2010年10月26日火曜日

息子とバレエ②

 そのころ我が家ではタイマーが大活躍だった。
まだ娘のT大附属T小学校のお受験が目前に控えていたので、ちぎりや図形の練習のスピードアップを図るためにタイマーを使っていたし、息子の花を渡す練習のためにもタイマーを使っていた。
見学日に出て、どうして息子が花を渡すだけなのにそんなに時間をかけていた謎が解けた。
練習用の造花は1本1本違っていて、息子は女の子ひとりひとりにその子に合うと思った花を吟味して渡していたからだ。
なんてスウィートなんだっ! 可愛すぎるぞっ!

しかしそれではあかんということで、造花は全部同じものに揃えられることになった。
家での練習は家族総出でおこなった。年が明けたころには10秒で12人分花も渡せるようになった。
娘のお受験が終わってしまえば、息子のバレエの練習(←花を渡すだけね)に集中もできた。
でも出番はそれだけなのかい?
むなしい。むなしすぎるぞ。

年が明けてからは小学生と合同でレッスンを受けることになったので、レッスン時間は2時間になった。
1月は見学日もなく、照明あわせのときまで仕上がりを見ることができなかったが、先生からは、
「Lくん。なんとかなりそうです。せっかくなんで出番も増やします」
と言われ、ほっと胸をなでおろす。

それまで衣装合わせだとかいろいろあったけど、全部すっ飛ばして、本番行きます!
発表会当日。白いブラウスに青のスパッツ、白いバレエシューズの衣装を着た息子。保育園児のくせにいっちょまえに前がモッコリしているのが可愛い。
女の子たちもそれぞれの衣装に着替え、今年、私は楽屋当番に任命されていたので、女の子たちの体に水おしろいをガンガン塗っていくミッションが課せられていた。
しかし見も蓋もないことを言ってしまえば、日本人が全身白塗りにしてなんちゃって白人みたいになってバレエをやるのって、本家本元のヨーロッパ人から見たら“なんだかなあ~”感ってないのかな。

そんなことをぼんやり考えていると、息子のギャーギャー泣き喚く声が聞こえてきた。
どうやらメイクするよっていう段取りになったときに、「ぼくは男の子だからお化粧はしないっ!」とぐずりだしたのだ。
困り果てた先生たち。結局先生が3人がかりで1時間半もかけ、息子を説得。
手間のかかるやっちゃなあ~。

しかしメイクを施された顔を見ると、あら~、可愛い♪
もう楽屋中、騒然で他のお母様方も「あら、素敵♪ 本当の王子さまみたい」と息子に大注目だ。
女の子たちは体中にも水おしろいを塗られて大変な思いをしているのに、ちょこっとメイクしただけの息子のほうにみんなの視線が向かう。
世の中って不条理よねえ~。

でも私の狙いはここにあったのだ。今の子どもたちはずっと過酷な競争に晒されなくてはいけない。
それはうちの子どもたちも例外ではない。
だからこそ長い人生の中で1回でもいいから競争率が異様に低い世界で(←そう、それがまさに子どものバレエにおける男の子の立ち位置!)、ちやほやされる醍醐味を味わってほしかったのだ。
どうやらその狙いはドンピシャだったようだ。

そして幕が開く。場所は芝公園のメルパルクホール。子どもたちのバレエクラスは百貨店内のカルチャーセンターに属しているので(←私のフラメンコも同様)、発表会はカルチャーセンターのほぼすべてのダンス系教室と合同でおこなう。
そういう事情もあり客席は超満員。数千人は下らない観客だろう。

果たして息子は無事に役目を果たすことができるのか?
いやあ~。ドキドキですわぁ~(←関西弁風)。

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