」
と聞かれ、誇らしさのあまり大いに鼻の穴を膨らませたぐらいである。
「そうなんですけど、Lは保育園の発表会とか運動会では普通ですよ」
とりあえず息子をかばう私。だっていつだって我が可愛い息子がディストロイヤーだと思われるのもシャクではないかっ!
「そうですか。Lくん、イケメンですからね、出てはもらいたいんですよ。そうだなあ~。とりあえず出しますか。踊らなくて済むような、出るだけでいい振り付けを考えてみますから。それでもやってみてダメそうでしたら、またご相談しますから」
ということで、首の皮一枚でなんとか発表会に出られることに。
こうして発表会用の練習が始まり、娘は踊り子さんの役のグループに、息子は別の踊り子さんの役のグループに花売りの役として登場することに。
しかしそもそも発表会とは、今まで練習してきた成果をみんなの前で発表するのが本来の趣旨ではないか。
それを踊らなくて済むような役とは、いったい何のためにお金を払って毎週レッスンに通わせているのだ? まったく無駄ってこと? そりゃあ、夫も怒るよなあ。
息子のチームは年少さんと年中さんのバレエを始めて1年目の一番幼い子どもたちがメンバーだ。
一列に並んだ女の子たちに息子が音楽に合わせて1本1本花を配って、全員に配り終わったところで、その花を掲げて女の子たちが一斉に踊りだすという流れなのだか・・・。
「お母さんっ! 家で花を渡す練習をしてきてくださいっ。花を渡す時間は10秒、渡す女の子の数は12人。ひとり1秒もありませんから。チャッチャと渡す! タイマーで計ってください。Lくん、30秒もかけてます。これだと女の子たちが踊りだせません。Lくんの出番はこれだけですから、これぐらいは死んでもやらせてくださいっ!」
必死の形相の先生。しかし出番は花を渡す10秒だけなんですか?
この10秒のために発表会参加料と衣装代、そしてその他諸々の諸経費+親の費やす労力。
しょっぱいぞ。息子よ。あまりにもしょっぱすぎる。
確かに銀座の先生の言うとおり、息子にバレエは向いていそうもない。長続きしないと言われていたが、もはやこれまでか。
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