2010年11月1日月曜日

公立不信②

 「誰じゃぁ、うちのY介をボコボコにした罰当たりモンはっ!?」
 可愛い甥っ子がやられたと聞いて、むかっ腹を立てる私。
 「やったのはね、同じクラスの女の子の3年生になるお兄ちゃんなんやて。女の子がお兄ちゃんをそそのかしてやらせたんやがね」
 「どういうこっちゃ? 1年生のくせにどういうあばずれなんじゃぁ!? そいつはよぉ~」
 「教室でね、Y介が通ろうと思っとった通路にその子がおって邪魔やったらしいんやわ。で、“どいて”って言っても知らん顔されたもんで、“どけよっ!”って強く言ったらしいんやわ。で、その言い方が気に入らんかったらしくて自分のお兄ちゃんに“あいつ、しめたって”って頼んで、お兄ちゃんもひとりやと心細かったんかしらんけど、もうひとり悪いヤツ連れてきてそいつとふたりでY介をボコボコにして、影でその女の子が笑いながら見とったらしいんやて」
 「なんちゅう話や! まあそのお兄ちゃんとその友だちは単なるアホやけど、その女の子、末恐ろしいなっ! で、どうしたん?」

 「もちろん学校に行って担任の先生に話をして、その子らの親にも話してもらったんやけど、ウンともスンとも言ってこん。知らん顔されとる」
 「なんちゅう~、あきれた親じゃ。知り合いなん?」
 「元々顔は知っとるよ。母親はまだ20代前半で男と遊び狂っとるで、子どもほったらかしらしいわ。いわゆるネグレストってやつやね。どうしようもないあばずれなんやけど、最近赤ちゃんができたから家にはおるらしいわ」
 「絵に描いたような下流家族やなあ~。小3の子がおってまだ20代前半とは! で、赤ん坊の父親は誰なん?」
 「なんや彼氏らしいけど、彼氏も家に転がり込んどるみたいやよ」

 「延々と続く不幸の再生産ちゅう感じやねえ~。で、ウンともスンとも謝りにこんの、学校側はどうなわけ?」
 「完全に及び腰やて。その下流家族はそんな程度やん。やけどY介がボコボコにされたんは、学校内やから完全に学校の監督下でのできごとやろ。やけどあかん、学校側は私らに“すいませんでした”って言うだけで、なんもせん」
 「T(←私の弟)はなんって言ってるの?」
 「めっちゃ怒っとるよ。“うちのY介はお前んとこの薄汚いガキとは出来が違うんじゃ。バカタレが、この激安一家のくせによぉ”って」
 「お、本人に言った?」
 「陰で言っとるだけやって。あの人、そんな根性ない」
 「確かに。でもそれじゃあ収まらんやろ?」
 「そうや。学校は当てにできん。そういやあ千恵子ちゃん(仮名)覚えとる?」

 千恵子ちゃんとはRちゃんのママ友のひとりで、長男のS太朗の友だち朝也くん(仮名)のお母さんだ。
 ふたりは中学受験の同志で、お互い切磋琢磨し励ましあって受験に臨んでいる。
 私たちが帰省したときにうちでホームパーティーを開き、朝也くん一家と飲んだことがある。
 千恵子ちゃんは一見、元ヤンだ。何がすごいって目つきが鋭い。愛想もない。けどものすごく教育ママで、朝也くんの塾代の費用を捻出するためにスーパーのお惣菜売り場で毎日お惣菜を作っている。勉強もいっしょに子どもたちとやり、S太朗の勉強も見てくれて弱点なんかも教えてくれたりする。
 塾でいっしょだったことがきっかけになってふたりは仲良くなった。ふたりのタイプはまったく違うが、千恵子ちゃんは仲良くなればとことん面倒見のいい姉御肌なのだ。

 「千恵子ちゃんにもY介がボコボコにされた話をしたらえらい怒ってくれて、“よっしゃ、これから学校に行ってその小1のあばずれ、しめたろか”って言って、いっしょに学校に行ってきた」
 「ちょっと待て! まさか大の大人ふたりで小1の子になんかしたんか?」
 「うふふふ。お義姉さん、この顔見て」
 「うわぁ! なんや、これっ!」
  携帯に送られてきた写メール。

 Rちゃんは顔の筋肉をある程度自由自在に動かせる変な特技を持っている。私に送ってきたのは、なんとも壮絶な恐喝顔というか、ちんぴら顔というか、これ普通、子どもうなされるでぇ~というまったく本人の顔の原型を留めていない怖い顔の写真だった。
 
 「“あんた、よぉ、うちのY介におもろいことしてくれたなあ? 今度しょうもないことやったら、あんたもあんたのお兄ちゃんもわかってるやろなあ?”ってその子にこんな顔して言うたった。で、隣にはめっちゃメンチ切った千恵子ちゃん」
 「う~ん。そりゃあ怖いなあ~」
 「そのあばずれ、心底恐怖に歪んだ顔して震えとったわ。ま、しばらくY介も無事やろ。学校がなんもせんで、こっちも自衛せんと」

 なんということだ。私の母校はどうなってるのだ?
 とっても救いのない話を聞いて、かなり気が滅入った。
 これは公立云々は関係のない話かもしれないが、少なくても国立や私立にはそういった家庭の子どもはいないだろう。
 今後、同じようなことがうちの子どもたちの身の上で起こった場合、私にはRちゃんみたいに顔の筋肉を自由に動かせる特技もなければ、頼れる千恵子ちゃんみたいな人もいない。
 娘の小学校入学を控えて神経質になる私であった。

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