2009年4月19日日曜日

泰子(仮名)の場合①

泰子(仮名)は近所のママ友でもあり、私と娘のピアノの先生だ。
 彼女は私より4歳年下で、お互い妊娠しているときに共通の友人の結婚式で偶然、隣のテーブルに座っていた。
ひょんなことから私たちの家が歩いて数十秒しか離れていないことに気づき、それ以来の付き合いだ。
実家が資産家の彼女は中学から某有名音大の付属に通っていて、音大を卒業してからはピアノの先生になり、外で働いたことがない。
私の周りには今までひとりもいなかったタイプだ。
前の会社は意外とお嬢様、お坊ちゃまが多かった。けど同じお嬢様でも実家がいかにお金持ちで由緒正しかろうが上昇志向と独立心とキャリア志向の強いお嬢様ばかりだった。
それに引き換え泰子(仮名)やその音大時代の友人たちは、お金は親やダンナが稼ぐものという感じで誰も就職していない。知的好奇心も独立心もなく、口を開けばブランドものやお金の話ばかりしている。
本来だったら私の苦手なタイプのはずだか、あまりにも今まで周りにいなくて珍しいのか、かえって新鮮でピアノを習っていることもあって私と泰子(仮名)は結構仲良しだ。
泰子(仮名)にとっても正社員で働いている女性の友だちは私が初めてだという。
そんな泰子(仮名)が悩んでいた。それはダンナのテツ(仮名)のことだった。
ふたりにはうちの娘と同い年の女の子がひとりいるが、彼と彼女の実家の両親とソリが合わず、彼の仕事などをめぐって大ゲンカになり、テツ(仮名)がぷっつり切れて「離婚してやる!」と捨て台詞を残して出て行ってしまったのだ。
私たちはレッスンのあとにいつもしばらく世間話をするのだが、銀座の先生のところに行った話は以前彼女にもしていた。彼女はすぐに食いつき、お友だちで離婚したがっている人がいるから紹介してほしいと言われて、紹介したことがあった。
泰子(仮名)によるとそのお友だちも「すごく当たってた!」と喜んでいたという。それから少ししてから、
「銀座さあ、私も行ってきたよ」
泰子は弾んだ声で言う。
「テツのこと、診てもらったんだ? どうだった?」
「うん、前に美央さんの会社のお友だちが離婚線を入れてもらった話してたでしょ? もし私とテツの間もこじれるようならすっきり離婚線でも入れてもらおうと思ってたんだけどさあ、いきなり先生ったら紙に“離婚決定!”って書くんだよ」
「決定なんだ?」
「うん、全然OKなんだって。あとは何十年後かにパートナー的な男性が現れるけど、結婚はしないって」
「へえ~。あとは何を言われたの?」
「あとうちの真美ちゃん(仮名)、受験じゃん」
「ああ、そうだよね。あ! もうどっか決まったんじゃないの?」
「そうなんだよ。実はさあ」
 このあとの話が驚きだった。

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