2009年4月19日日曜日

泰子(仮名)の場合③

「銀座の先生のところにね、真美ちゃんも連れてったわけ。だってさ、肝心な受験のときにテツがいないんだよ。特に私立なんてさ、面接のときに両親が揃ってないと話になんないのに、テツったら出ていったきりで、主人は今日、どうしても仕事が抜けられなくってって言ったところで私立はそんなのアウトなんだよ。テツなんていつでも離婚してやるけど、するなら受験のあとだよ」
「へえ~、そういうもんなんだ。でも先生に受験のことを聞いたんでしょ?」
「そうだよ。正直言ってテツのことなんてどうでもいいもん。メインは受験だよ。それでね、先生が真美ちゃんが制服を着ているのが見えるって言うのね。で、制服の絵を描いてもらったんだよ。けどね、その制服のところはかなりありえないわけ」
「ありえなくても心当たりはある?」
「うん。でね、その制服のところはありえないって言ったわけ。けど先生はその制服が見えるって言い張るんだよ」
「で、なんで心当たりはあってあり得ないのよ?」
私はわけがわからずちょっといらいらとした声を出してしまう。
その声のトーンに泰子も反応してしまったのか、彼女は一呼吸おいて言う。
「だってその制服ってどう考えてもO女のなんだよ!」
と泰子は国立の付属幼稚園の名前を挙げた。
そう言われてもピンとこない私だ。
「それって大した意味があるの?」
「もう! 美央さんって信じられない。本当に受験のこと何も知らないんだね!」
「だって私にとっては泰子ちゃんがお受験ママ№1なんだから!」
私の言葉に泰子はものすごく整った顔を一瞬ゆがめ、
「あのね、世の中のお受験ママっていうのはこんなもんじゃすまないの。すごい人は受験のために年間何百万とかけるんだから。夏期合宿とか模擬試験とかあるの知ってる?」
と私を憐れむように尋ねる。
そんなもん、知るわけねーよ! なんだよ、幼児のうちからそんなもの。

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