その日、私たち家族はテレビの前で全員きちんと正座して画面を見守った。
その様子は傍から見ればきっと、高度成長期の日本で初めてテレビを購入した家庭で(←しかも町内初!)で力道山とブラッド・プラッシーの戦いを固唾を呑んで見守る人々の姿を彷彿させたことであろう(←適当)。
私たちが待ちわびたテレビ番組とは、毎週日曜日放送のNHKの「のど自慢大会」。
この番組は1946年から続いているのだという。
これだけの超長寿番組なので当然何度か見たことはあるのだが、初めから最後まで通して見たことはこれまでなかった。
NHKの「のど自慢大会」といえば、演歌か浪曲というイメージが染み付いている。今のアラフォー世代以下で演歌や浪曲が大好きという人は圧倒的少数派だろう。
子どものころ、母方の祖父母の家に行くとおじいちゃんが好きでよく見ていたが、番組が始まると同時に私はテレビのある部屋を離れたし、うちの両親も昔は演歌とか浪曲を嫌っていたので(←今ではジャパネット高田で買ったホームカラオケで演歌ばかり歌ってるけどなっ)、実家でも「のど自慢」が始まると誰かが有無をいわさずチャンネルを替えるというのが習い性になっていた。
もちろん最近では演歌や浪曲ばかりじゃなくて、歌謡曲やロックなど歌われる曲の幅が増えてきていることも知っていたけど、いかんせん所詮素人である。
素人でもある水準以上の人を時間もかけて見せる「アメリカン・アイドル」みたいな番組だと見ごたえもあるが、1フレーズ、2フレーズで鐘が鳴った段階でおしまいみたいな感じはなんとあわただしく、また出る人の水準も相当いまいちで野暮ったいというのが「のど自慢大会」に対するイメージだった。
それなのにである。
どうして私たち家族が正座までして「のど自慢大会」の始まるのを待っているかというと、なんとHANAちゃんが出演することになったからだ。
HANAちゃんはうちの会社が運営委託されている施設の職員として働きながら、歌を歌っている。
もちろんプロとしてデビューできて歌1本で食べていければそれに越したことはないけど、現実はなかなか厳しい。
同じようなことを考えている人がゴマンといるのに、音楽はダウンロードするものという風潮の中で肝心な市場は収縮している。
それでもHANAちゃんが歌うのをやめないのは歌わずにはいられないからだろうし、何よりも好きだからだろう。
この場合の「好き」というのも、歌を歌っているときが楽しいからだとかそういったレベルのものではなく、歌のためなら徹夜が続こうがどんな労力があっても構わない、これをやっていないと死んでしまうというレベルのものだと思う(←HANAちゃん、違ってたらごめんねっ)。
当然ゴマンといるライバルたちから頭ひとつ抜きん出るために、虎視眈々とチャンスを窺うことになる。
そこでやってきたのがNHKの「のど自慢大会」への出場というビッグチャンスである。
果たしてHANAちゃんはチャンスをモノにすることができるのか!?
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