由美子さん(仮名)・雪美ちゃん(仮名)親子と待ち合わせをして、T大附属T小学校へ向かう。12月の下旬に入ったけど、穏やかで暖かい日だった。
「もう私立に行く準備しているから」と由美子さん。
「結果も見てないのに気が早いんだから」
「朔美ちゃん(仮名)ママとも話したんだけど、受かってるのAちゃんだけだから」
「そんなのわかんないじゃん」
「いやわかるよ。だってうちも朔美ちゃんも図形で4問も5問も残してるし、出題も今年はそれほど難しくないからね。これでできてないとキツイよ」
「そうかなあ」
そう言いつつも、確かにそれだけできてないと辛いかもなと心の中で思う。と同時に心は明日の抽選に飛んでいる。ここまで来て最後の抽選で落ちると水の泡である。
けど銀座の先生が間違いないって太鼓判を押してくれたんだもん。まあ太鼓判を押してくれたG大附属T小は一次試験にあたる抽選で落ちてしまい、あげくT大附属T小は合わないと言われていたけど、国立に行くことは間違いないって断言してたんだから、ここで落ちているはずがない。
絶対にだいじょうぶ。
ドキドキする胸を押さえつつ自分に言い聞かせる。
合否は掲示板に張り出されている。ずらりと並ぶ番号。
ふと大学の合格発表を思い出したが、その光景は幻想だとすぐに思い当たる。なぜなら私の受けた大学は全部他県にあり遠かったので、合格発表のためにわざわざ大学には出向かず、電報での合否連絡にしていたからだ。
T大附属T小は約4000人が一次に出願し、抽選で1800人に絞られ(←ただこの後、私立等がどんどん決まり受験を辞退する人も出てくるので、実際に2次まで進むのは1500人前後だという)、2次試験でおおよそ260人ぐらいに絞られ、3次抽選で男子80人、女子80人計160人が合格者だということになる。
前にも書いたけどここが最後の小学校受験の日程に当たるため、合格者160人から辞退者が出ることはない。
娘の受験番号は217番。試験当日は白の7番だった。
217番を目で追う。
あれ!? すぐに異変に気づく。200番台がほとんど出ていなかったのだ。
ないっ!!!!
217番がないっ! 嘘でしょっ!?
酸っぱいものが込み上げてくる。と同時に、「あれ!? 受かってる!」と突拍子もない声を由美子さんが上げている。
「Aちゃん、どうだった?」
「ないよっ! 番号」
「そうか。あの悪いんだけど、3次の受付しなきゃいけないから、雪美見ていて!」
と言ったと同時に受付場所になっている講堂へ駆け込んで行く由美子さん。
ガーンっ!!!!!
「あれ? ママどっか行っちゃったぁ~。Aちゃんママ、うちのママどこ行ったの?」
と間延びしたような雪美ちゃんの声。
「あ、うん。すぐ戻ってくるよ。だからそれまでAと遊んでて」
そう言いながらちょっと由美子さんって無神経だよなと、ムッとくる。
でも逆の立場だったら、私も舞い上がって同じことをしたのかな。
すると後ろからポンと肩を叩かれる。振り返ると幼児教室でいっしょの澪ちゃん(仮名)とママだった。
「やっぱダメだったよ。そっちは?」
と自嘲気味の澪ちゃんママ。
「うちも。けどいっしょに来た保育園のお友だちは合格してて、今3次の受付に行ったよ。だからそのお友だちも見てるの」
「そっか~。それちょっといやなシチュエーションだねえ」
「まあね」
「今日、幼児教室のクラス、これからあるけど行く?」
「うん。そのつもりで用意もしてきたよ」
「じゃあいっしょに行こうか」
ということで澪ちゃん親子も由美子さんの戻りを待ってくれることに。
その間、泰子にもメールを入れ、何度も掲示板も見直した。何度掲示板を見直してもやっぱり217番という数字はない。
おっ、そういえば白の23番さんはどうなったんだ? この数字の流れで行くと白の23番さんは233番のはず。
233番もないっ!
あんなにすばらしい終わりのあいさつをした白の23番さんも落ちているとは、いったいどういうことなのだ!?
わからん! さっぱりわからん! なんでうちの娘と白の23番さんが落ちているんだ!?
不条理だ。この世は矛盾に満ちている。
胃がキューっと縮んで固くなっているのがわかる。もう人目も構わず大声で泣き出したい感じ。
娘は何がおこなわれているのか、全然わかっていない。ここで私が悲しんだり、怖い顔をしたら心に傷を負ってしまうかもしれない。
そう思うと極力微笑むようにしようと思うと、体がバラバラに動き出してしまうような感覚に襲われる。
しばらくしたら由美子さんが戻ってきたので、澪ちゃんママを紹介し、3人でとりあえず私たちの幼児教室が入っている百貨店まで向かった。
まだクラスが始まるまで少し時間があったので、お茶をすることになったのだけど、澪ちゃんママもいたので敢えて、
「あぁ~、もうやってられないから飲むよっ!」
と言って、百貨店の地下にあるイタリアン・バールに入る。
「私もビール、飲んじゃぉ~」と澪ちゃんママ。
「じゃあ私も飲もうかな」と由美子さん。
あんたは飲まんでよろしっ!
けどここで優雅にカプチーノとか飲まれたらやっぱムカつくかな。
真昼間から3人でビールをかっくらい(←娘たちはオレンジジュース)、由美子さんに向かって、
「ここまできたら抽選、絶対に勝ち取ってこいよっ!」
とドスの効いた声でエールを送る私。
「そーよ、そーよ。私たちの分までよろしくねっ!」
初対面のくせに参戦してくる澪ちゃんママ。
「あ、う、うん。がんばるよ」
とここに来てちょっと気まずそうに俯き加減で答える由美子さんであった。
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