SG会の送迎の段取りで、みっちゃん(仮名)とヒロキ(仮名)がいったん、焼き鳥やを出て、私とタケル(仮名)が残される。
うちも子どもたちを幼児教室(←お受験塾ではない。月謝はSG会の基本料金の10分の1!)に夫が連れて行っているので、終わり次第、子どもたちも連れて合流してもらうことになっている。
「学校説明会に行って、なんでそのまま飲みに流れるわけ!?」
電話口で夫が呆れている。そりゃそうだ。
それはタケルのところも同じらしく、妻の洋子(仮名)もメンツ的にこんなことになるだろうなと予想していたそうだ。
取り残された私たちはチビチビとビールを飲みながら、
「どうよ。タケル。毎晩マクドナルド」
「ねえさんこそ。月20万円っすよ。ああ~、俺、ぜってぇ、無理! 無理無理。そこまでやんなきゃいけないんだったら、いいやって感じっす」
「そうだねえ~」
などとしみじみしてしまう。
そうこうしているうちに、白いブラウスと紺のスカートやズボンといういわゆるお受験スタイルの雪美ちゃん(仮名)を連れたヒロキ(仮名)と、陽太(仮名)を連れたカズヒロ(仮名)が戻ってくる。
「なんだよ、こんな楽しいところで集まっちゃって。光子は帰したから、代わりに俺、来ちゃったよ」
と単なる酒好きのカズヒロ。飲みと聞くといつもめちゃくちゃ幸せそうな顔をする。
「どうよ、子どもたち。勉強は?」
ジュース! ジュース!とはしゃいでいる陽太と雪美ちゃんに声をかけると、バッチリだよ、とか、楽勝だねという言葉が返ってくる。
マジかよ。
「ちょっとプリント見せてみ」
とプリントを見ると、何やらパズルみたいなものとか、回転図形のようなものがぎっちり書かれている。
酔っ払っているせいか、意味がよくわからない。
「タケル、これわかる?」
どれどれという動作をしたあと、プリントをチラッと眺め、
「なんっすかね、これ?」
と“アイ・ドント・ノー”と外国人がやるジェスチャーをするタケル。
ガーン! やばくない? 私たち。
小学校受験の問題も解けないのか?
「はいはい、勉強は終わり終わり。飲む飲む飲む!」
と上機嫌でプリントを取り上げるカズヒロ。
「陽太くん! 雪美ちゃん!」
とそこでやってきたのが我が子たちと夫。
「まったく信じられないよ。なんで飲んでる? こんな時間から」
と呆れ顔の夫。
いわゆる幼児教室というところに通っているうちの子どもたちのプリントを見比べると、計算だったり文字の書き方だったり、小学校の予習的な意味合いのものばかりだ。
まあ、こっちはなるほどねぇという感じだ。
ちなみに小学校受験は子どもたちが文字を読んだり、書いたりできないという前提で行われるため(←いまどきそれはないだろっ!)、問題が読み上げられて該当するものに○をつけたり、記憶力を試すような内容が多いのだという。
つくづくお受験塾で習うものはちょっと特殊なんだと思う。
この特殊な問題を解く能力が高い子がお受験を制するのだろう。
ひゃあ~、それってどうなわけ?
勢い余ってそのまま池袋の西口から東口に抜けて、カラオケにでも行くかと夕方の雑踏を歩き出す。
外はビルの群れの谷間に見える大きなオレンジ色の太陽がゆっくりと傾き始めている。
石田衣良の人気シリーズでおなじみ「池袋ウェストゲートパーク」の舞台、西口公園はものすごい人だかりができている。
なんでも民主党の鳩山代表自ら、これからここで最後の応援演説を行うのだとか。
「政権変わるかね? 明日」
誰ともなしに呟く。
「ここまできたら、そりゃそうでしょ」
「明日選挙行く?」
「今回は行くでしょ」
などと話をしながら、東口を出るとこれまたパルコと西武百貨店の前の交差点のところには日本の国旗がはためいていて、人、人、また人が溢れている。人数だけいったら、西口より多いかもしれない。
「こっちはなんだ?」
西口、東口ともものすごい熱気と戦いを前にした緊張感に包まれている。
「東口には麻生さんだって!」
「マジ!? 小池さんの応援?」
「ビッグだねえ~」
そう言いながらカラオケに向かう私たち。
私たちは自民党の選挙カーに背を向けて歩き出す。
どこが政権をとっても子どもたちが生きやすい未来を作ってほしい。
ちゃんと教育のことを考えてほしい。それを政策に生かしてほしい。
教育政策に不満があるから、公教育を避ける保護者が出てくる。だからこそお受験がブームになる。
お受験に対する温度差はあっても、ここにいたメンバーはすべて子どもたちの未来に幸あれと祈るような気持ちで願っている。
お願いしますよっ! 政治家のみなさん!
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