2010年11月10日水曜日

子どもたちのDVDデビュー②

 撮影場所は高級住宅街の中にあるハウススタジオだった。中には会社の担当者たち以外に、制作会社の人たちや出演するタレントの事務所のスタッフやヘアメイクやスタイリストもいる。気のせいかやたらとスタッフが多い。
 元々エンターテインメント系の仕事をしていた私にとっては懐かしい雰囲気だ。しかし今日の私の役割は子役モデルの付き添い、つまりはステージママ!
 気分はりえママか、はたまた美空ひばりのおっかぁさんか。(←安達祐美の子役時代のママ説もあるよなあ~)

 登場する子役モデルはうちの子どもたちを入れると全部で4人。当たり前だが4人のうち2人はうちの子どもたち! 重責だなあ~。
 スタッフの一人がうちの子どもたちを見て、「おっ、やっぱりハーフってかわいいな」と言う。
 そういわれるたびにゲンナリする。もちろん悪気があるわけじゃないことはよくわかっている。けど言われる親にしてみればハーフだからうちの子はかわいいんじゃなくて、私たちの子どもだからかわいいのだ。
「ハーフだから」という前置きには、なんかズルしているイメージというのか、「だからかわいくて当たり前だ」という前置きもいっしょについている感じがして、どうも素直にかわいいと言われている気になれないのだ。
私だけが被害妄想でそんなふうに思っているのかと思いきや、同じくハーフの子を持つ友人たちとその手の話をすると、「そうそうそう!!!」と激しく盛り上がる。
そんなこともあり、ついついそんなことを言ってしまいがちな人にこの場をお借りしてお願いしたいのは、冠の「ハーフだから~」という言葉はできたら呑み込んでほしい。ただ単に「かわいいね」とだけ言ってもらえればうれしいな。

 さて撮影に関する手順が説明される。子どもたちに特にヘアメイクだとかスタイリストはつかないので、手遊びとかジェスチャーを練習して覚えたらそのまま撮影開始となる。
 お姉さん役のアイドルの卵はなんと14歳だという。顔が小さくて細くて確かにかわいいけど、あまり華がない。
 歌だとか踊りだとか何か特別に秀でているものがあれば別だが、ただのアイドルだとかただの女優だかの道を歩むなら厳しいかなとエンターテインメント業界人の目で思わず観察してしまう。
 それでも彼女の顔の大きさは、並んでいる子どもたちとほとんど同じだ。うちの娘と並ぶと下手したらうちの娘のほうがデカイかも。誰よりも顔のデカイ私なぞは、絶対にこういう人といっしょに写真は撮られまいと固く心に誓う。

 はい。ここでさっそく問題発生。撮影前の練習ですでに息子は「やらないっ!」の一点張り。おい、頼むよ。まったく。
 子どもモデルの残りのふたりはそれぞれ3歳と4歳の男の子だったのだが、ちゃんと自分の役割がわかっているらしく健気に練習している。ふたりともどこかの事務所に所属しているわけではない素人さんなのだという。
 娘は元々やる気満々なので張り切って練習している。子どもたちの中では6歳と最年長で体もデカイのでみんなを引っ張っている感じだ。

 それに比べて我が息子よ。「ねえ抱っこしてえ~」と私にしがみついて離れない。
 ねえ、この中で君は2番目に大きいんだよ。
 「さあLくんもせっかくハンサムなんだからがんばってやってみようか」
 スタッフ全員で息子をおだてたりなだめたり持ち上げたりするが、息子は「出ないっ!」の一点張りなのだ。困ったのぉ~。
 私も「ここでがんばったら、あとでアイスクリーム食べさせてあげる」と食べ物で釣る。
 それでも息子は「いやっ!」の一点張りだ。

 ついに監督さんが「じゃあ、Lくんは抜き! 子どもは3人で行こう」と号令をかけると「イエーイ」と答えるうちのバカ息子。どうやら出なくてもいいということがわかって喜んでいる様子。せっかくのいいチャンスを棒に振ったことをわかってるのか? 息子よ。

 子どもたちが一生懸命練習しているところで、ふと気付くとニヤニヤしながらTさんの胸を揉んでいる息子。お前はセクハラおやじかっ! Tさんは我が社でも巨乳で有名なのだが、されるがままにされているTさん。
「ちょっとあんた、何やってるの! ごねんね~」と息子の手をはたき、Tさんに平謝りに謝ると、「いいっすよ。だってLくん、ハンサムだし」ときた。
 まじかよ。そんな問題か!? それにいい気になってずっとTさんの胸を触り続ける息子。ああ、誰かこの坊主をなんとかしてくれよ。(←それって親の役目だろうがっ!)

 そして撮影開始。そこでまたまた問題発生。なんとカメラが回っている本番中に、何を思ったが息子が乱入したのだ!
 「カットぉおおお!」と監督さん。
 「何? Lくん出るの?」
 「やだよ」と舌を出す息子。
 本番が始まると、何度も乱入を試みてスタッフたちから取り押さえられるのだけど、その手を振り切っては撮影を中断させる息子。
あんた、いったい何者?
ついに監督さんもキレ、「外につまみ出せ!」との命令が。
うちの会社の若手男子がおどおどと「ぼくが散歩に連れ出します」と息子の手を引き、スタジオから出て行った。
いったいなんなの? なんでこうなるの?
我が息子ながら?マークがいっぱい。
「赤すぐ」編集部からはたまたま声がかからなかっただけだが、こんな調子じゃあ子役モデルとかとんでもないよな。

対する娘はカメラが回ると絶好調で、練習のときより弾けている。なんと途中からはアイドルの卵を押しのけてひとりで目立っているではないかっ!
たくさんのスタッフに囲まれてスタッフたちも「いいねえ~」とか「Aちゃん、かわいいよ~」とかおだててくれるので、すっかりその気になっている!
すべてのシーンを撮り終わり、「お疲れ様でしたっ! もういいよ」と監督さんから声をかけられると、「ええ~!? もう終わり? もっと出てもいいよ」と名残惜しそうだ。

「あ~、楽しかったぁ~。またやりたいなあ。ねえ、マミィ、アイドルとかモデルってどうしたらなれるの?」
帰り道にハイな調子で聞く娘。
「う~ん、芸能事務所とか入るんじゃない?」
適当に答える私。
「じゃあ、事務所に入れてよ。どこにあるの? なんて名前のとこなの? それってジャニーズ事務所みたいなの?」
ジャニーズは男子しかおらんだろうが。
それにしても我が家では地上波のテレビをほとんどといっていいぐらい子どもたちに見せていないのにも関わらず、事務所=ジャニーズ事務所と結びつけるとは恐るべし未就学児だ。

 「マミィ、アイスクリームは?」
それに対する息子の反応だ。
「だめだよ。だって撮影でがんばってないもん」
「イヤア~!!! アイスクリーム!!! マミィ、“あとでアイスクリーム食べさせてあげる”って言った!! 嘘つきっ!!!」
 泣き叫ぶ息子。
 あのね、その前に“ここでがんばったら”っていう前置きがあったの! だからアイスクリームはなしっ!

 「アイスクリーム!!!!」
 「事務所入りたいっ!! アイドルになるっ!」

 子どもたちの要求の二重奏を聞きながら、「ハイハイハイ」と適当に答える私であった。

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