いよいよ発表当日だ。午前中は部屋の掃除をしたり娘のピアノの練習をみたりしながら、ゆっくり過ごす。
お昼は昨日の夜の残りでいいやと考えていたら、泰子(仮名)から電話がかかってきた。
「今日だよね。発表。ねえねえ、その前にいっしょにお昼食べようよ」
と言うので近所のイタリアンで待ち合わせる。
ちなみにそのイタリアンは2次試験の日、お祝いで夜出かけたフレンチと姉妹店である。ここのオーナーは30代前半とおぼしき長身のなかなかのイケメンで、娘はこのオーナーの大ファンだ。
ついこの前までこれまた近所の洋食屋さんで働くウェーターのお兄さんのことが好きで、私もこの場所に引っ越してきて以来、彼に勝手にときめいていたので、親子揃って「あのお兄さんはイケている♪」とキャアキャア騒いでいたのだが、いつのまに娘は「だってこっちのお兄さんのほうが偉い人っぽいんだもん。もうあっちはどうでもいい」と、すっかりこちらに乗り換えてしまった。
確かにねえ。泰子とランチを食べることになったイタリアンも昼も夜もいつも満席で、雑誌にもよく取り上げられている。
イタリアンのほうもフレンチのほうも若くて感じのいい美男美女のスタッフを揃え、テキパキと采配を振るうオーナーは確かに素敵だし、いかにもこれからどんどん店舗も増やしまっせといったやり手で野心家の上昇志向臭もぷんぷん漂ってくる。
こういう男性は魅力的だしモテるよね~。将来性もありそうだし(←といっても3歳の息子さんがいるらしいが)。
未就学児の女の子にもわかりやすい魅力だってことなのかしら?
さてその日、あいにくオーナーはこちらの店には出てきていなくて、娘はブーブー文句を言っていたが、私たちはバジルのスパゲティーとサーモンのクリームソースのスパゲティーとマルガリータピザをシェアしながら、お受験話に花を咲かせる。
その間、娘と泰子の娘の真美ちゃん(仮名)も女の子同士でお話をしている。
「今日、発表何時からなの?」
「午後2時半からなんだけど、2時に雪美ちゃん(仮名)たちと待ち合わせしてるんだよねえ」
「そうかあ~。私もこれからレッスンじゃなかったら一緒に行くんだけどなあ~」
と好奇心むき出しの泰子。いくら娘がピアノの生徒だからといってもそこまでしようというのは、単純に泰子自身がお受験話が大好きだから以外何者でもないと思う。
「今年から行動観察が入ったという時点でかなりAちゃんには有利だよ。ここでポイントが稼げるはずだから、これまでの準備不足はかなり撤回できるはずだよ」
泰子にはすでに試験当日の話はしてあって、「それって私立だったらその場で合格だよ」と言っていた。
「でもなあ~。銀座の先生にはT大附属T小じゃないって言われてたしなあ~」
「だからさ、先生間違ってるんだよ。G大附属T小じゃなくて、T大付属T小だって学校名を間違えただけなんだよ。あの先生が外すわけないよ。うちの子だって当たったし、友だちもS学園受かったからね」
「まあそれを言うならバレエでいっしょの里美さん(仮名)のところもS女子学院受かってるからなあ~」
「そうだよ。絶対に受かってるよ。でもさ、AちゃんがT大附属T小に入ったらLくん(←息子)はどうするの? 塾入れるの?」
さっそく来年の話をする泰子。そうだよなあ~。うちは年子だから続くのよ~。
「T大附属T小は抽選は通りやすいからね。別々の小学校に行かれてもめんどくさいし、Lはコツコツ勉強したりできないタイプだから、受かってったら速攻でLの受験準備始めないとね。まあ逆にダメだったらもうLも公立でいいけど」
「勉強するなら早いほうがいいよ。それに兄弟で国立って珍しくないから。そうそう、そういえばさあ、この前O女附属小の入学者のための説明会ってのがあったんだけど、***のボーカルのHの息子が入学してたよ」
「マジ!?」
***とは元々ヴィジュアル系のバンドとして90年代にデビューし、今では国民的バンドと言ってしまえば大げさだが、それに準ずる超大物バンドである。
ちなみにかつて音楽雑誌の編集者をしていたころ、私はこのバンドのデビュー当時担当だった。
最初から事務所もレコード会社も気合が入っていて、スタッフからもメンバーからも「絶対に売れる」という強い信念が感じられ、案の定と言うか、やはり紆余曲折はありつつも依然としてメインストリームを歩き続けているバンドである。
そのバンドのボーカリストの息子がO女大附属小とは、あのすさまじい抽選の倍率を勝ち抜いたということだから、どこまで運が強いのか。
それにしてもO女大付属小もヴィジュアル系からやんごとなき方(幼稚園のほうだか)までなんと幅広いことか。
「でもさ、O女大附属のお母様方ってさ、***のこと知らないんだよね。そういう私も全然詳しくないんだけどさ」
「嘘でしょ? ***ぐらいだったら誰だって知ってるでしょ?」
「ほんとだって! 誰?それ?みたいな反応だったよ。けど、奥さんのほうは元タレントの××だからそっちはみんな知ってたけどね」
「ふ~ん。そういう世界もあるのかぁ。さすがO女のお母様方って感じだね」
などと話は盛り上がるのだが、そろそろ時間だ。
「結果わかったら速攻でメールか電話で教えてね。まあ、絶対に受かってるからだいじょうぶだよ」と別れ際に泰子が力強く励ましてくれた。
2010年10月3日日曜日
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