2009年4月16日木曜日

本田君(仮名)の反応

2月のOB会以来、T書店の本田君(仮名)と某出版社社長の同期の森田(仮名)に書いたものを見せるという当座の目標というか、約束事ができたこともあり、私の執筆のペースはアップしていた。
おおよそ5万字ほど書いたことろで本田君(仮名)と森田(仮名)に送ってみた。もちろんその前にHANAちゃんにも読んでもらい、さんざん「おもろい!」と褒めてもらって意を決して送ってみたのだ。
HANAちゃんに読んでもらうまで、推敲に推敲を重ねたというと聞こえがいいが、書いても書いても思い切りがつかず、少し書いては書き直し、全然進まなかった。ましてやプロの編集者に読んでもらおうだなんてとんでもないことだった。
けどHANAちゃんに、
「これでいいです。これがおもろいんですよ。このままいってください」
と背中を押し続けてもらって、ようやく弾みがついて書くことが楽しくなってきたのだ。
 ふたりに原稿をメールして2時間ほど経ったころ、本田君(仮名)から携帯に電話が入った。ちょうど外を歩いている時だった。3月中旬の柔らかい空気が心地よく私を包んでいた。
「やっと原稿送ってくれましたね。全部読みましたよ。それで電話したんです」
 うわ~、なんて言われるんだろう。
しばらく待たされてこの程度かよ、ちぇ!
なんて言われたら立ち直れないよなあ。さすがに後輩の本田君(仮名)はストレートにそんな失礼なことは言わないと思うけど、ドキドキと心臓の鼓動が速くなるのを感じる。
何か言われる前からあれこれと思い浮かぶ。そのすべてが言いわけだ
時間がないから。書ける環境にないから。まだ考えがまとまっていないから・・・・。
ああ、送るのまだ早かったのかなあ。もっと推敲してもっと練ってから送ったほうがよかったんじゃないか。
しかし本田君(仮名)の第一声は意外なものだった。
「清永さん、あれいいですよ。めっちゃおもろい。これ絶対に最後まで書いてくださいよ」
「え、ほんと?」
「これほかの編集者にも見せます。もしかしたら携帯小説とかそういうのにしたほうがいいかもしれない。うちの会社に携帯小説でけっこうヒット飛ばしているヤツがいて、彼とは仲が良いんで彼にも回しますよ。これいけますよ。けど清永さんにこういう才能があるとは意外だったな。この短い文体がいいですよ。独特なリズムになってるし」
うわ! これって褒められてるの?
「これマジでいけるかもしれない。書いたらドンドン送ってきてください。しかし清永さん、ここまでよく書きましたね」
「よく書いたとは?」
「その他にもつきあっていた男のことですよ」
「ああ、そのへんは小説ですから」
「またまた~。まあ、小説だということにしておきます。もっとまとまれば営業とも話をしますけど、何か売れる手立てを考えないとね。普通の小説っていうんじゃなくてさっきも言ってた携帯小説とか何か売りがないと」
 え、営業とも話をするっていうのは本当に出版とか考えてくれてるんだ! その後も本田君(仮名)はあれこれと細かい描写にも触れ、基本的には褒めてくれていた。
私も編集者だったことがあるから営業を説き伏せて本を出版するむつかしさは身にしみてわかっている。
ましてや著者が無名の新人だったらなおさらのことだ。おりしも数年前から吹き荒れている出版不況である。
どこの出版社も青息吐息で、倒産する出版社だって出てきている状況だ。
そんな中で本田君(仮名)が出版化を視野に入れて考えてくれているのはとってもうれしいことだけど、何よりも彼がちゃんと私が書いたものを読んでくれていて、おもしろいと褒めてくれたことが励みであり喜びだった。
本田君(仮名)との電話を切ったあと、私はかなりルンルンとした気分で過ごした。
このままの調子で書き続ければいいんだ。私の頭の中では小説に出てくる人物が鮮やかに動き出した。
「すごいやないですか! そんなプロの編集の人に褒めてもらえるなんて! いったいいつ出版されるんですか?」
本田君(仮名)から言われたことを翌日HANAちゃんに話すと彼女は大興奮し、すごいすごいと連発していた。
「まだ完成もしてへんのやから。出版なんてできへんって。それにそういう話はそうすんなりといかんもんなんやから。とりあえずこのまま書いて完成させて、それからどうなることやらって感じになると思うよ」
「そんなもんなんですかね? ああ~、清永さんの本が出版されたらめっちゃええわ。私も歌頑張ろうって励みになるもん。じゃあこのままガンガン書き続けるしかないですね。とにかく続きが出来たら真っ先に読むのは私ですからね!」
そういってHANAちゃんはひまわりのような明るい笑顔を見せた。

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